三章:欲しかったのは(19)
昼を前にして目が醒めた。そもそも疲れていたわけでも無いのに、昨日も朝からだらだらと寝ていたためにもう眠っていられなかった。今日も午前中からこれだけ寝てしまったので、夜寝れるかどうかが心配だ。
私は体を起こし、とりあえずは昼食を作ることに決めた。人間、お腹が空いては何も出来ない。頭も回らない。キッチンに入り、冷蔵庫の中を確かめようとそのドアを開いた。中を見ると一枚の大皿がまず目に入った。それには綺麗な黄色が光るオムライスがのっていて、さらにラップがかけられていた。そのラップには一枚の紙が貼られていた。私はそれを手に取り、読んだ。どうやらお母さんが朝の忙しい時間に作っていってくれたようだ。
作る手間が省けたので有り難くそれと、ケチャップを冷蔵庫から出した。正直な所、由里に作った経験があろうとなかろうと、私にうまく出来るかは心配だった。
私はスプーンを手にとってリビング、居間に入る。手早く腹を満たし、後を片付けるといきなりやることが無くなった。普段の由里ならどうしただろう。私は自身に問い掛けてみる。その答えに従って私は部屋に行く。
部屋の本棚を眺めて見た。中には未読の小説の文庫本が二冊ほどあった。それを手にとってみる。しかし、そのタイトルと裏に書かれたあらすじを読んでみても、いまいちピンと来ない。第一案は却下だ。
次に私は机を見た。続いて鞄を見た。私には由里の知識に加えこの世界で暮らすために膨大な量の知識を詰め込んできた。それに、私が機関で理解した理論なんかはこの世界の数段上のレベルである。よって授業の予習という第二案も却下……。
ダメだ。本当にやることが無かった。むしろこっちに来てから私は暇な時間に何をしていたのか。それを一つ一つ思い出してみた。すると、そこには大体、圭織の姿があった。
携帯電話を手に取り、圭織の番号を呼び出した。0から始まる無機質な十一桁の数字が並ぶ。これでボタンを一つ押せば圭織と話せるのだ。けど、なんて言えばいい。『私は他の世界から来た』、『私は由里じゃない』。言わなきゃいけないことは山ほどある。でもそれを言ってしまったら圭織との関係はどうなるのか。たちまち切れて、いや、切られてしまうのではないか。疑問を持たれてしまった以上、先延ばしにしてもいつかは解決しなければいけなくなることはわかっている。けど、けど…………!
携帯電話に表示された番号がぶれてよくみえなかった。私はそれを閉じた。