ゴーレムにリョナられる女の子のお話
少女の眼前にいるのは、黒い石で形成されたゴーレムだった。
背丈は成人男性とほぼ変わらず、一般的なゴーレムと比べると小型である。
少女は、チラリと後方の村を見る。
その村の村長から聞いた話だが、このゴーレムは邪悪な魔術師によって製造され、村を破壊するべく送られてきたらしい。
少女は、この村に偶然にも滞在していた。剣士として一人旅をしていて、その疲れを癒すために休んでいたのだ。
そして時に、村長に「ゴーレムから村を守ってほしい」と頼まれたのだ。
もちろん、快く引き受けた。
断る理由はない。何といっても、剣士の役目は人々の笑顔と平和のために戦うことなのだから。
鞘から剣を引き抜くと、少女の長い金髪が揺れた。
構えの姿勢を取ってゴーレムを睨む。
ゴーレムとは、過去に何度も戦ってきた。
そして、全ての戦いにおいて余裕を持って勝利して、幾度となく人々に感謝の言葉を贈られた。
10歳なのに、体がとっても小さいのにすごいと言われたのだ。
少女は口角を上げた。
自分には経験があるのだ。今回も勝てるはずだ。
ゴーレムは微動だにしていない。あたかも、倒してほしいと言っているかのようだった。
ならば、さっさと終わらせてやる。
腰を落とし、目の前の敵に向かってさっそうと駆けた。
これまて戦ってきたゴーレムの心臓部分には、原動力となっている魔力の塊があった。
それを剣で串刺しにして抉ってやれば、無害な残骸と化すのだ。今までのゴーレムは全てそうだった。
剣の有効範囲まで近づくと、少女は剣の切っ先を向ける。
そしてその勢いで、剣でゴーレムの心臓部分を突き刺した。
余裕の勝利だ。そう確信した。
だが。
次の瞬間、少女の腹部に激しい衝撃と鈍痛が襲い掛かった。
突然のことに意識が飛びそうになりつつも、痛む箇所に視線を向けた。
そして気が付いた。
自身の腹部にゴーレムの拳がめり込んでいたのだ。
先ほど剣で串刺しにしてやったというのに。
「ど・・・どうし・・・て・・・」
手ごたえはあった。確かに魔力を潰した感覚はあった。
だから普通のゴーレムなら、もう動くことは出来ないはずなのに。
考えることが出来たのは、そこまでだった。
ゴーレムは、困惑する少女の後ろ首を掴み、再び腹部に拳を叩き込んだ。
少女抵抗する間もなく、目を見開き唾液を吐き出す。
腹を殴られる。
唾液に加えて涙も流し始める。
殴られる。殴られる。殴られる。殴られる。
「ウグッ・・・!グェ゛!!ウブッ!?」
攻撃を重ねるにつれて、少女の悲鳴は甲高いものから低いものに変化していき、ついに少女は、血液混じりの茶色い吐しゃ物を噴出した。
ゴーレムの攻撃は止まらない。吐しゃが腕に降りかかっても、少女の胃袋が潰れかかっても。
淡々と、無抵抗のあわれな少女を殴り続ける。
このゴーレムを製造した魔術師は賢かった。
真っ先に胸部を狙われることを予想して、胸部の他にも、頭部、上半身、下半身の3つの部位に、魔力の塊を分散して設置したのだ。
これら全てを破壊されない限り、ゴーレムの動きは止まることはない。1つくらい潰されても問題はない。
もっとも、彼女がこのことを知ることはないだろうが。
「グチャリ」という生々しい音が響いた。
少女の胃が破裂した音だった。
少女は、そのショックで全身をけいれんさせ、白目を剥いたまま動かなくなった。口からは、一筋の血混じりの唾液を垂らしている。
ゴーレムは、沈黙している少女をじっと見つめると、自身の胸に刺さっている剣を引き抜き、その一振りで少女の首を切り落とした。
人の体は実に脆いものだ。
断面から大量の血液が噴水のように噴出し、ゴーレムの体を赤く染めた。




