魔王の「世界の半分をお前にくれてやろう」を曲解したら、究極のハッピーエンドを迎えました。
魔王の決め台詞「世界の半分をお前にくれてやろう」を、勇者が曲解したらこうなります。
王様からなけなしの小銭と申し訳にもならない武具を持たされて、ハイ魔王討伐いってらっしゃいと単身放り出されて幾数ヶ月。
聖なる力を宿した勇者、慈愛の心を持つ僧侶、勇猛果敢な戦士、神算鬼謀の魔法使いの四人は、いよいよ魔族の王たる魔王と相対していた。
「勇者よ、ここでひとつ手打ちにしてみぬか?」
「魔王さん魔王さん。レベルカンストした勇者パーティを相手に勝てるわけがないからって、それはダメかと」
そう、勇者達は魔王城へと攻め上がる前に、世界各地の裏ボスを倒して回っていた。
その過程で得られた経験値は膨大であり、もはや勇者一人ですら魔王を赤子のように捻ることさえ出来るだろう。
「………………せ、世界の半分をお前に、くれてやろう。ど、どうだ……?」
冷や汗ダラダラの魔王さんである。
苦し紛れの咄嗟にそんな交渉を持ち掛けた魔王だが、勇者と言えば「魔王絶許慈悲無」の元にここにいるのである。
ここで勇者が「断る」と言えばなし崩し的に戦闘になり、魔王はボロ雑巾のようにされること間違いなし。
あ か ん オ ワ タ 。
そんな言葉が魔王さんの脳裏を過るが……
「ちょっと待って魔王さん。今、「世界の半分をくれてやる」って言った?」
「へ?」
何故か、勇者はその言葉を訊き返した。
「おい勇者!こんなクソザコナメクジの言うことなんざ聞くこたぁねぇ!とっととやっちまおうぜ!」
戦士は、勇者が魔王の甘言に惑わされていると思い、声を荒げる。
「世界の半分を俺にくれてやる、そう言ったんだな?」
戦士の声を聞き流しつつ、勇者は魔王の言葉を再確認する。
「ダメよ勇者!このおっさんの言葉に騙されないで!」
魔法使いも戦士に同調し、勇者を止めようとする。
「え?あ、うん、そうです……」
まさかの勇者の反応に、素で頷く魔王さん。威厳も何もあったもんじゃない。
「ふむ、うむ、世界の半分、世界の半分か……」
一体何を考えているのか、勇者は顎先に指を置いて、その言葉を反芻する。
「勇者様を惑わせるなんて許しません!わたしの全力全開の光の魔法で……!」
勇者を惑わせたとして、下手をしなくても魔王城が消滅しかねないほどの光属性魔法を唱えようとする僧侶。
「ストップストップ、ステイステイ」
勇者はあくまで落ち着きを払って、僧侶のパツキン頭に手を乗せる。
「はにゃっ」
勇者に頭をなでなでされ、僧侶は可愛らしい声を上げて詠唱を止める。
僧侶の頭をなでなでしながら、勇者は魔王に向き直る。
「魔王さん。世界の半分って言うのは、俺とあんたで二分するってことで間違いない?」
「そ……そうだ、その通りである」
勇者が交渉に乗ったと見るや否や、急に態度を元に戻して踏ん反り返る魔王さん。
「人間代表の俺と、魔族代表のあんたで、世界を半分ずつ分ける……それはつまり、和平交渉をしたいってことだな?」
「…………はい?」
な ん で そ う な る ?
勇者をこちら側に引き込むつもりのはずが、何故か和平交渉に話が向かっていることに絶賛混乱中の魔王さん。
「魔王さん、あんたの目的は何だ?」
「わ、我ら魔族が豊かな大地で穏やかに暮らせるようにと……」
「そうだな?だから、"世界の半分"という妥協案を示した。人間と魔族、異なる種が共に暮らすためには、お互いに少しずつ譲り合わなければならない」
勇者達と魔王の決戦という最高のクライマックスだと言うのに、この場の空気はどこか緩い。
「でも、俺は人間代表とはいえ、国の政は動かせないんだ。だから、俺の役目は"橋渡し役"だ」
「え、えーと、つまりどゆこと……?」
「魔王さんや、その気があるなら俺達と一緒に来い。ウチの王様と対面してお話ししてくれってことだ」
しかも、何故か魔王が人間の国の王と同席することを勧めてくる勇者。
「な、何故我が貴様ら人間どもと轡を並べ……」
「は? (威圧)」
「ひぃっ」
突然の勇者の威圧に、ビビる魔王さん。
「いいかい魔王さん。仮にもし、あんたがここで首を横に振るとしよう。そうなってしまったら、俺は勇者としてあんたをフルボッコにしなくちゃいけないんだ。それは分かるな?」
ポン、と魔王の肩に手を置く勇者。その声にドスを効かせつつ。
「つまりだ、あんたが生きる道はここで頷いて、ウチの王様と交渉を成立させる以外に無いんだ。ドゥユアンダスタン?」
ビビりながらもこくこくと頷く魔王さん。もはやどっちが魔王でどっちが勇者なんだか。
「よし、それじゃ行こうか」
ニッコリ笑って、魔王を魔王城から連れ出す勇者達。
「おぉ勇者よ!魔王を討伐するどころか連れて来るとは何事だ!?」
まさか魔王が自分の城にやって来るとは思っていなかったか、玉座から転げ落ちる王様。
「王様。この魔王さん、和平交渉がしたいんだってよ」
「ハイ、ソウデス」
カクカクと頷く魔王=サン。
魔王城から勇者の国へ来るまでの間、三回くらい勇者の寝首を掻こうとした魔王だが、その都度に戦士に手足をへし折られ、僧侶に無理矢理回復させられている。
抵抗するだけ無駄だったのである。
「むむむ?和平交渉とな……大臣!席の用意を!」
王様と魔王の和平交渉は、意外なほどに穏やかに締結された。
人間族と魔族の領地を互いに半分ずつに別け、平時は互いに干渉し合わず、有事の際は互いに支援し合う。
実に簡素でシンプルな交渉であった。
実際のところ、魔王を恐れていた王様は、その魔王の低頭平身な姿勢に困惑し、流れるままに調印したに過ぎないのだが。
「平和万歳!両陛下、万歳!」
「もう魔族に怯える日は終わったんだ!」
「俺達も豊かな大地の上で生きていいんだ!」
「人と魔族の橋渡し役、勇者様万歳!」
「万歳!」「万歳!」「万歳!」「万歳!」「万歳!」
調印は大々的に公表され、人間、魔族の双方が喜びあった。
「「世界の半分をお前にくれてやろう」、か。魔王陛下、貴方様の優しさが、勇者の心を動かしたのですな。まこと、英断という他にない!」
魔王さんの苦し紛れの言葉を優しさによるものだと勘違いしている王様。
「あ、いえ、そんな。まぁ、いいではありませんか、国王陛下」
盛大な勘違いをしている王様のキラキラした目に、魔王さんはお茶を濁す。
実は甘言で勇者をこちら側に取り込むつもりでした、とは言えない。
だが、結果良ければ全て良し。
こうして、勇者の曲解と王様の勘違い、そして魔王さんのビビりが功を奏し、人間と魔族は互いに手を取り合って生きることを約束し、世界は平和になったとさ。
おしまい。
戦わずして平和を勝ち取った(?)魔王様マジ魔王さん。