撮影スポット
この野球場には良い撮影スポットがある。
野球場の外周通路、たくさんの売店が並んでいる中に、そのスポットはあった。
試合の一場面が壁に大きく描かれているのだ。リアルタッチな絵の前に立って、自分がプロ野球選手になったつもりで、写真を一枚。
絵のすぐ近くには、「こんな風に撮るのがオススメ!」という見本が飾ってある。たとえば、この絵は「ホームベース上のクロスプレー」の場面なので、すべり込んでくる選手は真剣な表情をしていた方が、それっぽくなるのだ。
こういった絵が全部で四枚。外周通路の東西南北に、それぞれ一枚ずつ配置されている。
で、この四枚の絵には秘密があった。
実は、北から時計回りに四枚を並べると、「四コママンガ」になるのだ。四枚の前でそれぞれ、見本どおりに写真を撮ることで、自分が主人公の「四コママンガ」をつくることができる。
四枚の絵によるストーリーは、「打席に入って」、「特大のヒットを打ち」、「ホームベースに生還」、「そのあとベンチで仲間たちと喜ぶ」というもの。
もともとはこの四枚の絵、「お客さんたちが外周通路のお店を全部見て回る」ことを期待した、球場側の工夫の一つだった。
ところが、最近になってファンの一部が、別の遊び方を考え出した。
四枚の絵をそのまま使うのではなく、使うのはその内の三枚だけ。
残る一枚は、野球場の別の場所で、思い思いに撮影してくる。たとえば、「点差が大きく開いたスコアボードを、指差しているところ」とか、「相手チームのユニフォームを着て、外野スタンドからホームベースへ遠投しようとしているところ」とか。
こうして自分だけの「四コママンガ」をつくって、家族や友人に見せるのだ。
そんな楽しみ方が、ファンの間で静かなブームになっている。
次回は「閉会式」のお話です。