10話 2歳
水魔法を習得してから3か月がたった。
楽しみにしていたお出かけは教会の急な呼び出しによってなかったことになってしまった。
代わりにというわけではないが、ローブとセットで手袋も仕事の合間に買ってきてくれた。
3か月もたつとおなかもだいぶ大きくなり、完全に妊婦さんの様相となったママは、しばらくの間、お仕事はおやすみということになったらしく、よく子供部屋に遊びに来るようになった。
ちなみにこの部屋に来たママの第一声は「何もないのね、この部屋」だった。
それもそのはずで、ベット、椅子、暖炉、衣類などを除いたとき、この部屋にあるのは絵本とオルゴールだけなのである。
娘が全く出てこない部屋がこんなにすっからかんで何もないとは夢にも思わないだろう。
最初は私の魔法を眺めていたママだったが、だんだん暇になってきたらしく、途中から絵本を読んだり、文字を教えてくれたりするようになった。
その甲斐あって、私は無事に文字を習得した。
が、それと同時に失ってしまったものもある。
そう。タマだ。どうやらおなかの中に赤ちゃんがいることがタマにもわかるらしく最初にママが部屋に来てからはママに引っ付いている。
そんな...。私の唯一の友達が...。
ならば!我が盟友タマを取り戻そうではないか!
現時刻一一〇〇をもって盟友タマ奪還作戦を開始する!
手段はこう。ネコの気を引く方法など昔から決まっている通りネズミだ。
まずは氷でネズミを作る。そしてタマの前をちょろつかせたらネズミを撤退させる。以上。
ネズミを作るのも動かすのも、そのための視界を確保するのもすべて水魔法でできる。なんなら触覚も聴覚も水魔法で補えるくらいだ。
一応、嗅覚と味覚はまだできない。やり方がわからないのだから仕方ないが。
となれば早速ネズミを作っていく。
が、どうやって動かすのがいいだろうか。
残念ながらネズミを、まるで生きているかのように歩かせる技術は私にはまだないのだ。
ならばタイヤをつけるのがいいだろうか?
まあ引きずって動かすのに比べればタイヤで転がす方が見栄えがいいだろう。
そうしてすぐに完成したのは、温度-10°C・全長7㎝のネズミカーだった。
早速作戦開始!と思い水魔法でタマの居場所を探すと、早速問題発生!
どうやらママは今日はフィン兄さんの素振りを眺めているらしい。
車高が3㎜くらいしかないネズミカーでは庭は走れない。
ならば、作戦を変更しよう。
ネズミカーではなく、ネズミ電車にしよう。
そして銀河鉄道のように空中を走ってもらえばいい。
それなら方向転換する際に持ち上げて向き調整する、みたいな不自然な動きをしなくて済む。
問題と言えば今が7月でこんなくだらないことでも、かなり魔力を使ってしまいそうなことだろうか。
魔法は遠くに行けば遠くに行くほど使う魔力が増えていく。とはいえ倍々に増えていくわけではないので遠くなったからと言って急に魔力消費が倍になったりはしない。
が、代わりに手数が増えるのは大問題である。視界の確保、レールの生成、レールを空中に浮かせる、ネズミの移動、ネズミの温度の調整。
これをすべて部屋からやるとなるとおそらく家を氷漬けに出来るほどの魔力を使ってしまう。
これでは試行回数が稼げない一発勝負になってしまうだろう。なので...
まあいいか、やってみるか。
作戦スタート!
まずはネズミ電車とレールを生成して動かす。
しまった、玄関を過ぎるまでレールの回収もしないといけない。
私の目を閉じ、ネズミ視点の視界に切り替えたら、子供部屋を出て廊下へと進めていく。
廊下では、すれ違うメイドが棒立ちとなってこちらを見ていた。
子供部屋の外はやはりというか暑いようで、すぐに氷が溶けてしまうのでネズミの温度を冷やしながら進んでいく。
玄関に到着すると、タイミングよく扉が開いていたのでそのまま通り抜ける。
庭に出るとめっちゃ暑い、が負けじと温度を下げながら進む。
すると、フィン兄さんが素振りをしているのが見えてくる。
とても整ったフォームだ。
そして、近くの日陰に座りそれを眺める...いや、こっちをみてるママと...
...そのママの膝の上で眠るタマ。
はい、解散。




