132.災難
いつもありがとうございます。字書きあるあるだと思うんですが、何度も書いてボツにして書いて……を繰り返していると、そのうちエピソードのどれが採用でどれがボツだったか曖昧になってくるんですよね。
姉ちゃんの工房、もし過去に作ったというくだりがあればこっそり教えていただけると助かります。探したけどよくわからなかったので……。
夜。ログインして、最初の予定は圭市と芳乃ちゃんのクランメンバーとの顔合わせだった。
ふたりには招待状でクランハウスに来てメンバー全員と話をしてもらった。やっぱり、耕助さんとしてはクラン内のことやメンバーの話を外で黙っていられるかどうかを確認したかったらしい。
結果から言えば、ふたりとも問題なく合格。
芳乃ちゃん改めアバター名シノちゃんは、なんと以前から陽南さんと生産職の横の繋がりでフレンドだったそうだ。人柄について陽南さんのお墨付きもあったし、一方圭市改めイチは姉ちゃんや耕助さんと似たような境遇だったことが効いたようだ。
「っていうか、ここまさかのゴーグル団とか! 攻略パーティビッグ3のひとつじゃないか!」
引きつった顔でイチが叫ぶ。
「俺みたいな初心者が入っちゃっていいんです!?」
「いや、うちそういうの無いんで。結果的にそう呼ばれてるだけで、適当に好きにやってるだけだし。攻略とかトップを走るとかそういう熱意は無いから」
耕助さんが手を振って即座に否定している。
「うん、ここもただの溜まり場だしね。そんな大仰なクランじゃないので」
俺が付け加えると、イチは肩の力を抜いた。
「イチはジョブなんなの?」
レモネードをすすりながらヒカリが訊ねる。
「剣士です」
「俺もタメだから敬語いらないけど────じゃあさ、俺たち手伝うから境界さっさと越えて大学の奴らと違う狩場に行こうぜ。そいつらが他に移動したら戻ってクエ片付ければいいんだし」
「それは助かるかも……」
イチが頷いた。
「カイ、このあと暇?」
ヒカリの問いかけに、俺は姉ちゃんのほうを見た。円堂先生もといセンリ氏から北国に部屋を用意したと言われたけど、姉ちゃんはまだ北国の仮宿を開放していないのでポケットワープポイントを設定できない。だから、今日からまた一緒に北国行きの内界探索を再開する予定だったんだよな。
姉ちゃんは女性陣と団子になって話していたけど、俺の視線に気づいて顔をあげると「行っていいわよ」と言った。
「私もクランハウスに錬金術の工房を作ることにしたから、今日はシノちゃんと一緒にギルドへ増設の申し込みに行こうと思うの」
俺はヒカリのほうに顔を戻して「暇になった」と答える。
「兄貴は?」
「すまんな、ちょっと用事がある」
耕助さんは片手を立てる。
「うーん、西4は亀だっけ。二人で勝てるかな」
ヒカリの呟きに、陽南さんが立ち上がった。
「あたしも行くよ。前より大分レベルも上がってるし、助っ人三人いれば充分だろ」
ヒカリ、陽南さん、イチ、俺、ついでに陽南さんの従魔のソレイユが火属性をもっていたので同行してもらって、早速四人と一匹で西4の境界戦に挑戦することになった。
大亀戦は二度目なこともあって楽勝だった。前回と同じ手順でガンガン熱して氷水で冷やす。甲羅を割ったら石化で足元を拘束してみんなで必殺技。さくっと勝利して、俺たちはイチを西4の王都に連れてくることに成功した。
「まっさか、あの有名な死神タンがお前だとは思わなんだ……」
境界から西4の仮宿に向かう道を歩きながらイチがこぼす。そのシンボルであるデスサイズは戦闘が終わったらすぐにインベントリに片付けてしまったので、今の俺は手ぶらの軽装だ。ヒカリとイチが金属鎧なので、なんかお付きの小姓みたいになっちゃってる。
「オフレコで頼むね。知らん人にまで名前売れてると身バレ怖いから」
まあイチは口が堅いから心配してないけど。子供の頃、爺ちゃんの靴に蝉の抜け殻入れた犯人探しで最後まで口を割らなかったもんな。ちなみに主犯は俺だ。
「それでいつもゴーグルしてるのか」
「実は姉ちゃんもオビクロ内に遭遇したくない人間がいて、いつも身バレしないように神経尖らせてるんだ。耕助さんがクラン内のこと外でしゃべくるなって言ったのはそういう理由もあったんだけど。俺がバレても芋づるで姉ちゃんに迷惑かけるからさ」
「そっか。やっぱみんな似たような悩み抱えてんだなあ」
イチと一緒にその後ろにいる陽南さんも頷くのが目に入った。あれ、そういえば陽南さんって姉ちゃんや耕助さんが身バレを警戒してる話知ってたっけ? と思ったら。
「実はあたしもバレたらいろいろ死ねるかもしれない」
などと真顔で言う。え、陽南さんも同じ穴のムジナだった?
「……そうなんですか?」
「うん。だから、もしバレてもあたしのこと嫌いになるなよ」
「なりませんよ」
即答すると彼女は「言質取ったぞ」とニヤリと笑った。いや別に、陽南さんは外見ティーンエイジャーだけど中身は頼れる大人だと思ってるし、多少サバ読んでたって怒ったりしませんてば。
そうやって歩いていくと、ちょうど進行方向を塞ぐように人だかりが見えた。
「ん? なんだろ」
見れば、神殿の建物の前あたりだ。プレイヤーとNPCが入り混じって同じ方向を向いている。聞こえてくるのは、
「歌?」
群衆の向こうからハープの演奏と女声の旋律が聞こえている。クラシックというか、聖歌のようだ。
「あ、これってもしかして聖女リリィ様の歌?」
とイチが首を伸ばすような仕草で言う。
「そうなの?」
つか、リリィって一般人からも様付けで呼ばれてんの。プレイヤー同士でそういう扱いってなんだかなあ。
「ネットで評判。固定ファンとかついてるし」
「へえ」
話しながら、俺たちは人の塊の後ろを通り過ぎる。ちらりと見れば、たしかにその中心にいるのは聖女リリィだった。神殿の入り口の階段の一番上に立って、集まった人たちに向かって歌っているようだ。
こうやって見るぶんには綺麗なひとなんだけどなあ。歌も上手いし。でも他のプレイヤーに貢がせてるの見ちゃったし耕助さんや姉ちゃんの話を聞いたあとでは微塵も興味が湧かない。
そのまま背を向けた俺たちは、突然リリィの歌が止んだことになど気づかなかった。そして、彼女が聴衆をかき分けて俺たちを追いかけてきたことになんて。
「樋口先輩!」
いきなりソプラノの大声で呼ばれて、ヒカリがぎょっとして振り返った。俺たちも思わず足を止める。それと同時に、いつのまにか俺たちのすぐ後ろまで来ていたリリィがヒカリの腕を両手でがっしりと掴んだ。
「樋口先輩ですよね! やっと捕まえた! ずっと探してたんですからね!!」
「えっ……」
ってこれ! 耕助さんと間違えてる!!
「いや、誰……人違いでは」
ヒカリが顔を引き攣らせて答えたがリリィは掴んだ手に力を込める。
「私が樋口先輩のこと間違えるわけないでしょう!? とぼけても無駄ですから!!」
いや、しっかり別人ですがな!
リリィの歌を聴くために集まっていた人たちがざわめき始めた。まずいな。こんな場所で本名呼びとか。
「お姉さん、落ち着きなよ。とりあえずその手、離して」
陽南さんが二人の間に身体を差し込むようにして制止するが、リリィはそれを肘で押しのける。
「私は先輩と話してるんです! 邪魔しないで!」
「だから人違いだって言ってるだろ!」
ヒカリが強く腕を引いた。
「きゃあっ!」
リリィがバランスを崩して大げさな悲鳴とともに尻餅をつく。
「てめえっ!」
「リリィ様になにするんだ!」
彼女の取り巻きたちが左右からヒカリに掴み掛かった。ついでに俺たちにもたくさんの手が伸びてくる。なに、こいつら正気か?
その時、
「グァアアオオオオオ!!!」
陽南さんの後ろに付き従っていたソレイユが上を向いて巨大な咆哮をあげた。通常よりも身体の大きな雄ライオンだ。向かってきた男たちが悲鳴をあげて後ろに下がる。いや、俺も本能的に硬直した。
「逃げるぞ!」
陽南さんの号令ではっと我に返って、俺たちは走り出した。しつこい何人かが追いかけてきたようだが、大通りから路地に入って何度か角を曲がるうちに撒くことができたようだった。ひとけのない細い道で、俺たちはようやく立ち止まることができた。
「なんなんだあの女……」
息を切らせてヒカリが座り込んだ。俺はインベントリからポーションを取り出してヒカリに渡すと、自分の分に口をつける。
「ヒカリはその樋口って人と関係あるの?」
イチが周囲を警戒しながら訊ねた。
「リリィはリアルでうちの兄貴にしつこく言い寄って嫌がられてる女なんだよ。俺も樋口だが本当に人違いだ」
「不特定多数の人間がいる場所で本名連呼とかなに考えてんだあの女。通報だ通報!!」
陽南さんがぷりぷりしながら早速ウィンドウ操作をしている。
「とりあえずクランハウスに戻ったほうがいいな」
暗い表情で地面を見つめているヒカリを目の端に捉えて俺はマップで現在位置を確認した。
リリィの取り巻きに待ち伏せされてると困るので、銀雪を召喚してソレイユとそれぞれ二人乗りをして、西4ではなく西3の仮宿までいっきに駆けることになった。
帰り道はみんな無言だった。
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