2話 すずらん通りへ
それからというもの僕と池田さんの、僕の両親を探す旅が始まった。タダ先生に連絡してもなぜか不在がつづき、そして僕はまともな答えをすることが出来ない。
池田さんは親切だよ。
しかし両親と暮らしていた場所を覚えているのは確かなのだから、ということで神奈川近郊の町を僕らはめぐる。
そこに僕の記憶のある景色があれば、ボクが池田さんに合図する、なければ別の町に移動する、という方式。
しかしどこを探しても僕の記憶にある風景はない。では都内は? ということで都心に捜索の手を伸ばしてみたが、そこにも覚えている景色はなかった。
いや、知っているような、ないような景色は一応あった。僕の家にもテレビはあったし、テレビをつければ、大抵は東京の風景が映るものなのだから。というより僕は、本当に帰りたいのか?
そんな訳がない。
「ないか」
「はい」
「ないかあ」
師走。古い十二月の呼び名だが、その日は太陽が雲間にかくれ、僕らは寒さに震えながらコートのえりを深くし、僕の記憶をもとめて、街から街をさまよっていた。
保護者の顔をしたような池田さんに連れられて、都心の街を歩くのはみっともなく感じられた。どうしても、恥ずかしい。
池田さんも池田さんで学校の教師のような服をわざわざ選んで着ている。
ちなみに、都心の電車はやけに暖かかった。暖房設備が行き届いているのだ。
それに、電車の中には情報を映し出す広告テレビがあって、それを見るだけでも時間がつぶせた。山手線など何周回ったかわからない。
三田線。神田の辺りで池田さんが僕にきいた。
「この辺にはないか」
僕は「はい」とは言わず、ただ肯いて返した。投げやりな気持ちで。池田さんは「そうか」と言った。
それから僕と池田さんは捜査の手を変えた。池田さんは僕の両親がおそらく名のある人物でないかという仮説を立てた。僕にはそれはわからない。僕は両親の仕事を一度も見たことがないし、仕事の話さえ聞かされたことがなかったから。
それで僕と池田さんは神保町にある有名な書店街に向かおうということになったが、そこには行かなければよかったと僕はあとで思った。そこに行くまでのほんの少しのあいだに、僕は池田さんとはぐれたので。
後ろから池田さんの声が聞こえたような気がして振り返ると、そこには似たような建物が広がっていた。池田さんの姿はどこにもない。
どうしよう?
「おーい」と、池田さんが僕をよび。僕も「はい」とそれに返した。そして声の方へ向かって歩いたが、そこには池田さんとよく似た服装の人がいただけで、だれもいなかった。




