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わくわくウィンターアタック  作者: 中川 篤
第一夜 冬の日の夜に
2/22

2話 すずらん通りへ



 それからというもの僕と池田さんの、僕の両親を探す旅が始まった。タダ先生に連絡してもなぜか不在(ふざい)がつづき、そして僕はまともな答えをすることが出来ない。


 池田さんは親切だよ。


 しかし両親と暮らしていた場所を覚えているのは確かなのだから、ということで神奈川(かながわ)近郊(きんこう)の町を僕らはめぐる。

 そこに僕の記憶のある景色があれば、ボクが池田さんに合図(あいず)する、なければ別の町に移動する、という方式。

 しかしどこを探しても僕の記憶にある風景(ふうけい)はない。では都内(とない)は? ということで都心(としん)に捜索の手を伸ばしてみたが、そこにも覚えている景色(けしき)はなかった。

 いや、知っているような、ないような景色は一応あった。僕の家にもテレビはあったし、テレビをつければ、大抵は東京の風景が(うつ)るものなのだから。というより僕は、本当に帰りたいのか?


 そんな訳がない。


 「ないか」

 「はい」

 「ないかあ」



 師走(しわす)。古い十二月の呼び名だが、その日は太陽が雲間(くもま)にかくれ、僕らは寒さに(ふる)えながらコートのえりを深くし、僕の記憶(きおく)をもとめて、(まち)から街をさまよっていた。


 保護者の顔をしたような池田さんに連れられて、都心の街を歩くのはみっともなく感じられた。どうしても、恥ずかしい。

 池田さんも池田さんで学校の教師のような服をわざわざ選んで着ている。


 ちなみに、都心の電車はやけに(あたた)かかった。暖房(だんぼう)設備(せつび)が行き(とど)いているのだ。

 それに、電車の中には情報(じょうほう)を映し出す広告(こうこく)テレビがあって、それを見るだけでも時間がつぶせた。山手(やまのて)(せん)など何周回ったかわからない。


 三田(みた)(せん)神田(かんだ)の辺りで池田さんが僕にきいた。


 「この辺にはないか」


 僕は「はい」とは言わず、ただ(うなず)いて返した。投げやりな気持ちで。池田さんは「そうか」と言った。

 それから僕と池田さんは捜査(そうさ)の手を変えた。池田さんは僕の両親がおそらく名のある人物でないかという仮説(かせつ)を立てた。僕にはそれはわからない。僕は両親の仕事を一度も見たことがないし、仕事の話さえ聞かされたことがなかったから。

 それで僕と池田さんは神保(じんぼう)(ちょう)にある有名な書店街(しょてんがい)に向かおうということになったが、そこには行かなければよかったと僕はあとで思った。そこに行くまでのほんの少しのあいだに、僕は池田さんとはぐれたので。


 後ろから池田さんの声が聞こえたような気がして振り返ると、そこには似たような建物が広がっていた。池田さんの姿(すがた)はどこにもない。


 どうしよう?


 「おーい」と、池田さんが僕をよび。僕も「はい」とそれに返した。そして声の方へ向かって歩いたが、そこには池田さんとよく似た服装(ふくそう)の人がいただけで、だれもいなかった。




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