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二章:好きと嫌いと(23)


 翌日の朝、私と彼は朝の時間を示し合わせて来た。私は圭織との約束の電車に乗り、圭織と一緒に登校した。私はぎこちなくも何とか話をつないだ。

 

 私と圭織が学校の最寄り駅についた時、佐藤君はその出口で待っていた。そして、二人で圭織に謝った。言ったのは昨日二人で言い合った内容とほとんど同じだ。私達はそろって頭を下げ、圭織の言葉を待った。

 

「何で?」

 

 それが圭織の口から出た言葉だった。心底不思議そうな声で、私達はわけがわからずに顔を見合わせた。

 

「何で二人が謝るの?」

 

 圭織はそう続けた。私は言ったことが伝わってないのかと思って慌てたが、佐藤君はそんな私を手で制した。圭織が何か言いたそうにしていたのだ。

 

「由里ちゃんがあれは同情だと思うのは勝手だけど、私が辛いときに助けてくれた由里ちゃんには本当に感謝してたし、この前見たく後先考えずに助けてくれたときはもっと感謝した。私が無力で由里ちゃんがいじめられていた時に助けてくれた佐藤君にも感謝してる。嬉しく思ってる」

 

 圭織はさも当然といった風に言った。その言葉にいつものような弱々しさはなく、はっきりとした、確固たる圭織自身の意見だった。圭織は付け加えるように笑って最後にこう言った。

 

「人を助けるっていうのは何であろうと大変なことだよ。これ以上助けられちゃったら私、感謝しすぎて死んじゃうよ」

 

 最後の冗談まで全て聞いて、私たちは圭織の言ってることを理解した。私の中では今までの助け方は悪くて、前の助け方は少し良くなった。でも、圭織の中では良かったものともっと良かったものだったのだ。それに、自分を助けなかった佐藤君にしても、私が圭織を助けて欲しかったように圭織も私を助けて欲しくて、それをしてくれた佐藤君は感謝こそすれ恨みなど圭織の頭の中にこれっぽちもなかったのだった。

 

「どちらかと言うと、私がちゃんと言えなかったのも悪いの」

「いや、圭織は」

「斉藤さんは別に」

 

 圭織の言葉に二人で慌て、私たちが言おうとするのに圭織は被せて言った。

 

「私もね、この休みで考えたの。そして、やっぱり強くならなきゃいけないんだって思った。強くなるって決めたんだ。これからは何でも言いたいことは言うの。もう、流されない。これがその最初だね」

 

 彼女の眼は力強く私たちを見ていた。私は何も言えずに圭織の言うことを黙って聞いていた。

 

「どうしても二人が謝るって言うなら、私もそうやって迷惑かけたことを謝らなきゃいけないし、これでおあいこにしよう? ね、手繋ごうよ。三人で仲良く」

 

 圭織は私の左手と佐藤君の右手をとった。その行動から圭織もこの一週間の間に本当に変わったことを知った。ウェイターを呼ぶのにも一苦労だった彼女とはもう違う。そして圭織が私たちの手を取ると必然的に、私の右手と佐藤君の左手が空く。

 

「ほら、早く!」

 

 圭織に急かされるが、私と佐藤君はためらってお互いの顔を見る。それに私が顔を赤らめてしまい、圭織がそんな私を見る。圭織は少し首を捻ったあと、私たち二人に質問をした。

 

「ねぇ、そういえば今した話とか、こうやって待ち合わせるって話はいつ決めたの?」

 

 私はその質問の裏に隠された問いかけに赤い顔をなおさら赤くした。これ以上圭織にからかわれてはたまらないので、私はぎこちなくも彼の手をとった。私が遠慮がちに彼の手に自分の手をのせていると、彼ががっちりと私の手を掴んだ。

 

「はい、これで仲良しね。もう必要なかったのかもしれないけどね」

 

 私は圭織に怒ろうとしたが、なにも言えなかった。それでは自分から白状するのと一緒だ。圭織は握っていた両手を離し、学校に向かって駆けだした。

 

「二人とも、遅刻するよ!」

「あ……」

「やば……!」

 

 周りをよく見ると既にみんな駆けだしていた。時間はぎりぎりだ。私たちも圭織の後に続き駆け出す。周りを見たとき、私たち三人のことを見ながら何か話していた人達も何人かいたが、そんなことはもう気にならなかった。


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