10話 急転直下
京急線の四人乗りのボックス席を三人で占拠し、
窓際の席で命は寝てしまい、すると徹がおもむろに口を開き、心の丈を僕に述べた。
「俺さ、お前には割と感謝してんだよ……命とはこの頃うまくいかなくってさ。会えば必ず、口げんかばっかだった。そこにお前が現れてさ……間を取り持ってくれたというか、緩衝材?みたいなのになって、お前を家に連れてってやるっていう目的で、今は、命とも一時休戦状態でさ。だからさ、正直、この状態が壊れるのが俺、怖いんだよ。そしたら命は愛想尽かしちまって、そうじゃなくても、また働けっていうかもしれない」
「はい?」
「働きたくねえんだよ……働くのが怖いんだ!……俺……俺、どうすればいいかな?」
僕は徹に何と言えばいいかわからなかった。けど、やっぱし働いた方がいいんじゃないかとは思った。
「それにあいつ、俺と付き合いだしてから熱をあげてた大学のスポーツがだめになってくんだ。あいつの大学の監督から、いろんな奴から、俺さ、よく言われるんだ。あいつに近寄るなって。命は気が強いから、そう言われるたびに逆に突っぱねるんだけど、俺はあいつの人生を駄目にしてるんじゃないかって時々思うんだ……」
フツーってなんだろ?
三十分ほどして到着すると、それでも徹は元気になり、
「オッ、ついたぞ!」
「はい」
「起きろよ、命。海が近いぜ」
「うん……」
病院にやってきてすぐに命が異変に気付いた。病棟の周りをぐるぐる回る患者。動物のような叫び声。「何だか怖いわ……」
「こういうのって、やっぱ、うまく隠蔽されてるんだな。だからこういう辺鄙な場所にあるのかも。なんていうかさ……すっげー不気味な何かに近づきつつあるような気がして、むちゃくちゃ気分が悪いな。闇……というかさ。そんなものは知らなくてもいいことなのかもしれねえし、知るべきことなのかもしれねえけど、少なくとも、この中には入りたくないな」
「ねえ、キミ、大丈夫? さっきから肩を気にしてるけど」
「はい」
「徹も。何か隠してない?」
「いや。ぜんぜん」
三浦市の突端にあるその精神病院にやってきて、受付で待っている間にそれから事件が起こった。僕の右肩が暴発したのだ。全身発作だ。ああ、やっぱり。しかもちょうどよくそこは精神病院だったので、僕はすぐさま中に運ばれて、それから入院する運びとなった。




