三章:欲しかったのは(7)
由里ちゃん大丈夫?
連絡こないから心配してるよ?
愁也君にも伝えておきました
何か風邪かなんかで寝てるのかなって思って今日愁也君と二人で由里ちゃんの家にいってみることにするね
圭織
もう一度、今度は流さないでじっくりとその文章を読んでみるが、愁也君と二人で、確かにそう書いてあった。そしてさっき、圭織は後2分で着くとかどうとか。
「……まずい」
何というか、圭織ならまだしも、愁也君にこんな生活感バリバリのところを見られるというのは流石に恥ずかしいところがある。普段から薄いけど、いつもは化粧だって少しはしてるわけだし、服もおしゃれも何も着てるのはパジャマだ。真後ろにある鏡を振り返るとさらに悲惨な状況だ。黒く長い髪はとかしていない。よく見ると寝癖も立っている。
ピンポーン
お決まりのチャイムの音が私の思考と身体を停止させた。鳴り終えてから一瞬の間があり、もう一度同じ音がなる。それでも私が出ないでいると、圭織は突然の暴挙に出た。
「由里ちゃーん!」
あろうことかドアの前で大声を上げ始めたのだ。小学生じゃあるまいし。というか、なんでこんな時に限ってそんな積極的なのか。
こうしてぶつくさと文句を言っていても仕方がない。圭織には私がこの家にいることは確認済みなのだ。とりあえずはインターホンで出て20分、いや、10分でいいから待ってもらうように言うしかない。
と、思っていたのもつかの間、次の圭織の言葉を聞いて私はその格好のまま玄関に飛び出していくことになった。
「ほら、愁也君も由里ちゃん呼んで。愁也君が呼んだらきっと出てくるよ」
「え、そうかな……」
「だめー!」
こんなところで男の子に自分の名前を、しかも下の名前を大声で叫ばれるなんて、死ぬ。恥ずかしくて死ぬ。近所の噂になることは当然だし、それが両親に伝わればからかわれるし、弟にもからかわれる。この近くには北高の知ってる生徒、同じ茶道部だって何人かいる。
「あ、由里ちゃん。風邪大丈夫?」