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愉快な社畜たちとゆくVRMMO  作者: なつのぎ


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106.嫌な知らせ

いつもありがとうございます。

 クランハウスを出て西4の夜鳩商会へ。


 いつも通り人のいない場所で秘書Kの姿にチェンジして、センリ氏のオフィスのドアをノックする。在室のようだ。


「おや、カイじゃないか」


 扉を開けると、出迎えてくれたのはナナ師匠だった。この部屋にいる姿がまったく想像できなかったのでびっくりした。商会の内装に騎士団の制服がものすごく浮いている。


「師匠……珍しいですね。ここにいるなんて」


「うん、今日騎士団では別の会議をやってるからこっちに来てやったのだ。わざわざ」


 ローテーブルの上にお菓子をいくつも並べて、紅茶を飲みながら彼女は言った。耕助さんとか他のメンバーの人が動いてる別の案件の話かな。その向かい側ではセンリ氏が長い脚を組んでなにか考え込んでいる。


「ちょうどよかった。お前に良い知らせと悪い知らせがあるんだ」


「なんでしょう?」


 俺はセンリ氏の隣に腰掛けた。彼は机上にあったトレイの上のティーセットから新しいカップを取って俺にも紅茶を淹れてくれた。カップが俺の前に置かれるのを待ってから、ナナ師匠は話し始めた。


「まずは悪い知らせだ。先日、赤ネームプレイヤーの中でも特に悪質な者のアカウントを停止した。つまりお前たち暗殺者の資金源の数が減ってしまうことになる」


「そうなんですか」


 正直全然構わないが。


「迷惑プレイヤーが減るのは良いことですから、そんなの悪い知らせじゃないですよ。暗殺者(俺たち)のことは気にしないで」


 ナナ師匠は目頭をそっと押さえた。


「心が洗われる……カイはそういうとこ本当に健全だから……」


「君たち根性悪には眩しすぎて目が潰れるでしょう」


 センリ氏、息を吐くように蹴ってる。


「円堂さぁん、八つ当たりはやめて下さいよぉ……私のライフはすでにマイナス域なんですぅ」


 あれ? 今日のナナ師匠は戦う気力もないらしい。ちゃんと寝てるんですかね。


 センリ氏は顔をしかめて大きく息を吐いた。


「この最悪のタイミングで、もうすぐ爺様の誕生日会があるんですよ」


「ひえっ」


「嫌な予感しかないですね」


「はわわ……ワタシタチドウナッチャウノ……!」


 なんかよくわからない会話を黙って聞く。たしかセンリ氏はこのオビクロを運営しているGK社の親会社、円堂グループの経営者一族出身だって姉ちゃん言ってたよな。爺様ってたぶん円堂家のえらい人……ってことは、なにかまずいことでも起きてるのかな。


 俺みたいな部外者のガキが口を出せることじゃないので、ナナ師匠の前からお菓子の皿をひとつ引き寄せてもぐもぐする。これ、自分が作ったものだけどうめえ。天才かな。


「あっ、私のケーキ!」


 ようやく気づいたナナ師匠が子供みたいな声をあげた。


「こら弟子~! 食べ物の恨みはマリアナ海溝よりも深いんだゾ~!」


「帰りにお土産で包みますから」


 センリ氏のひとことで、両手を振り回してプンスコしていたナナ師匠はピタリと静かになった。瞬殺だったな。


「師匠、話の続きいいですか。良い知らせのほうは」


「あー、スマンスマン」


 落ち着いて座り直して、ナナ師匠はタブレットを取り出した。


「例の襲撃犯NPC、アジトらしき座標を見つけた。送るぞ」


 俺のウィンドウにマップが送られてきた。


「話にあった女子プレイヤーらと接触したNPCにはマーカーがついているが、まだ未確認のやつが数体残ってると思われる。いちど覗きに行って接触履歴だけ作ったら戻ってくる感じで頼めるだろうか。今回のお前の仕事はそれで終わりだ」


「わかりました」


「それと余談だが」


 と、師匠が思いだしたかのように付け加える。


「ちょっと気になったので調べたが、騎士団の出国審査所にマックスというNPCは存在しない」


「えっ」


 マックスってあの金髪軍人風の男か。


「なぜどのように騎士団に潜り込んだのか、詳しいことは切り離して解析してみないとわからないが、準備に少し時間がかかっている。万が一遭遇した場合は用心してくれ」


 俺は苦い表情をしている隣のセンリ氏に顔を向けた。


「……マックスが『商人』なんですか?」


「いや、おそらく違うと思う」


 ナナ師匠がセンリ氏の代わりに答えた。


「でも勝手なことをしてる正体不明のNPCってことに変わりはない」


 んん? 範囲外で勝手なことをしているNPCは一体だけじゃないってこと?


「カイ君」


 センリ氏が静かに名前を呼んだ。


「はい」


「マックスの処分が済むまで航海石は運ばなくていいです。なにをするのかわからなくて危険ですから、もうそのNPCには接触しないようにね」


「……はい」


 質問を投げ掛けたいのをぐっとこらえて返事をする。俺は藪を突きません。


 この部屋に立ち寄ったのは襲撃犯のアジトの場所を聞くのが目的だから、俺はそのままソファから立ち上がった。


「とりあえずそのアジトに行ってみます。けど、もし襲撃犯たちと戦闘になって逃げ損ねてしまったら倒してしまっても大丈夫でしょうか?」


「問題ない。どのみち消す予定だ」


 ナナ師匠が言った。


「あと、この制服を着てるとき他のプレイヤーの前では聖霊魔法と闇魔法、氷魔法を使わないほうがいいでしょうか?」


 聖霊魔法や氷魔法を使えば特定宗教との関連を匂わせることになるし、闇魔法を使えば敵の疑いをかけられるかもしれない。夜鳩商会の設定によっては配慮しなければいけないと思って訊ねてみたのだけど。


「どれも好きに使って構わん。夜鳩商会は秘密を抱えた胡散臭い組織という設定だからな。謎は多ければ多いほど良い」


「わかりました」


 なるほどね、ミスリードか。夜鳩商会をわざと怪しく見せる……ということは、逆に善良そうな団体がこの世界の敵組織だったりするのかな。メインシナリオのことはよく知らないけど。


 とりあえず闇魔法の使用許可が出てよかった。触手が便利すぎるから使えるのはほんと助かる。


 俺は退出の挨拶をしてセンリ氏のオフィスを出た。




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