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飛空機構都市ワスレナ  作者: 00000‐忌210220‐00000
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 夜の帳が降りる。薄暗く埃っぽい部屋が、より深く闇に包まれた。

 待ち望んだ夜。この瞼を閉じれば、その瞳には別の世界が映っているかもしれない。

 夢の続きが見たい。たったそれだけのことなのに、期待と緊張で眠れなかった。


 あれからしばらく夢について調べたが、不特定多数が同じような夢を見るような事例は極めて稀であることがわかった。あるにしても、同じ体験をしているなどで何かしら個人間に関わりがある。

 私は通信制VR学校に通う身だが、必要な時以外はほとんど外出をしない。買い物すら通販で済ませるような私と、夢に見るほど同じ体験をした人がいったいどれほどいるのだろうか。私が知る限り、そんな人物は存在しない。

 ましてや夢に見たのが心当たりもない純白の世界となれば、私の考えが見当違いなのは明白だった。

 いつまでも考えていても状況は変わらない。そういえば、この夢について調べている人は今なにをしているだろうか。似たような体験をしたであろう人々からの聞き取りを続けているのか、すでに原因に見当がついているのか。真実のほどは定かではない。

 そうこう考えているうちに相当な時間が経過していたようで、思考が曖昧になりつつも待ち望んだ眠気に身を任せたのだった。


 意識が覚醒する。静けさと冷気に包まれた空間は、半日ぶりなのに懐かしく感じた。状況を確認しようと状態を起こし、首が動く範囲に留めてあたりを見渡す。

 1つのみ心許なく吊るされた電球も、窓すらない小さな部屋も意識を落としたその時のままだった。

 しかしそんな中唯一違う点があった。


「これは……なんだろう?」


 形状し難いものが部屋の中央にポツリ。古い蓄音機のような見た目をしており、やたらと背が高い上にホーンにあたる部分はユリのような桃色の花型をしている。花弁の奥から覗いている無数の配線と電極が雄蕊のように伸びており、不気味さを増幅させていた。

 電球に照らされて鎮座するその機械は、空間に溶け込むように鎮座していた。調べてくださいと言わんばかりの怪しさだが、下手に触って壊してしまうのも良くない。ここはおとなしくしておくべきだな。かなり気になるけど気にしないことにしよう。


 しばらく変な機械を眺めていると部屋に見覚えのある白い躯体、機人族のマナが入ってきた。


「今回は、起きていらっしゃるのですね。あまりにも休眠状態が長いようでしたら、寝ている間に情報を吸い出すことになっていたのですが。ならなそうで良かったです」


 開口一番に微笑みつつも物騒なことを言うマナ。このままこっちの世界に戻っていなかったら一体なにをされたんだ。

 マナは部屋に入ってすぐに中央に置いてある謎の機械の確認をしていた。そんなに調べなくてもなにも弄ってないのに、入念に点検をしている様子。もしかして使うつもりなのか?


「では改めて、あなたの所属都市と機構についてお聞かせください。任意での聴収はこれが最後となります。もし、お答えいただけなかった場合には……お分かりですね?」


 そう言ってマナは機械に手を添えた。言わずもがな、これを使うのだろう。こうなれば仕方ない。正直に話してしまおう。


「こんな姿をしているが、私はれっきとした人間だ。所属都市なんて知らないし、機構ってやつもわからないんだ」


 予想外の回答だったのか、マナの表情には困惑の色が見えた。まさに衝撃的な出来事に直面した人の顔をしている。型番で自己紹介をしてくるような奴だ、人間だなんて言われても困るだけだろう。

 混乱しているのか、目を泳がせて今後の対応を考えているようだ。


「自身を人間と名乗る機構に遭遇した場合、私の一存で処遇を決定できかねます。上位機構に報告し、身柄を保護します」


 きっぱりと言い放ったが、要は丸投げだ。それにしてもこれほど困惑されるとは思わなかった。機械なのにマニュアルとか無いのだろうか。

 マナはそのまま部屋を退出していった。きっと上位機構とやらへ報告に行ったのだろう。そこは機械らしく通信で済ませて欲しかった。

 こうも何度も放置されると、退屈で仕方がない。部屋にあるものと言えば変な機械と電球と寝台のみなので、何か娯楽になりそうなものすら見当たらない始末。

 暇になったので、自分の体をくまなく調べてみることにした。まずは手足を見てみるが、弾力はなくやはりつるつるとした感触をしている。手先の方まで硬質な感覚があるのに、しっかりと触覚はあった。

 次に胴体、首回りを撫でてみる。こっちは継ぎ目があり、間接部分から微風が漏れているのが分かった。ほんのり暖かな風なので、機械の冷却なのかもしれない。首から頭頂部にかけては、不自然なくぼみがあったためにこれを引っ張る。すると中からはこれまた謎の物体が出てきた。手のひらに収まるような大きさだが、首回りに収納されているのってかなり重要なものなのではないだろうか。身の危険を感じたのですぐにもとの場所に戻した。

 顔や頭の方はどうなっているのか全く分からなかったが、頭頂部までつるつるしていたのは確認できた。


 それから、ずっと気になっていた頭に響く声について少し試してみたいことがある。


「ショートカットメニュー、ログオフ」


『ショートカットメニュー‐ログオフを実行しますか?』


 先日意識が落ちる前に聞いたものと同じやりとり。頭の中の声は無機質に答えを返した。

 ここでログオフをしてしまうとまずいのでログオフはキャンセル。


『ログオフはキャンセルされました』


 ショートカットメニューがあるぐらいだし、通常のメニューもあるかもしれない。


「メニュー」


『ステータスメニューを表示します』


名前:渡辺 伊織

稼働率:10%

残量:99%

型番:≪07001‐魂000606‐00000≫

機構種:機人族

所属都市:未登録

接続:埋蔵型送電機構

ストレージ:『二足競技走法』

機構称号:第7世代素体機構


 

 型番あるじゃないか。それに機人族って、私は人間なんだけどね。ストレージに記入されている二足競技走法は、逃走中にインストールしたものだろう。あの時は唐突に足が速くなった感覚がしたし、これがある限りはそれなりに走れるってことかな。

 他にも色々と項目があるが、考えてもわからなそうなので放っておくことにした。


 それから色々試してみたが、メニューは閲覧しかできず、ショートカットメニューはログオフ以外にできることがなかった。今後機能が増えることがあれば、また変化があるかもしれない。

 とりあえず今はここまでかな。マナの報告が終わり次第私の処遇も決まりそうだから、それまでおとなしくしておくことにした。

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