学園に行くのはいいけど先に魔王をしばきません?
書きたくなったので書きます。
「俺の名前か?……そうだな、デウス・エクス・マキナって呼んでくれ。俺は強いぞ?」
これが、僕の師匠との初めての出会いだった。
僕の名前はユウキ・マキナ。僕の名前は日ノ国って所から来てるらしい、家名はあったけど師匠にあやかってマキナって名を貰った。
僕は生まれた時、実の両親から捨てられたらしい。物心ついた時にはスラム街で残飯を漁って死んだように生きていた。
師匠は5歳にも満たない僕を拾って15の今まで育ててくれた、すっごく強くて何でも知ってる師匠。でも勉強は厳しい……
そんな師匠と僕は今、アルフ王国の辺地にある帰らずの森で暮らしてる。日課の訓練と勉強を終えて師匠と一緒に昼食を取っていると師匠からこんな言葉が放たれた。
「ユウキ……そろそろお前も学校に行く時が来たかもしれねぇな」
「え?」
僕は口にスープを運ばせていた手を止めた、まさか師匠の口から学校という言葉が出ると思わなかったからだ。
「お前は俺以外の人間を知らなすぎるからな、イイ男の基準が俺になっちまったらお前が高望みし過ぎて婚期を逃す女になっちまう」
「えっと……僕は師匠以外と結婚するんですか?」
「どうだろうな?お前も学校に行けば好きな男の一人や二人見つけるかもしれねぇからな」
師匠の言葉に僕は考える、そもそも師匠が教えてくれた学校というのは勉学を学び歳の近い人々と交流し社会というものを学ぶ場所だと言っていたはずだが何故僕の結婚の話になるんだろう。
「そりゃお前、学校といったら青春だよ!男女が初々しく手を取り合い互いを高め合う……俺もあと500歳若かったらなぁ!!」
師匠は年齢の事をいつも気にしてる、自分の、ではなく僕のだが。なんでも「若いうちに楽しめる事は何でも楽しんだ方がいいからな」らしい。
師匠はスープを飲み干すと僕に一枚の手紙と服を渡して来た。
「なんですかこれ?」
「読んでみろ、後内容を古代文字に訳したから勉強も兼ねるぞ」
うへぇ、と顔を苦くしながらも手紙を読む、大まかに翻訳するとこう書かれていた。
『ユウキ・マキナ、貴殿の我がセトラ魔法学園への入学をお待ちしております(意訳)』
「セトラ魔法学園?」
「……あ、そういやどんな学校かは教えたことが無かったな。悪かった……じゃあ教えるぞ」
師匠が魔術で黒板を召喚すると僕は姿勢を正す、何度もやっている事だ。だけど師匠が黒板と言うこの緑の板……何故黒板と呼ぶのだろう?
「さて…まず前提だが俺達の今暮らしている所はアルフ王国だ」
師匠はアルフ王国の地図を書くと中心からやや離れた位置に小さい丸を描く。
「で、セトラ魔法学園はアルフ王国の中で一番でかい学校だ。いや、なんなら他の国と比べても一番でかいかもな」
「師匠、そんなに大きな学校に僕がどうして入れるんですか?」
師匠は僕の質問に自慢げに答える。
「俺の友人の孫が創始者だからな、以前お前に社会常識のクイズって言って紙書かせたろ?あれ見せて特別推薦枠で入れさせた」
「なるほど」
神様と肩組んで談笑してそうな師匠だしあり得る話だ、僕は納得して話を進めてもらう。
「で、アルフ王国は名目上は貴族から平民まで分け隔てなく魔術を勉強できる学園……なんだが正直な所貴族が幅を利かせてるな、平民は貴族に虐められても口も出せない」
「ええ……そんな所に僕を入れるんですか?」
「なあに、お前は俺が育てたんだ。たかが上流貴族がお前を傷つけることなんて出来ねぇよ」
僕はいつも師匠と訓練をする、体術、剣術、魔術に錬金術まで。僕はこれが常識だと思っていたが師匠はいつも口を酸っぱくしてこう語る。
『いいか、お前は強い。なんせ俺の弟子であり娘だからな、だがその実力をしっかり把握しておけ。世界はお前より強い奴はそういない、常に人を傷つけすぎないように、これからの学園生活で常識的な実力というものを理解しておけ』
僕は最近師匠の言葉を理解してきた。普通の15歳は火、水、風、光、闇の五属性を同時に5個ずつ並行詠唱できないし剣一本でドラゴンを真っ二つになんかできない、だから強い僕は力を使い過ぎないようにしている。
「わかってます、師匠が僕を森の外に出さないのもそれが理由でしょ?」
そう言うと師匠は嬉しそうに僕の頭を撫でた、僕はこれが凄く好きなんだ。
「よくわかってるじゃねぇか、だが今のお前なら人を傷つけない程度まで魔術を抑えられる。次に学ぶのは人の社会って奴だ」
「人の……社会」
僕が呟くと僕の魔力探知に侵入者が入ったのを検知した、これも師匠の訓練内容で常に半径10kmまでに入ってきた人間や魔物を知らせるように言われている。
師匠も気づいたようだが人間が入ったという事しかわからない僕と違って師匠は誰が、何人侵入し、現在どこにいるかまでわかる。
「…15人入って来たな、5人が逃げて10人が追っているようだな」
「山賊とかですかね」
「……服装からして5人は貴族とその護衛、10人が山賊って感じだな。10年ぶりの人間だ、ユウキ、助けに行くぞ」
「わかりました」
僕と師匠は飛行魔術で貴族と山賊の所へ飛ぶ、師匠の探知によれば今は4km付近で貴族が山賊に取り囲まれているらしい。
「よし、今日は初の実戦だ。ユウキ、お前が一人でやれ」
「え、僕一人ですか!?」
「大丈夫だ、お前は強い!勝利目標はお前と貴族が無傷で生還及び山賊を拘束もしくは気絶させる事、もし切り傷一つ付いたらお仕置きな」
その言葉に僕の顔は青くなる、師匠のお仕置きは凄く辛い、精神と肉体の両方から恐怖を刻み込んできて魔術で防ぐ事も出来ない、常識を知らない僕が言うのもなんだが倫理観終わってると思う。
速度を上げた僕は今まさに山賊に鎧姿の護衛が切られようとしている瞬間を目撃した、彼の鎧に傷がついた瞬間僕のお仕置きは確定する、それだけは止めないといけない!!
「即撃、パラライズ!!!」
「ぎゃっっ!!?」
詠唱を短縮して威力を限界まで落とした魔術が指から放たれ、山賊の男は不自然な格好で倒れてしまう。護衛は……何とか無傷だった。
「はぁ~~……危なかった~~」
「な、なんだお前!?一体どこから現れた!?」
「空からだけど、僕のお仕置き回避のために君達大人しく捕まってくれない?」
「お、お仕置き?何言ってるかわかんねぇけどお前一人だけだな!お前ら!こいつを先に殺すぞ!」
山賊は素早く(多分彼ら基準で)僕を取り囲む、チームワークとか連携とかは僕と師匠の二人しかいないせいで学ぶ機会が無かったから丁度いいかもしれない。
なんて考えていると鎧姿の中に居た金髪で顔の良い少年が僕に声をかけてきた。
「そこの魔術師!誰かは知らないが助けてほしい!!」
「言われなくても助けるよ、でも護衛の人達も動かないでね?君達が傷つくと僕が師匠に怒られるから」
その言葉に貴族たちに困惑した空気が漂って来る、多分助けがいらない事に戸惑っているのだろう。でも正直余計な事されて傷つくと困るからなんなら一歩も動かないで欲しい。
「大した度胸じゃねぇか……うん?よく見たらお前女か!殺す前に楽しむ理由が増えたぜ!」
汚い視線で僕を見る山賊たちは、その言葉とは裏腹に統率の取れた動きで僕に襲い掛かる。
あっ、と顔の良い少年が声をあげるが僕は彼に笑顔を向けたまま人差し指を山賊に向ける。
「連鎖、バインド」
「はっ!?」
「なんだこれっ!?」
僕の手から放たれた純白の糸が山賊たちを纏めて捕らえる、怪我させない条件こそあったが手加減する気も無かったのでパパっと終わらせたが貴族の彼らは信じられないものを見たような顔で僕を見る。
「君達全員怪我はない?」
「……えっ、あ、ああ……感謝する」
正気に戻った護衛の一人が兜を取ると良い歳の取り方をしたのであろう老騎士が姿を現した。
「そこの貴族君も大丈夫?」
「………………」
反応が無い、はてどうしたのか
「もしもし?」
「…………はっ!?あ、ありがとう、その……貴殿の名を教えて欲しいのだが」
「ユウキ・マキナ。君は?」
「ゼノ・ヴァリエールだ、君も貴族なのか」
「え?違うけど?」
「そうなのか?……てっきり苗字を持つから貴族階級の魔法使いかと思ったよ」
魔法、という言葉に僕はついムッとした表情をしてしまう。魔術師である僕は魔法と魔術も碌に知らずに話す魔法と言う言葉は好きじゃない。
「苗字は僕の師匠から貰ったんだ、だから僕はただの魔術師、別に貴族とかじゃないかな」
「師匠?そうか、君ほどの魔法使いなら師匠はさぞ高名な方なんだろうな」
あ、ちょっと僕ゼノ君好きじゃないかも。
表情には出さず思っていると師匠が降りて来た。
「よーし、全員無傷で山賊も最初の一人が打撲しただけで全員無事。90点あげるぞ」
「あ、師匠」
空から降りて来た師匠に僕以外の全員がぎょっとした顔をする、師匠から聞いていたけどやっぱり飛行魔術はめったに見ないようだ。
師匠はゼノ君の服についている家紋を見ると顎に手を当てながら話す。
「お前の家紋見たことあるな、剣を加えた獅子の家紋……ヴァリエール家だろ」
「あ、ああ……いや、そうです。私は母の病を治すためにリープ草を取りにやって来たのです」
「リープ草?確かに数は多くないがそんなのどこでも売ってるような薬草だろ?なんでわざわざ帰らずの森に?」
師匠の言葉にゼノ君はきょとんとした顔をする。
「ご存じないのですか?今、リープ草に限らず多くの薬草が供給不足となっておりどこの街も異常な値上がりをしているのです」
「なんだって?なんでまた……」
師匠の言葉にゼノ君は深刻な顔で語り始めた。
「どうやら、隣国のダリア国で魔王と名乗る者が現れ各国の流通を止めているようなのです」
「魔王~~?」
師匠は胡散臭そうな顔で聞き返す、僕も魔王という単語に疑わしい視線を向けている。
魔王と言えば300年も前に存在した歴史上の悪夢だ、今やその存在を詳しく知っているのは師匠と永い時を生きるドラゴンや一部の魔族、あとはエルフ達くらいだろう。
師匠曰くもう魔王は改心して小さな辺境で生き残りと暮らしているらしい。
「それで?自称魔王はなんでそんなことしてんだ?」
「魔王はダリア城を乗っ取り、各国に自身が世界の支配者となると宣言しているそうです。口だけではないようで噂ではたった一日でダリア城を占拠しダリア王を人質にしているようです」
「師匠、どうします?」
僕が聞くと師匠は僕の頭に手を置いた、僕は目を細めて次の言葉を待つ。
「決まってるだろ?自称魔王を取っ捕まえにいくんだよ。行くぞユウキ」
「はい!」
ダリア国に向かう師匠に僕が返事をするとゼノ君は驚いて僕達を止めようとする。
「ちょ、ちょっと待ってください!相手は自称とはいえ魔王ですよ!?それに実際武力に長けていたダリア王を人質にしているんです!立った二人じゃ勝てるかどうか…!」
「ちょっと、僕たちは…」
ゼノ君の言葉にムッとした僕が声を荒げそうになると師匠が僕を手で制す。
「それならお前も来るか?それなら二人じゃないだろ?」
「えっ」
「なあに、俺達の傍に居ればゼノスの野郎だってお前を傷つけられねぇよ」
突然師匠の口から出て来た最も信仰されている神の名を出されぎょっとする、師匠が指を振るとゼノ君は抵抗も出来ず浮かび上がり体をばたつかせる。流石師匠、無詠唱で他人を浮かせる高度な魔術……僕でも詠唱短縮が限界だ。
「えっうわっ!?」
「それじゃ君達はそこの山賊をよろしく~俺は魔王しばきに行くから」
そう言ってふわりと浮かび上がった師匠とゼノ君はダリア国に飛んで行った、僕は護衛の人達に一礼すると急いで師匠を追いかける。
「「「「ぼ、坊ちゃまーーー!!!!???」」」」
師匠に拾われて以来の外の世界、これから起こるであろう出来事に僕はワクワクしていた。
「お、降ろしてくれ~~っ!!?」
デウスは自身をデウスエクスマキナと名乗っていますが転生者とかではありません、転生者はいますが。
ユウキの認識では魔術は「理論的に証明できる誰もが魔力を用いて使える技」魔法は「現在理論が判明していない使用者以外使えない魔力を用いた技」。つまり魔術はやり方さえわかれば誰でも出来るもの、魔法はその人しかできない欠陥技という認識です。あくまでユウキの認識なので世間では魔法も魔術も同じような意味として使われています