0話 転生前
それは寒い冬の日、すこし雪の積もった歩道に足跡をつけながら登校する月曜日。地元と距離を取りたかったとはいえ片道2時間はやりすぎたなぁ、なんて思っていた通学路も、2年間も通えばそれはもう慣れたもので、今では遅刻の常連として周りから一目置かれているものだ。大学は近いとこを選ぼう。
それでも早く起きれたなら間に合うように登校しよう、という最低限の常識は健在。今もこうして始発のバスより早く駅を目指している。
そんな今を時めく高校2年男子、佐藤祐樹。クラスでヤンキーなんて言われたりもするが、その実ただ単にだらしがないだけだったりする。
特に自分の部屋なんかはひどいもので、ごみ箱の写真と部屋の写真を並べられたらどっちが自分の部屋かわからなくなってしまうほどだ。
趣味なんかアニメやネット小説だ。ヤンキーどころかただのキモオタだろう。今日みたいな雪の日の道路を見ると、地面滑りそうだな、異世界転生トラックとか突っ込んでこないかな、とか思ったりするぐらいだ。
そんなことを思っていると車道を明らかに速すぎる速度で走る車が通り去っていった。が、もちろん事故を起こす気配なんか全くない。現実はそんなもんだ。高い技術を誇る日本の車がそう簡単に事故を起こしたりしない。プ〇ウスだけだ。
それにプ〇ウスだって今となっては昔の話。むしろあの神風特攻が今の車をより良いものにしているはずだ。そう。事故死なんてめったにするもんじゃないんだ。
でももし、転生できるなら。それも悪くない。
最強のスキルと最強のステータスで並みいる兵どもをばったばったとなぎ倒し、時にはかわいい女の子を助けてお近づきになったり、何だったら美少女ハーレムを作って快楽に溺れる人生なんかも悪くない。最高。ヤりたい。
そんな願いを込め見上げた頭上には、工事現場からこぼれた鉄骨が目前に迫っていた。
それはもうこの上ない顔面クリティカルヒットにより、この世から羽ばたくこととなった。