表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

自由の女神にイタズラしたい

 メジャーリーグの開幕かいまく前夜ぜんや、リバティ島に数人の男女が上陸じょうりくした。


 この男女、自分たちでは「ダークヒーローの集団」を気取きどっているが、まちでの評価ひょうかは、「愉快犯ゆかいはん」もしくは「スケールの大きなイタズラをするひまじんたち」である。


 リバティ島に来た目的は、ここに立っている「自由の女神」だ。彼女にイタズラして、ニューヨーク中を、あっと言わせたい。


 このイタズラを思いついたのは、およそ一年前のことになる。昨年のメジャーリーグが開幕した直後だ。もしも自由の女神が持っているのが、「たいまつ」ではなく、「ベースボールのバット」だったら・・・・・・。


 そんな素敵すてきなイタズラを実現すべく、それから一年もの間、こっそり準備を進めてきた。


 他のヒーローや警察ポリスぎつけられたら、妨害ぼうがいされるにちがいない。彼らは真面目まじめすぎるのだ。ユーモアがりない。ニューヨークには、もっとたくさんのジョークが必要だと思う。


 島に上陸した男女は、ボートから資材しざいを降ろした。自由の女神が立っている場所まで、その資材をはこんでいく。


 すでに先遣隊せんけんたいが、事前準備をませていた。女神のたいまつからは、ふといロープがぶら下がっている。


 そのロープで、自分たちと資材を高所まで運び、先遣隊と合流ごうりゅうした。


 さて、ここからがイタズラの本番だ。スケジュール通りに、手順てじゅんを実行しなければ。


 だが、まずは国歌だ。全員で夜空に向かって、アメリカ国歌を斉唱せいしょうする。


 その様子ようすは映像に記録して、あとでインターネットにながす予定だ。こうすることで、自分たちには「ユーモア」だけでなく「愛国心」もあるぞと、広くアピールすることができるだろう。


 それでは作業を開始する。


 自由の女神が右手でかかげているたいまつ、これに「バットの形をした巨大風船」をかぶせてしまおう、というわけだ。


 メジャーリーグの開幕前夜にふさわしいイタズラだと思う。「バットを持つ自由の女神」の完成だ。


 ぞうきずつけないよう、慎重しんちょうに作業を進めていく。しぼんだ状態じょうたいの風船を、たいまつの土台部分、その周囲しゅういにセットした。


 そして、ねつ気球の要領ようりょうで風船をふくらませていく。


 専門家にきちんと計算してもらっているので、この風船で自由の女神が空へ飛んでいったり、その右手がへしれたり、ということはない。安全対策は万全ばんぜんだ。


 ここまでのところ順調じゅんちょうだが、油断ゆだん禁物きんもつだった。


 この状態になると、さすがに目立めだつ。ヒーローや警察ポリスがいつやって来てもおかしくない。


 そうなる前にイタズラを完遂かんすいして、撤退てったいするのだ。


「来たぞ!」


 自由の女神の視線が向いている方角、夜空をき進んでくるまるい物体があった。


 それを目にして、たいまつの土台部分で歓声かんせいをあげる男女。あれは味方だ。ベースボールのたました気球である。


 自由の女神のバットに、あの気球がぶつかる瞬間、ぎゃく噴射ふんしゃをかけるのだ。そうすれば、まるで自由の女神が、バットでボールを打ち返したように見えるはず。


 ぐんぐんと近づいてくる丸い気球。


 しかし、さすがにヒーローたちも気づいたらしい。空を飛べるヒーローたち、《スカイ・ガーディアンズ》がやって来た。


 夜空が一気にさわがしくなる。


「ボールの気球を守れ!」


 たいまつの土台部分にいる男女は、特殊とくしゅなバズーカほうちまくる。


 発射されたたまは、一定距離を飛ぶと破裂はれつして、周囲に大量のかみ吹雪ふぶきをばらまくのだ。


 夜空をいろどる金色の紙吹雪。


 イタズラのコンセプト上、煙幕えんまくを使うわけにはいかない。「ニューヨーク中から自由の女神が見える」というのが、このイタズラでは重要なのだ。けむりで像が見えなくなっては、元も子もない。


 また、爆弾ばくだんの使用も、自分たちの流儀りゅうぎに反する。


 だが、あんな紙吹雪では、ヒーローたちを止めることはできない。


 手旗てばた信号しんごうで気球へ合図あいずを送る。速・度・を・上・げ・ろ。


 白い気球には補助動力として、特殊なエンジンをつけていた。燃料ねんりょうはトウモロコシ。それをポップコーンにするさいに生じるパワーを、気球の推進力すいしんりょくに変える仕組みだ。


 そのエンジンに、キャラメルソースが投入される。


 気球の速度が上がった。


 だが、ヒーローたちをふり切れない。このままでは追いつかれてしまう。


「気球を守れ!」


 たいまつの土台から、次々と飛び出す男女。


 背中にはロケットブースターパックをつけている。これがあれば、空を飛べるのだ。


 ただし、長い時間はもたないけれど。


 ヒーローたちとの空中戦が始まった。


 この間にも、丸い気球は自由の女神へと接近していく。


「よしっ。そろそろ逆噴射の用意だ。少しずつ速度をゆるめろ」


 これで、自由の女神がバットでボールを打ち返す、そんな様子をニューヨーク中に見せることができるはず。


 ところが、気球の速度が変わらない!?


「エンジン故障こしょう! エンジン故障!」


 丸い気球からあせりの声が飛んできた。


「くそっ!」


 ヒーローたちとの戦いを放棄ほうきして、気球にけつける男女。


 そして、丸い気球を止めようと、全力で押し返す。


 が、気球のいきおいはおとろえない。


「くそっ!」


 こうなったら、手段をえらんではいられない。


「ヒーロー、助けてくれ!」


 夜空に向かってさけんだ。


 むしのいい話だとはわかっている。


 今の今まで敵対関係にあったのだ。わなの可能性をうたがわれても、文句もんくを言えない状況。


 でも、他に方法が・・・・・・。


 次の瞬間、ヒーローの一人が急接近してくる。


「この丸い気球を、反対側に押せばいいんだな!」


「そうだ! 協力感謝する!」


 これをかわりに、他のヒーローたちも次々と加勢してくれる。


「せーのー!」


 先ほどまで戦っていた者たちで、声を合わせる。


 ボールを模した気球は、自由の女神のバットにあたる寸前すんぜんで止まった。残り数センチ。


 そして今度は、反対側へと動き始める。


 その様子は、まるで自由の女神が、バットでボールを打ち返したかのようだった。






 ニューヨークはランチタイムをむかえていた。


 自由の女神にイタズラした男女は、つかれた顔で警察ポリスステーションから出てくる。


 あのあとみずから進んで、ヒーローたちに逮捕たいほしてもらったのだ。


 もしもヒーローたちが助けてくれなかったら、大変なことになっていたかもしれない。丸い気球がたいまつ部分に激突げきとつして、女神の右手が折れていた可能性もある。安全対策は万全ではなかった。


 逮捕されたあとは、警察ポリスに引きわたされて、この時間までさんざんお説教されていた。


 その程度ていどで済んだのには、理由わけがある。あのイタズラを楽しんだ多くの市民が、減刑げんけいもとめる声をあげてくれたのだ。


 自由の女神がバッティングする瞬間を、かなりの市民が目撃もくげきしていたらしい。そして、いまだに話題にしているそうだ。今日のニューヨークは、いつもよりも活気かっきちているという。


 警察ポリスステーションから出てきた男女の前に、一人の男性が近づいて来た。


 あの時、真っ先に助けてくれたヒーローだ。


「こういう物があるんだが」


 そう言って、ベースボールのチケットを見せてくる。


一緒いっしょにどうだ?」


 メジャーリーグの開幕戦のチケット。この場にいる全員分があった。


次回は「撮影スポット」のお話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ