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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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174.少しずつ動き出す

前回の更新から、ジャンル別日間1位・週間3位をいただきました。

びっくりしました! どうもありがとうございます!



「あっはっはっは!!」


 翌日。クランハウスのミーティングルームでお酒を飲みながら寛いでいた耕助さんにリリィとの遭遇を話したところ、たっぷり五分は爆笑された。


「……ちょっと笑いすぎじゃないですか? 同じリリィ被害者の会だからわかってくれると思ったのに」


 じとりと睨めば耕助さんは口を押さえてまだ「んふっ」と笑っている。イラっとするわあ。


「いや、すまんすまん。当事者の時はとんでもなかったが、外から見たら面白すぎて」


 俺は人差し指を立てておもむろにウィンドウを開いた。


「リリィにメッセージしちゃお……『知り合いの耕助さんていうプレイヤーが渋くて頼りになる大人の男なので是非オススメし、』」


「すみません調子乗りましたァ!!」


 ソファの上からルームの床に、見事なジャンピング土下座をかました耕助さんである。


「ふーん、わかればいいんです」


「本当に災難でしたねーカイ君」


 最初からそう言やあいいんですよ。しかし耕助さんの丁寧語って気持ち悪いな。


「でも、うまく焚き付けたじゃないか。七瀬さんがリリィに神殿修行ルートを用意するって言ってたが、その様子なら乗ってくれそうだ」


 耕助さんは膝のホコリをはらう仕草をしながら立ち上がってソファに座り直す。


「だといいですけどねえ……」


 なんだろう。予定通り行きそうなのに、どことなく不安な気持ちになる。実際にリリィと話してみた感じ、あの人なんか想定外の方向に行きかねない印象を受けたんだよな。


 ま、俺は本来リリィの担当ではないので。気にしすぎるのも良くないだろう。


「あっ、ふたりともお疲れ〜」


 姉ちゃんが鼻歌まじりに部屋に入ってきた。今日は残業って聞いてたけど思ってたよりは早く帰れたのかな。


「お疲れさん。イベントどうだった?」


 向かい合って座った俺と耕助さんからコの字になる位置に姉ちゃんは腰掛ける。ニコニコと機嫌が良さそうだ。


「うん、面白かったよ〜。上位入賞は無理だったけどね、露店に一回1000コルトのくじがあって、チャージ短縮のスキルカード、引いちゃった!」


「「えっ」」


 俺と耕助さんが同時に声をあげる。


「なにそれ、いいな! 俺も欲しい」


「俺も」


 大技を出す時に必要な待ち時間を短縮してくれるスキル。たぶん緋炎が持ってるんじゃないかと俺が睨んでる、スペルショートカットの武器版みたいなやつだ。


「いや、カイは最近デスサイズ使わないだろ」


 と耕助さんが突っ込んでくる。たしかにそう。最近の武器は魔導書とストライクワンド、どちらも魔法具だ。


 でも欲しいもんは欲しい……というか。いま指摘されて気づいたんだけど、この言葉が出てくる時点で俺、デスサイズをまだ諦めてないってことだよな。またあれで戦う意志があるってことだ。そっかあ……。


 今後どういう場面で使えるかわからないけど、暇な時に誰もいない場所でレベル上げとかしておいた方がいいかもしれないな。


 なんてぼんやり考えていたら、


「カイくんはどうだったの?」


 とこっちにお鉢が回ってきた。


 結局、俺がイベントで捕まえたのは深紅ひとり。ブルージェムは一個だけなので、景品は参加賞みたいなものだ。魔法石とか素材で欲しい交換対象品がなかったので夜鳩商会の商品券を貰っておいた。金額は小銭程度だ。そんな説明をする。


 これで南2の地上をカイの姿でも堂々と歩けるようになったし、欲しかったスキルレベル上げポーションも買えたので、俺としてはイベント参加の目的は無事果たしたといえる。


「リリィにさえ会わなければ楽しいイベントだった……」


 遭遇した話は姉ちゃんたちには昨日、イベント中にちらっとしてあるけど、俺のぼやきに姉ちゃんは眉をひそめた。


リリィ(佐々川さん)にお姉ちゃんから注意してあげようか?」


「いやいやいや、それは結構です!」


 慌てて両手を振る。あの女なにするかわかんないから姉ちゃんにもあんまり近付いて欲しくない。シスコンって言われたのを根に持ってるわけじゃないですよ、決して。


「ま、カイは直接タゲられてるんじゃなさそうだし、適当に距離を置いとけば大丈夫だろ」


「うん。当分、地下には近づかないようにするよ」


 耕助さんの言葉に相槌を打ったつもりがうっかりダジャレになってしまった。姉ちゃんがはっと目を輝かせたがアイコンタクトでなんとか黙ってもらった。セーフ。


「話が変わるけど。わたしね、これからしばらくお城に潜入することになったから」


 姉ちゃんが俺と耕助さんの顔を順番に見て言った。


「えっ、城? って南の王宮のこと?」


 俺の問いかけに姉ちゃんは「そうそう」と頷く。


「ネムひとりでか?」


 耕助さんが俺を一瞥して言う。たしかに、姉ちゃんが動く時はいつも俺が一緒だったもんな。


「今日、円堂室長から話が来てね。王宮で変なことをしてる奴を探すメンバーの応援ですって。秘書K(カイくん)は敵に面が割れてるから今回は待機で」


 えええ……姉ちゃんこんなちっさいのに? 武器も近接じゃないし、悪い奴に見つかったらひとたまりもないのでは?


 あからさまに心配した気持ちが顔に出てしまったんだろう、そんな俺に姉ちゃんは「だいじょうぶよ」と優しく言った。


「いざとなったらポケットワープポイントで本部に逃げていいって言われてるから。王宮にはまだNPCしかいないから、多少のミスは誤魔化せるって話だし」


「うん……」


「それにこう見えてもカイくんよりお姉ちゃんだからね」


「それよか、他のメンバーは大丈夫なのか?」


 と足を組み直しながら耕助さんが訊いた。


「お前、他の諜報部員にも正体明かしてないんだろ?」


 そういえば前に貰った名簿、姉ちゃんの欄は普段のハンドルネームは空欄になっていて、諜報部員の『研修生N』だけ記されていたけど。まだ研修生Nとしてもセンリ氏と藤田さん(プランナーF)以外の人に会ったことなかったよな。


 研修生Nが小さな女の子だってわかったら逆に普段もその年齢の姿だってバレてしまうし、そうしたら身バレの危険が大きくなってしまう。


「今回は横の連携は無し。味方同士でこそこそやってたら敵に警戒されてしまうからね。なにかあったら上に直接報告だよ」


 それならなんとかなるかな。


「本当に気をつけてよ……あの混入AIってかなり凶暴なんだから」


「わかってるわよ」


 姉ちゃんは小さな手で安心させるように俺の肩をぽんぽんと叩いた。




 それから俺は厨房に入り、ペンギン戦に使う従魔用クッキーを時間操作で大量生産した。


 特典つきのイベントが終わって南2境界戦ブームは去ったけど、まだ後発組がいるからな。それに、もし余ったとしても普通に従魔にも食べさせられるから無駄にはならない。


 大箱にざっくり入れて、夜鳩商会西国本店へ。


 一箇所に納入すると他店でも手に入るという在庫共有システムは各国の本店だけだが、南1支店で必要なら南国本店が勝手に調整するだろうからわざわざ支店に赴く必要はない。ワープポイントもないし。


 まあ、どちらにせよ支店より本店のほうが普通に品揃えが良いのでプレイヤーもまずは西国本店に行くことが多いようだ。


 いつもの担当者さんに箱を渡して店舗に出ると、お菓子売り場にキサカさんが佇んでいた。


 小首をかしげ、口元に手を当てて思案するような仕草だ。なんか美女が風情あるなあ、と眺めているとふとこちらを見て「あっ!」と声をあげる。


「カイ君、いいところに! ケーキ、今から売り場に出る?」


 小走りに近付いてきて、キサカさんは訊ねた。


「いえ……今日は従魔用クッキーだけです」


「ああ〜……」


 とテンションがいっきに下がっている。


「どうしたんです?」


 ちょっと立ち話もアレだから、ということで俺はキサカさんに連れられて商会併設のカフェに入った。


 せっかくなので自分ではあまり作ったことのない小洒落たフードを頼み、ウェイトレスさんが立ち去ったところで話に入った。


「お願いがあるんだけど。カイ君、お菓子の生産量を増やせないかしら。そして私たちの店に卸して欲しいの」


 両手を顔の前で合わせて、キサカさんは言った。


「私たちの店?」


 彼女は「そう」と頷いた。


「地下が商業特区になる計画は知っているわよね?」


 ナナ師匠が言ってたっけな。南2と3の地下都市は、そもそも生産職プレイヤーが自分の店を持ちやすくするために用意された区画だって。現在は混入した例の八体『歌姫』アデリンのせいでおかしなことになっているけど。


「運営と話し合った結果、地下都市脱出クエと並行して再開発クエも始めることにしたの。まあ、アデリンの反応を見る目的もあるわね。それで私たち工作員の活動拠点づくりを兼ねて、私が自分で再開発クエのフラグを踏んで最初の店……カフェをね、作ってみたわけ。昨日オープンしたんだけど」


 キサカさんは声をひそめる。こんな話、他のプレイヤーに聞こえたらまずいもんな。


「アデリンは?」


「今のところは特に」


 彼女は小さく首を横に振る。


「ちょうど神殿もできあがったから、こっちに構ってる暇がないだけかもしれないけどね」


 アデリンが神殿長を任されたというクラディス神殿か。作戦がうまくいけばリリィもそこでしばらく修行することになる。


「ただやっぱりね、現段階でのNPCは信用できないから、アデリンを排除するまでは情報クランの人間がいる時だけ開店することにしたの。それでフードなんだけど、できれば一般プレイヤーのお客さんも集めて情報収集したい気持ちがあって……それで青雪印のお菓子があったらわかりやすく撒き餌になるかな、って思ったのだけど」


「ああ、そういう……」


 ウェイトレスさんがオーダーしたものを持ってきたので話を中断する。それぞれの前にプレートと飲み物を置いて、無言で離れるのを待った。


「……いいですよ。夜鳩商会とは専売契約じゃないし、そういう理由ならセンリさんも許してくれるでしょう。ただ、毎日きっちりは無理ですけど」


 以前、夜鳩商会と契約した時と同じことを伝えた。リアルで忙しい日はログインしないこともあるし。


「商会と同じように不定期で、できる範囲で構わないわ。大型保管庫も入れたから」


「そういうことなら」


 商会に卸す時に多めに作ってそちらにも届ければいいだけだ。その方式でキサカさんも了承してくれたので商談成立。今日はもうログアウトするつもりなので、だいたいの数を聞いて明日からカフェにお菓子を届けることになった。


 地下には近づかないって言った舌の根も乾いてなかったんだけど。これは仕方がない。



筆者の小説は100%人力で書いております。よろしければ星をクリックしていただけるとやる気が出ます。

すでにしてくださった方も、スタンプも、いつもありがとうございます。

誤字のお知らせもありがとうございました。いつも助かっています。

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