入学
「もうすぐ着きますよ」
外の景色に目もくれず、助手席でうたた寝していた俺は、運転手の小田さんの声に意識を戻す。
「……はい」
前方にこれから通う学校が見えてきた。
そしてサイドミラーに写る自身を見る。
「何て顔をしているんだ……」
身だしなみを気にしながら
反射した自分の姿を見て呆れた。
光の無い灰色の目に、
白メッシュの黒髪パーマ。
「はぁ」
自分の姿はいつ見ても好きになれない。
______校門前
「これからしばらく連絡は取れません。どうか……お元気で」
「ありがとうございます。小田さんこそお元気で」
「はい。次に会うのが楽しみです。
……気をつけてくださいね」
「大丈夫ですよ。心配しないでください」
不安な顔をした小田さんを見送り、学校の方を見る。
「ここか」
ここは、日本から離れた場所に建てられた巨大人工島、
新人類育成都市。通称"新成都市"。
ここには様々な"異能力"を持つ少年少女たちが切磋琢磨している。
そして俺が今から通うのは"黒百合高等学校"。
プロアスリートやアイドル。その他著名人も多くここに通っていたらしい。
なんでも夢を叶えられる場所なんて言われている。
「夢、か」
俺には大層な夢はない。
「あの子可愛くね?」
「だよなぁ!」
「マジでそれ!」
何やら男子が騒いでいるようだ。夢中になっている方を見ると、そこには凛としている外国人?の女子生徒がいた。
ハーフアップの銀髪にサファイアのような青い瞳を持ち、小柄で整った顔立ちをしている。
「すごい人気だな。ん?」
ジーッと見ていたわけじゃないが、彼女がこちらをチラリと見た。気がする……多分。
さて、そんなことより急ごう。
______教室
配属された先は事前に分かっているのでそこに向かった。
ここは一年A組。席は窓側で一番後ろの席。
既に何人かの生徒がいるようだ。
「ん?」
先程見かけた銀髪の女子生徒が席に座っていた。
同じクラスだったとは。というか隣の席か。
とりあえず席に座り、窓の方を見つめた。
「…………」
隣人とかは話しておいたほうがいいよなきっと。
小田さんが言うには、
初動が大事。タイミングを逃すと大変。
そして仲良くなるコツは、とにかく恐れずに話しかけること。だそうだ。
そういう経験がない俺には中々難しいが、
やるしかない。
「あ、あの…………」
声をかけたが、よく見ると彼女は目を閉じている。寝てるっぽいな。
ヤバい……めちゃくちゃ恥ずかしい。
「…………はい」
目を開けた彼女は物静かに応えた。
反応してくれた!?
えーと、次になんて話すんだっけか。
「起こして悪い。えっと…………俺は桐生颯斗。よろしく」
「イヴ=ロマノフです…………よろしく……お願いします」
「日本語上手だな」
「出身は日本なので」
「そうなのか……」
「はい」
「…………」
「…………」
ヤバい。話が続かないな。いや、そもそも眠そうだし、今は話さないでおこう。
「とにかくよろしく」
「はい」
「はぁ」
誰にも聞こえないくらいの溜息をつき、自身の
コミュ力の低さを痛感した。それに加え、話しかけるタイミングも悪い。
少し落ち着こう。まだ慌てる時間じゃない。
よろしければ……もしよろしければ、
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