表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わくわくウィンターアタック  作者: 中川 篤
第一夜 冬の日の夜に
3/22

3話 すずらん通りにて



 僕には、こうした状況(じょうきょう)への心構(こころがま)えがいくらか(そな)わっている。

 僕はいたって冷静(れいせい)だった。大体の僕は冷静だ。いつもならまずは交番(こうばん)をさがし、そして事情を聴かれる、それからなんとかやり通す、このパターンだ。警官は今頃困(こま)っているだろう。警官など嫌いだが。


 けどそんな不安な時間は、わりと(みじか)く終わる。


 思いがけず、池田さんの方から僕を見つけに来たのだ。池田さんは()がり(かど)からやってきた。

 向こうは心配(しんぱい)していたらしい。僕の姿を見ると、ほっと息をなでおろし、「無事(ぶじ)か……よかった」そう言った。


 ぼくはそれに「はい」と、やっぱりそう答えた。すこし温かい。厚着をしているからだ。僕は服を脱いだ。書店(しょてん)の並ぶ通りに行き、池田さんがそこで本を見て回った。書店はクリスマスセールで、店の(たな)にはクリスマス関連(かんれん)の本が並んで……いない。

 聞いたことのない出版社(しゅっぱんしゃ)の出している、地方の本ばかりがそこにはならんでいた。池田さんはここで資料を買いに来ることが多いという。


 書店の店員に僕の苗字を告げると(割と変わった苗字(みょうじ)なのだ)その名字の作家(さっか)がいないかどうかを店員に池田さんはたずねた。店員はすらすらと二、三の作家をあげたが、表紙(ひょうし)の裏に写った本の写真に両親はいなかった。


 「いないか」

 「はい」

 「だめか」

 「はい」


 それから別の店に入ると、店員が、


 「なにか、お探し物ですか?」と、たずねる。

 「じつはこの子の両親を探しているんですよ。おそらく作家関係じゃないかと思ったんですが、あくまでも仮説ですが、この線は駄目(だめ)そうですね」

 「警察の方ですか?」

 「ええ、じつは」


 池田さんはこれまでの事情(じじょう)を話した。書店員はピンと来たのか「一年前の本なのですが」と言って本を取り出してきた。

 「この本に書かれている記述(きじゅつ)は、ひょっとして参考(さんこう)にはなりませんか?」


 池田さんは、それは参考になると言い、書店員に(れい)をのべ、本を買い、近くのカレー屋に入って入手した本を広げた。

 本は、ノンフィクションだった。サイン本だ。両親や土地の記述は(みょう)にぼかされていたが、僕には覚えがあった。一年前、人が僕に話を聞きに来たことがあったからだ。多分その人かもしれない。僕は妙に興奮(こうふん)して、やっぱり「はい」と、答えた。


 池田さんは電話をかけ、「出版社の方に問い合わせてみたら、このノンフィクション本の著者と話ができることになったよ。そうなれば君の家もすぐにわかるな」と、笑った。

 それはいいことなのか。おそらくいいことなのだろう。僕にはわからない。でもなぜか、僕は張り切る気になった。



 その日は電車とバスを乗り()いでふたたび葉山に(もど)り、池田さんの家の食事を、今晩もごちそうになった。

 夕食は刺身とわかめのみそ汁、それと近くの山で採れた山菜(さんさい)小鉢(こばち)だった。どれもみなおいしく、警察の家で厄介になっていながら悪いとは思いながらも、僕はそれだけでは足りず、夜、こっそり抜け出して、近くのコンビニまで買い食いに向かった。


 ここにいつまでもいたい。


 コンビニは集団(しゅうだん)暴走(ぼうそう)のたまり場になっていた。コンビニのすぐ前で、チキンをソフトドリンクと一緒にほおばり、ちょっとしたパーティーを開いているようだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ