プロローグ・混沌の永き闇
今から一万五千年ほどの永き昔……リントヴルム王国には二つの城があったという。
その城はとても不可思議なもので、一つの城は天に浮かび、もう一つの城は浮かぶ城の真下に建てられていた。
天に浮かぶ城は〝オルヴァス城〟またの名を天竜の城、
地に建つ城は〝エルヴィス城〟またの名を地竜の城という。
この国を作り出した人物は、クラウドという青年とクローディアという少女の力による。
彼らの力は神によって授けられた特殊なものだそうだが、それ一切のことは未だに分かってはおらず、謎が多い。
天の城は空の恵みや魔法を、地の城は農作や知識といった……それぞれの役割を互いに補いながら、四百年という、永い時をともに歩んできた。
今日は年に一度の祭り日らしく、どこもかしこも活気に溢れていた。そんな中、黒いローブを身に纏う妙な男が、街中を歩いていく。
いかにも人目につきそうな格好にもかかわらず、誰もがその男に見向きもせず、その存在すらなかったかのように、普段と少しも変わらない日常を過ごしている。
ただ一人、母親に連れられ、ふとその男を見ていた少女は首をかしげていた。
目元までローブで隠れていたからか、人相までは分からなかったが、人々の歩くその先にある城をじっと眺め、ニヤリと笑う。
その顔にゾッとするほど不気味で、恐ろしくなった少女が咄嗟に彼から目をそらすと、彼はか細い声で何かを呟いていた。
恐怖よりも好奇心が勝ったのか、恐る恐る彼がいた場所へ目をやってはきょろきょろと探す。
だが、いくら探しても……あの黒いローブの男はどこにもいなかった。