野球場の看板
野球場に快音が響き渡った。
「これは大きいぞ!」
興奮するアナウンサーの声。
打った瞬間、ホームランとわかる一撃だった。
試合の均衡を破る打球は、特大の放物線を描いて、外野スタンドの上まで到達する。そこにあった看板に、勢い良く命中した。
その光景を目で追っていて、打った選手は思わず苦笑いをする。
よりにもよって、あの看板に当ててしまうとは。
ちらりと味方ベンチの方をうかがう。
あの看板に載っているのと同じ顔が、そこにはあった。
監督だ。ある企業の広告塔として、あの看板に顔写真を載せている。
監督には、新人の頃から目をかけてもらってきた。自他ともに認める師弟関係なのに、今回の特大ホームランだ。よりにもよって、看板の中の監督にぶち当ててしまった。右の「ほっぺた」への直撃弾である。
しかし、当の本人はホームランに興奮しているっぽい。まあ、こういうことで怒るような人ではないけれど。
選手は一安心して、内野を一周してくる。そのあとは、監督から祝福を受けた。
で、翌日の試合前のこと。
「よおっ!」
明るく声をかけてきた監督の顔には、大きな「ばんそうこう」が貼ってあった。右の「ほっぺた」だ。昨日の試合で、ホームランが看板に当たったのと同じ場所。
ひょっとして監督、内心では怒っている?
そんな風に一瞬思ったものの、
「今日も頼むぞ。期待しているからな」
なおも監督の声は明るい。怒っているようではなさそうだ。あの「ばんそうこう」、ただのジョークか? そういうことにしておこう。
しばらくして試合が始まる。
そして、この試合でもホームランを打った。
手ごたえは昨日と一緒だ。特大の放物線を描いて、外野スタンドの上まで到達する。そこにあった看板に、勢い良く命中した。
昨日と同じ看板だ。ただし、昨日は右の「ほっぺた」だったが、今日は左の「ほっぺた」だ。監督の顔に、二日連続の直撃弾である。
こんなこともあるんだな。選手は苦笑いをしながら、内野を一周してくる。
ベンチに戻ると、
「よおっ♪」
監督が明るい声で迎えてくれる。
「このあとも期待しているからな」
その顔にはすでに、二つめの「ばんそうこう」が貼ってあった。
楽しい師弟関係である。
次回は「修学旅行」のお話です。