魔王とか名乗る奴はどいつもこいつも無駄に魔力放出して何を自慢げにしてるんですかね?
ダリア王国、一言でいえば軍事力が優れた国だ。
兵士の数も強さも世界でもトップクラスで、この国は兵士を他国に派遣するのが産業の一つとなっている。
魔物を討伐したり冒険者に依頼を出せない程貧しい村の依頼を代わりに受けたりと、軍事力を産業として成立させている国。
だからこそこの国が占拠されたという情報は誰も魔王には勝てないという事になるのだが……
「どうして僕まで魔王の所へ!?」
「だって二人だと心配だって」
「言ってないです!!いや言いましたけど僕を連れてけって意味ではないです!!」
貴族のゼノ君は空で全身で暴れているが師匠の浮遊魔術がそんなもので解ける筈も無くダリア城まであと数分となっている。
「師匠、どうします?」
僕が聞くと師匠はふむ、と考える。こういう時は僕への縛りを考えているのだ。
「じゃあ今回は魔王を倒すだけで良さそうだし、攻撃系の魔術禁止な。武器は剣固定」
「わかりました」
相手は魔王だからか縛りはいつもより緩めだった、傷つけてもいいだけで難易度はぐっと下がる。作製魔術で鉄の剣を作製するとゼノ君が絶句して僕達を見ている。
「あの……何考えてるんですか?」
「え?」
「え?じゃないですよ!?魔王ですよ!?魔王!!!あのダリア王ですら手も足も出ずにやられたというのにどうして自分たちで枷を作ってるんですか!!」
「そう言われてもなー、若い頃のダリアしか知らねぇけどアイツの強さは知ってるよ、でもユウキの方が強いだろうし」
その言葉をゼノ君は信じられないようで、でもこれ以上言っても聞いてもらえないだろうなと何とも言えない顔をしている。
そうこうしているうちにダリア城の前に到着した、師匠はゼノ君を浮かせたまま一歩下がり僕は扉を開ける。
扉の向こうには多くの魔物が潜んでいた、僕が何か行動を起こす前に魔物たちは牙を剥き粗末な武器を手に襲い掛かって来る。
しかし奴らは僕に触れる直前に大きな衝撃音と共に吹き飛ばされる、後ろを見れば師匠が良い笑みを浮かべていた。
「さて、今日はまだ夕飯食ってないんだ。ここで時間をかけてる場合じゃないだろ」
笑っている師匠と何が起こっているかわからないゼノ君、師匠が魔術で近寄る魔物たちを吹き飛ばしながら先の階段へ向かう。
「こういう時魔王ってのは偉いとこにいるもんだ、謁見の間までショートカットするぞ!」
「あの!自分で歩くので降ろしてくださいほんとに!!」
「あぁ、わかったわかった」
師匠がゼノ君を降ろすと地面に足をつけられたことにほっとしたのか息を長く吐いている。
「師匠、謁見の間に強い魔力を放っている者がいます」
「魔王だろうな、隣に縛られてる王様もいるし」
「しかしその前にも一人強い魔力を感じます」
「わ、私でもわかる。気を抜くと意識を持っていかれそうだ……」
ゼノ君も感知出来たらしい、この魔力を放つ者は簡単には通してくれそうにない。
その場所に向かうと謁見の間の手前、そこに一人の執事の恰好をした羊の様な角が生えた年老いた魔族が居た。
「一人、また魔王様に挑む者が現れましたか……しかしあの方に相対するつもりならまず私の……」
執事は僕とゼノ君を見た後師匠を視界に映すと執事は固まってしまった。
「ま…まさかその顔むぐっ」
師匠は瞬きをする間に執事の傍に居て言葉を遮ってしまった。
「久しぶりだなバトラー、今はデウス・エクス・マキナって名乗ってるからそっちで呼んでくれよ」
「…っぷは……わかりました、デウス殿。お久しゅうございます、あれから息災ですか?」
「勿論とも、むしろこっちが息災か聞きたいね」
「ご隠居様も今はすっかり落ち着きを取り戻し人間界の盆栽なるものに熱中しております」
「盆栽か、いいね。俺も初めてみようかな」
「ええ是非、盆栽を共に楽しめる友が余り居らぬものでご隠居様も喜ばれるでしょう」
戦う気はどこへやら、魔族と談笑している師匠にゼノ君は唖然とした表情をしていた。
「それで?教育係のお前がいるって事は今魔王を名乗ってるのは……」
師匠が聞くとバトラーは不甲斐ないと言った顔で話す。
「……ええ、御息女のエストリエ様です。私としては厳しく育てたつもりだったのですが……少々お転婆で、以前の威厳もすっかり鳴りを潜めたご隠居様の代を継ごうとして……」
「もう戦争は終わったって事教えてないのかよ」
バトラーはとんでもないといった様子で首を振っている。
「まさか、エストリエ様には立派な平和を築く魔王として様々な学問を学ばせておりました。しかし勉学だけを教えてはエストリエ様も気疲れしてしまいます、そうならないよう定期的に島内の子供達と遊んでおりましたが……」
はぁ、と額に手を当てるバトラーはそのまま話し続ける。
「島内の悪ガキたちに影響を受けてしまったようで……正直なところ余り関わって欲しくはなかったのですがそれは私の我儘になってしまいます、それもまた成長だと思い黙認していたのですが……」
「世界征服なんて始めようとした訳か」
「面目次第もございません……」
「なんか……大変そうだね」
僕が同情するとバトラーはおやと表情を変えた。
「おや、この子達は……まさかとうとう、ご結こ「弟子だよ、弟子」……さようで」
「しかしお前なら止められただろうに、なんでわざわざエストリエに付き合ってんだよ」
「……実を申しますと、お嬢様は一度挫折を経験した方が良いと思いまして。自分より強い者に負け自身の実力はまだまだだと思えば少しは落ち着くと思ったのですが……そこは次期魔王様、ダリア王にも勝ってしまいまして」
「勝ってしまいまして、じゃないだろ」
「いえほんと申し訳ございません……若きダリア王であればご隠居様にも引き分けたので老いてこそいますが彼ならお嬢様も止められると思っていたのです」
「老いてこそって、あいつもう94だぞ。人間は80越えたらもうまともに動けねぇよ」
「そのようで……しかし幸いな事にデウス殿が今来てくださいました、どうかお嬢様に痛い目を見せてあげて下さいませぬか」
「言い方どうにかならないのか……?」
ゼノ君が思わず突っこんだ、確かに僕もどうかと思うけど。
「まぁ元から自称魔王をお仕置きするつもりだったんだ、相手が友人の娘になっただけでやる事は変わらねぇ」
「おお、では」
「あ、でもやるのは俺の弟子だから」
バトラーの視線が一瞬で僕に移る、その目は保護者の視線から獲物を見定める狩人の目だった。
僕は思わず身構える、僕は強い。その自信は揺らがない、でも……この人を倒すイメージは想像できなかった。
「ほう……お嬢さん、お名前は?」
「ユウキ・マキナです」
「ユウキ殿、魔力制御に自信は?」
「自慢じゃないけど魔力操作で猫ちゃん描けるよ」
「ふむ……デウス殿?」
「事実だぜ?なんなら犬だって描ける」
「ユウキ殿、一つお聞きしますが貴方はデウス殿の弟子ですね?」
「う、うん」
「では本来であれば何かしら手加減したうえでお嬢様に挑む予定でしたな?」
「え、そうだけど…」
「やはり。であれば勝手ながら一つ条件を足していただきます」
僕は思わず背筋を伸ばした、いつも師匠とやっている縛り。昔から師匠はやっていたのか……などと思っていると
「私からの条件はお嬢様を無傷で無力化していただきます、魔力の使用に制限はかけませんので」
「え」
「ユウキ、一応言っておくけど俺の縛りも継続するからな?」
「えっ」
ミッション:魔王の娘を無傷で無力化せよ
制限:攻撃系魔術禁止、対象の無傷での無力化、使用可能武器剣のみ
「……」
今日は仮病使おうかな……