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三章:欲しかったのは(22)

 

 さて、準備は万端。後は目の前――視認は不可だが――の時空の歪むポイントから敵の登場を待つまでだった。この瞬間は気を緩めてはいけない。そのことは前回の戦闘時に思い知らされた。

 

 そして今日は時空間凍結能力を使う。すでにそう決めていた。ここが市街地の上空であること、時間が早いこと、移動にエネルギーを消費しなかったことが私にそれを決断させた。

 

 時空間凍結能力。それは非常に高度な時空系の能力のうち私が必死の努力により唯一身につけたもの。

 

 時空系の能力は他の能力と習得の方法が違った。他の能力は理論を理解すればその種の能力はほとんど全て使うことが出来る。しかし、時空系の能力は理論を理解するという行為が不可能に近い。それには一個の生命としての命の長さではあまりにも足りなすぎる。

 

 ある意味で時空に歪みと似た異常事態を発生させつつ同時にそれによる時空の歪みを抑えるという理論を死までに理解できた先人は存在しない。よってこの能力に関しては、非常に才あるものがその個別の能力の理論を、先人たちの解明した理論を元に一部理解し、概念を把握し、感覚で発動させる、とされている。

 

 そして同系統でありながら個別の理論が全く似ていないので他の能力は発動できない。つまり、一つ一つの習得に膨大な時間と優れた才能、運などが必要であるということだ。

 

 私は座学でこのことを学び、そしてその中の時空間凍結能力を知った時、この能力の習得を欲した。時空間凍結能力は時空の歪みを起点としてそこから歪みの範囲を延長させ、その延長した範囲内の時を止め、空間の変化を阻止する。

 

 時を止めるのはわかりやすいが、空間の変化を阻止するというのは少々わかりづらい。その正確な理解がこの能力の習得には必要だが、この世界の言葉でわかりやすく言えば、凍結された空間内は凍結した瞬間を保とうとする。破壊されれば自己で修復し、移動しても自己で戻ろうとする。その全ては緩やかに行われる。つまりはその空間の自己修復を待ち、能力を解いた瞬間に元の状態に再現される。それは大気の成分が0.1%でも変わってもいけないし、同じ素粒子だからといって場所が入れ替わることも許されない。全てが元に戻る。生命を宿すものを例外として。

 

 故に凍結された時空間内では被害を考えることなく戦闘を行うことが出来る。凍結範囲に他の生命を巻き込まなければ、その凍結が解かれたときに変わっているのは私か、化け物か、それとも両方の生死のみ。実際は範囲を広げたときに他の生命を巻き込まないというのは難しい。それでも、被害を少なくするのには十分。それが私がこの能力を習得しようとした理由だ。

 

 その習得には流石に困難を極めた。しかし、努力の甲斐と、偶然私が持ち合わせた才能とやらのおかげで、私はそれをものにした。この能力の習得なくして私ほどの齢での他世界での長期滞在任務は無かっただろう。

 

 しかし、この能力を使うには多くのエネルギーと、時間が必要だ。しかも、その発動は時空の歪みが条件となっているため、化け物が出現してからしか使えない。だから、長距離移動を伴う戦闘では戦闘に割くエネルギーに不安が残り、化け物の出現が時空の歪みから瞬間的であれば後手に回る。なので今までの戦闘では使ってこなかった。

 

 今回は違う。この時間帯にこの位置。使わねば犠牲は避けられない。使っても避けられないかもしれない。とにかくそれを最小限にするために。

 

 私は身構える。今、始まった。


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