三章:欲しかったのは(6)
「……え?」
確かに、今圭織は2分程で着くと言った。どこに? 文脈から判断すれば、私の家にだ。なぜ? たぶん、連絡がないことを心配して来てくれたに違いない。住所は先生にでも聞けばわかる。
「どうしよう……」
何も用意なんてしてないし、今家には私以外誰もいない。私が着ているのもパジャマだし、出迎えるのはちょっと恥ずかしい。
戦闘の時ならもし2分もあれば万全の準備を整え、敵と対峙できるだろう。その後帰った時のことを考えられるくらい余裕ができる程の時間だ。しかし、今圭織が来ると言われ、何をしたらいいのかわからない。下手したらここでそれをぼうっと考えているだけで2分が過ぎる。
それはまずいと思い、とりあえずはまだ開いていない4通のメールに目を通すことにした。圭織が来てくれるというなら、その内容に目を通しておかないのは失礼だろう。待ち受けからメールのアイコンを選び、直接受信ボックスを開くと未開封の4通が目に入った。そのうち2通の差出人は圭織で、1通はお母さんだった。そして最後の一通は…………愁也君。自分で設定したはずのその名前を見てとたんに恥ずかしくなった。
気を取り直し、とりあえずは一番時間の古いものから順に見ていくことに決め、圭織のメールを開く。着信時刻は8:21だ。たぶん、私が電車に乗っていなかったのでその車内からのメールだろう。
由里ちゃん電車乗ってる?
見あたらないので、座っちゃいました。
いたらメールください。
圭織
圭織らしいちょっと堅めのメールだ。といっても私も似たようなものだけれど。いや、圭織のメールは文体は質素だけど、所々に絵文字が入ってたりして私のメールよりは女の子っぽい。私のメールの酷さと言ったら……仕方がないじゃないか。メールなんて向こうにはなかったし、元々由里がこうだったんだから!
……なんて言い訳、いや、由里へのちょっとした怒りか。そんなものをしている余裕は無いことを思い出す。
次はお母さんから。着信は11:49。時間からして昼休みの間に打ってくれたものだろう。そこには私のことを心配し、昼はどうするやら、水まくらを取り替えろだとか、そんな感じのことが延々と書かれていた。
そして次のメール……
「あ!」
思わず声が出てしまった。私一人しか家にいないことはわかっているのに、とっさに辺りを見回す。たぶん、私の顔はほんのり赤くなっていて、ちょっと嬉しそうにしてるかもしれない。この様子と、なんでそうなったか、つまりこのメールの差出人を見られるのはちょっと恥ずかしい物がある。
圭織ちゃんから学校に来てないって聞いた。
先生も連絡受け取ってないって言うし、何かあったのかな?大丈夫?
出来れば早く、連絡ください。
佐藤愁也
二十秒くらいだろうか、そのメールを眺めていたが、本来の目的を思い出して慌てて次のメールを見た。着信時刻は愁也君のメールの直後だ。
その瞬間、私は凍り付いた。