5話 1歳
暦は8月も迎え、子供部屋はすっかり夏を迎えていた。どれくらい暑いかというと暑すぎてタマが寄ってこない程だ。
そんな暑さにぐったりしながら過ごしていたある日のこと、メイドのエマが何やら珍しいものを持ってきた。
何かと思えば散髪用のはさみだった。思い返してみればまだ一度も切ったことがないような気がする。それなりに長くなったから一度切りそろえてしまおうということらしい。
エマは私をわきの下あたりからひょいと抱えて椅子の上に乗せるとすぐにチョキチョキと髪を切り始めた。
前世の記憶のある私からすると肩から下にカバーのようなものをかけてからやるものと思っていたが軽く切りそろえるだけなら必要ないらしい。
そんなことを考えている間に早くも散髪は終わりエマは掃除を始めるようだ。
床に落ちた髪の毛を見ると、母親のソフィアから受け継いだであろうそれはもうきれいな金髪が散らばっていた。これは将来に期待ができそうだ。
そういえば、兄のフィンが4歳にして育児期間を終えたらしい。家には新しく家庭教師が来たらしく私のところにもあいさつに来た。それ以外にもパッパが休みの日には庭で剣の稽古をしている。
やはり兄さんは優秀なようだ。これでもし転生者じゃなかったら私はなんだってことになってしまうレベルではないだろうか。
しかしそんな私にも今は魔法がある。最近では集中すれば、2-3m離れたところからでもオルゴールに魔力を送れるようになった。何なら賢者と呼んでくれてもいい。
もちろん魔法以外も順調に成長している。毎日欠かさずエマに絵本を読んでもらってることもあり、言葉が少しずつ分かるようになってきた。それに加えてわからない単語を聞くぐらいはできるようになった。
とはいっても文字をかけと言われたら形はしっかりとは思い出せないし、一人で読んだことはないので実際に一人で読めるかはわからない。まだまだ先は長いみたいだ。
兄さんの家庭教師に頼んだら教えてもらえるだろうか。
いや、そもそも現状ではペンを握ることすらままならない。インクの瓶なんか倒そうものなら大惨事になってしまう。
そう考えるとまだその時期ではない。それにまだ一歳児なのだ、時間など無限にあるのだから焦る必要など全くないだろう。
しかし夏が終われば二歳に成ることを考えると、まだ一度も外に出たことがないというのは、もしかするとあまり良くはないのかもしれない。
今日、いや明日は初めての外出をすることにしよう。そう決意し、私は床に就いた。