129.パーティ難民
いつもありがとうございます。
いきなりのお願いに、俺と姉ちゃんは顔を見合わせた。
「えっと、理由をきいてもいいかしら?」
芳乃ちゃんは眉を下げて言いにくそうに口ごもった。
「その、お恥ずかしいことに、私パーティ難民になっちゃってて」
「パーティ難民?」
「ジョブは魔法具師なの。魔法具を作る職人。でもあれって最初の頃はまったく使い物にならない職業でしょう? それで早くレベルをあげたくって修行と製作に明け暮れていたら、いつの間にか世間に取り残されちゃって。パーティ組もうにもみんなもうどこかに入っているし、最近入ってきた新人さんたちはレベルが違いすぎるし」
芳乃ちゃんは小さくため息をついた。
「いままで素材採取とか境界戦はNPCや青猫傭兵団の力を借りてやってきたけど、最近は強いNPCや傭兵団は知名度があがって予約が取りにくくなっちゃって。それにソロだとどうしても情報に偏りが出てくるし、勝手な話なんだけど、こう、困った時に手を借りられる仲間がいたらいいなって思うようになって……」
「なるほど」
たしかにひとりでプレイするのはきつい。俺だって重要情報ほとんどヒカリに教えてもらってるもんな、ひとりでやってたらわからないことだらけで不安だろう。
そんなふうに考えていたら、隣にいる圭市が「あの、」と片手を挙げた。
「便乗するようでアレだけど、それなら俺も頼めないかな。実は俺もパーティ難民で」
「はい?」
こっちはまだ新人さんだよな。俺たちの視線を受けて、圭市は困ったように頬をかいた。
「俺は大学の友人たちに誘われて、初期からやってた奴が設立してくれたクランに入ったんだ。そこは二十人くらいの知り合いが集まってたんだけど、その中に彼氏彼女作り目的で参加してた奴がかなりいて、もうさ、空気が合わんのよ。こっちは早くレベル上げたいのにやたら女子がついてきてベタベタしてくんの。ちょっと大きいモンスターだと嫌がって行くの邪魔してくるし」
「うへえ」
俺は思わず顔をしかめる。耕助さんと気が合いそうな境遇だな。
「挙句に四角関係になってる奴らとか、まだ表沙汰にはなってないけど二股男、三股女なんてのもいてさ。この先大揉めして空中分解待ったなしだろ、もう変なことに巻き込まれる前に逃げて来たのよ」
「イチくんも大変だったんだね」
芳乃ちゃんがすっかり同情の眼差しになってる。
「俺も最悪ソロでやるつもりだったけど、芳乃ちゃんと同じ理由でどこかに所属できたらいいなって思って、いまメンバー募集してるパーティとかクランを調べてるところだったんだ」
「そっかあ……」
姉ちゃんが俺に目配せをした。俺は頷いて、スマホを取り出す。
「実はうちのメンバーもいろいろと訳アリなんだ。相談してみるけど、もし駄目だったらごめんね」
「うん、無理を言ってる自覚はあるから。大丈夫だよ」
ふたりが頷いてくれたので、オビクロアプリのメッセージでいま聞いた彼らの事情を書き込んでパーティのみんなに送った。
この話は時間がかかるだろうと思ったけど、十分くらいで耕助さんから返信が来た。
「みんなちょうどクランハウスにいるって。ええと、『いちど会わせて下さい』だって。面接だね」
面接、という単語にふたりの身体が緊張する。
「でも俺たちゲーム機持ってきてないから、帰ってからになるけどいいかな。もし立ち会いなしでもいいならすぐにセッティングもできるけど」
「「帰った後で」」
あ、ハモった。
「了解」
その旨を耕助さんに送信して、続きは後日ということになった。
それからの滞在中は、例年と同じようにのんびり過ごした。
朝は圭市の爺ちゃんの道場に行って剣道の稽古をして、昼間は川に行って釣りをしたり圭市の運転免許取ったばかりの友達の車に一緒に乗って日帰りキャンプをしたり。バーベキュー美味しかったです。
圭市と芳乃ちゃんは、夜はオビクロのホラーイベントに参加してたみたいだけど、話を聞いたら思いっきりゾンビが出てきてたので、俺と姉ちゃんはやらなくてよかったと心底胸を撫で下ろした。
庭で流しそうめんをしてたまには爺ちゃんの畑を手伝って、そんなこんなで自然と戯れた五日間はあっという間に終わった。
「それじゃ、顔合わせの日が決まったらまた連絡するから」
スマホのオビクロアプリでフレンド登録だけ先に済ませて、俺たちは芳乃ちゃんと圭市にとりあえずの別れを告げた。帰省は終わりだけどまたすぐに会える。ネットのゲームってこういう場合にすごくいいよな、遠く離れた友だちとも一緒に遊べるから。
見送られて、俺たちの乗った車が走り出す。爺ちゃん家はあっという間に見えなくなってしまった。
「あー、明日から会社かあ……めんど……」
姉ちゃんが車の後部座席でずるずると斜めに傾いている。俺も四年後はこうなるかと思うとゾッとするわあ。
今のうちに頑張って遊んでおかなくちゃな……などと高速道路の白い壁を見ながら考えていたら鞄の中のスマホが小さく鳴った。メッセージの着信音だ。取り出して画面を見てあれっ、と思う。
「……円堂先生から……?」
その名前に姉ちゃんがぎくりと身体を揺らした。
「まだ休暇中なのに連絡するなーサヨリめー」
「いや、俺宛てだから」
俺は素早く文面に目を走らせた。
「えっと……なんか運営が俺に話したいことがあるみたい。明日GK社に来て欲しいんだって」
「なにそれ」
姉ちゃんは眉を顰める。
「……うーん……」
やっぱりアレかな、シドの件? しかし、今までみたいな食事のついでじゃなくって会社への呼び出しってのが引っかかる。いつもより重要な話ってこと?
「大丈夫? お姉ちゃんも同席できないか、室長に聞いてみようかしら」
姉ちゃんも不穏な雰囲気を感じたのか、そんなことを言う。
「ありがとう。でも無理はしなくていいよ」
盆明けだから仕事も忙しいだろうしな。姉ちゃんの邪魔はしたくない。
「というか、姉ちゃんの会社って電車何線に乗ればいいの」
「あー、うん。後で書いてあげるわね」
謎の呼び出しのせいで、気怠い帰り道が急にそわそわと落ち着かないものになってしまった。
この時の俺たちはまだ知らなかった。ひとつのネットニュースが世間をざわつかせていたことなど。
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