再会
「私は水澤紗織です・・・支倉先輩・・・ですよね?」
そう言った彼女は真新しい制服に身を包み前に会った時よりも顔は晴々していた。最も隆之介が驚いたのは中学の制服から高校の制服に変わっただけで彼女の印象がかなり変わったことだ。制服が新しいために体に馴染んではいないが、隆之介よりも年下とは思えないほど大人びて見えた。
「久しぶりだね。本当に第一高校に入学したんだね」
「はい。お久しぶりです。先輩に騙されたことにして第一高校に入学しました」
そんな会話をしていると
「あれ?二人は知り合いなの?」
と美優からもっともな質問をされた。
「あ〜・・・前に会ったことがあるんだよ」
と言うと
「前に話たじゃん。私がこの高校受験するきっかけをくれた人だよ」
と彼女自身が説明してくれた。
「なるほど。紗織がまた会いたいって言ってた人ね」
「それ言わないで!」
などと隆之介には話の内容は聞こえないが二人で会話に花を咲かせていた。
「二人は中学一緒だったの?」
二人の話を遮って隆之介が入部のむねを聞くと
「はい。保育園からずっと一緒なんです」
と美優が教えてくれた。
「水澤さんは入部するの?」
と聞くと
「支倉先輩は空蝉(UTUSEMI)さん好きなんですか?」
と逆に質問されてしまった。
「好きだよ」
自分で作った曲を好きと言うのはなんとも恥ずかしいがとりあえず好きと言っておく。
「私大好きなんです。三曲目の『五月雨』て曲が好きで、その時からずっと聴いてるんですよ!」
そんなに自分の曲のことを面と向かって言わないでほしい。恥ずかしと言う感情で頭がいっぱいだ。
「そんなに好きなら弾こうか?」
この調子で自分の曲の話ばかりされるのは嫌だったため話題を変えてみる。
「いいんですか!?」
そう言った彼女の目はとても輝いていた・
隆之介は無言でピアノの鍵盤に触れると『五月雨』を弾き始めた。
少しアレンジしながら弾き進めていくとこれも昔自分で作った曲とは違っていたがなかなか上手く弾けたのではないかと思った。
弾き終わるとパチパチと美優が拍手をしてくれた。その横で紗織は目を見開いて驚いている。
「どうだったかな?」
そんなことを彼女に聞くと
「上手だったです」
と言う彼女の目は少し悲しそうに見えた気がした。
その後三人で少し話をした後に
「私入部したいです」
と彼女に言われた。
「じゃあ、これ書いて」
そう言いながら仮入部届を渡すと
一年A組 水澤紗織
と女子らしい文字で仮入部届を書いて隆之介に渡してくれた。
仮入部届を受け取った隆之介は
「ありがと。今日はもう帰るの?」
と聞いてみた
「もう少し話していってもいいですか?」
と言われたときに隆之介は前に悠の言っていた意味が少しわかった気がした。
「全然いいよ」
「ありがとうございます」
「支倉先輩のクラスってどこなんですか?」
「あ、私も気になる」
ここであることに気づいた
「水澤さんは敬語使うの苦手?」
「はい。苦手です」
思った通りだった。
「じゃあ、二人とも俺には敬語使わなくてもいいよ。それに先輩って呼ぶのもやめてくれ」
そう言うと
「じゃあ、支倉さんて呼びます」
と美優に言われた。
どうやらこっちは敬語を抜く気は無いようだ
「私も支倉さんて呼ぼ」
こっちはすぐに敬語が抜けた。
「支倉さんは何組なんですか?」
「俺は二年A組だよ」
「普通かなんだ」
「音楽科だと思ってました」
「私も」
なぜか音楽科だと思われていたらしい。
「なんで?」
「ピアノ上手いから」
と紗織が答えてくれた。
「この程度のピアノのレベルじゃ音楽科には入れないよ」
これは自分が昔第一の音楽科を受験して失敗したことから得た事実だったが、二人には黙っておくことにした。
結局この日は完全下校時刻の七時十分前まで部室で話して帰ることになった。
隆之介の家は隣町なので駅に向かって歩く。紗織の家は駅の近くらしいので途中まで一緒に帰ることになった。
「じゃあ、私は反対方向なのでここで失礼します」
唯一美優だけが反対方向なので学校で別れることになった。
「先輩はなんで第一に入学したの?」
駅の方へ歩きながらそんなことを聞かれた。
「夢を叶えたかったからだよ」
「その夢って何?」
「それは・・・」
そう聞かれて言葉に詰まった。
隆之介の夢は作曲家になることだった。その夢の半分は叶っているが、まだ完全に叶ったわけじゃない。空蝉(UTUSEMI)として人気が出て来てはいるがまだ爪が叶ったわけではないのだから。
「言いにくいこと?」
「あぁ。また機会があったら話すよ」
「じゃあ今はその機会を楽しみにしてるね」
そんな話をしているうちに神社の前まで来ていた。
「ここ懐かしいね」
そう言ったのは紗織だった
「あの日はびっくりしたよ」
「あはは。でも、あの時あったのが支倉さんでよかったよ」
「なんで?」
「ひみつ!」
そう言った紗織はベンチを見ていた。
駅に着くと
「私の家こっちだから。また明日学校で」
「また明日」
そう返すと紗織は帰路についた。
その後ろ姿を見送ってから隆之介は駅の中に入っていった。