彼女との出会い
ある雪の降る日、支倉隆之介は一人の女の子に心を奪われた。
今思えばあれは一目惚れと呼ぶのだろう。
雪が降りしきる中傘も差さずに小さな公園のベンチに座っていた彼女に・・・。
十二月も終わりに差し掛かったある日の朝、まだ数人しかいない教室ではある話題が賑わっていた。
「空蝉(UTUSEMI)の新しい曲聞いたか?」
「聞いた!」
「今回はカッコいい曲だったな!」
などと男子たちがある動画配信サイトにアップされた一つの曲についての話題だ。
空蝉という音楽クリエーターのである。彼はボーカロイドを用い楽曲を動画サイトにアップしており、最近人気が出始めたクリエーターである。
そんな話を聞きながら窓の外を眺めていると、机の上にあった携帯が震えた。
メールの着信だ。
画面に目を向けると、思った通りの人物の名前が表示されている。
——こっちは結構話題になってる。そっちは?
と橘悠から連絡が入っていた。
彼は隆之介が通う星南芸術大学付属第一高等学校の姉妹校である星南芸術大学付属第二高等学校の美術科に通っている。
星南芸術大学付属校は第三まであり、各校に普通科と、第一には音楽科、第二は普通科の中に進学コースと、美術科、第三はデザイン科がある。
——こっちも今教室にいる奴らが話てるよ。
とメールを返す。
すぐに返事が来た。
——今回の曲は結構自信あったもんな。
——でもやっぱり不安だろ?
——たしかにww
——次の曲については夜電話する
——了解
といった会話である。
今クラスにいる男子が話している空蝉とは支倉隆之介と、橘悠の二人で制作した曲を投稿するために作ったチャンネルなのである。
最初は、趣味程度で中学の時に音楽を作り始め、自分瀬作った曲に悠が描いた絵を動画にして投稿し始めただけだったが、一年半が立つ頃から人気が出始め、現在では十五万人を超える人々にフォローされるようになっていた。
『今回の曲も成功してるみたいでよかった』
と思いながら次の曲の構想を考えているうちにクラスには登校してきた生徒たちで賑わい始めた。
八時三十分になるとほとんどの生徒が投稿しており、学校中が賑わっている。
これほど学校が賑わっているのは今日が二学期の終業式であるからである。
ホームルームが終わる頃になると雪が降り始め、あたり一面が白くなる頃には終業式も終わり、ロングホームルームで担任から成績表を受け取り、窓の外を眺めているうちに下校時刻になった。
放課後になり多くの生徒が部活動に励み始めた。野球部と、サッカー部が校内を走り込んでいる横を通り過ぎながら部室に向かう。
音楽棟にある音楽準備室という名の部室に着くと鍵を開け中に入る。
ここは音楽研究会の部室であるが、この部活は自分で放課後自由に教室とピアノを使いたかったためだけに作った部活であるため、部員は一人である。
ここで次の曲の構想を練っているうちに今日の完全下校時刻の午後四時十五分前になっっていた。
机の上に広げた譜面や、ノートをしまい鍵をしめ部室を後にする。
職員室に部室の鍵を返すとすぐに学校を出た。
外は雪が降っており、傘をさし帰路についた。
帰っている途中にある神社の横の小さな公園に差し掛かった時に一人の女の子が目に入った。
彼女は傘も差さずにベンチに座っていて、どこか悲しそうな目をしていた。
普段なら気にも留めないような状況だが、体が勝手動いていた。
「傘も差さないでこんなところにいると風邪ひくぞ」
そう言いながら彼女に傘を差し出した。
彼女は高校の近くにある制服をきていた。
髪は肩口まで伸びており、わずかに釣り上がった目が特徴的であり、整った顔をしていた。
「私は・・・人生がどうでも良くなったんです・・・」
と口にした彼女の手には一つの水色の封筒が握られていた。
それを見た隆之介はその封筒が星南芸術大学附属第二高等学校の合否通知書であると一眼でわっかった。
それと同時に彼女がなぜここで傘も差さずに座っているのかも・・・。
「じゃあ、俺が話聞くから屋根があるところに行こう」
そう言いながら彼女を神社の境内に連れて行き、屋根のあるところに座らせ、近くの自動販売機で買ったココアを手渡した。
ここで初めて自分が名乗っていないことに気づいた。
「俺は星南高校の一年 支倉隆之介です。君の名前は?」
「私は・・・北中の三年 水澤紗織です」
と自己紹介をしてくれた。
「紗織さんね。こんなところで一人で何があったの?」
そう聞くと、
「私・・・受験した高校に失敗したんです。星南付属の普通科進学コース。」
と今にも泣き出しそうな声で教えてくれた。
その後いろいろな話を聞いた。
絵を描くのが好きなこと、将来はいい大学に行きたかったこと。
しかし、星南付属高の音楽科、美術科、デザイン科、進学コースの試験は十二月の頭に実施されこのタイミングでの合否発表であり、二次募集などは行われない。つまり、今進学コースに落ちたということはこの先進学コースには行けないということである。
この時になんと答えるべきかわからないまま考えていると、
「私この先どうしたらいいですか?」
と質問されてしまった。
「え?」
予想外の質問に素で驚いた。
「他の進学校を受ける気はないの?」
「進学校は星南の第二しか受けたくなかったです」
「じゃあ、第一の普通科を受けるってのは?」
「え?」
今度は彼女の方が驚いている。
「第一でも勉強すれば大学にも行けるし、家からも近い。それに、高校に入れば大学に行きたいとか意外にもやりたいことが見つかるよ」
「本当ですか?」
「絶対に!」
「じゃあ私は・・・第一を受験してみようと思います」
そういった彼女の目には涙が溜まっていたが、顔は初めて見た時よりも明るくなっていた。