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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

暗殺者と死神将軍

作者: てと
掲載日:2020/08/20

誤字脱字報告ありがとうございます!



「いいか、お前らは道具だ。感情を捨てろ、命令に忠実であれ。でなければお前達に待っているのは死だけだ」


「「「はい」」」


ここは国の暗部。身寄りの無い子供達が集められ、国の道具として育てられる。私もその一人だった。感情を殺し、仲間内で殺し合うデスゲーム。残った者だけが国の道具として生かされる。


私はなんの感情も無く命令に従い人を殺してゆく。そんなある日、隣国のセオドア将軍を暗殺する様に命令された。隣国のセオドア将軍は死神とまで呼ばれる手練れだ。正攻法も不意打ちでも勝ち目がないだろう。奥歯に毒薬を仕込み、もし捕まっても死ぬ準備もできている。私は無謀な命令だとも思ったが、私は道具。感情など必要ない。


隣国へ旅人のフリをし、王都へ向かう。しかし、王都へもう少しという所で野盗と遭遇した。ここで全員殺しても良いが、そうなると誰が殺したのだと騒ぎになる。少しでも私という存在はバレない様にしなければならない。少しの間悩んでいると、野盗に髪を掴まれ押し倒される。服を裂かれ、さて殺すしかないかという所で、まさかのセオドア将軍の率いる兵達がやってきた。


野盗達は騒ぎ逃げていくが、兵達が馬で追って行ったのですぐ捕まるだろう。そんな事より、何故セオドア将軍だけが私の所に残るのだろう。


セオドア将軍は精悍な顔を真っ赤にしながら、マントを取り私へと渡してくる。何の行動だ?


「す、すまない。見るつもりは無かったのだが、その……胸が見えて……早くマントを……」


なんだ、そんな事か。だが、これで顔を赤くするのだ、これはいける。私はポロポロと涙を流し、マントを掴みその場へしゃがみ込む。


「こわ、かった……有り難うございます」


「いや、こちらこそ……遅くなってすまない」


「あの……情けない事に代えの服も無く、王都は初めてなので……助けてもらえないでしょうか……?」


「分かった、服はこちらで用意しよう。王都が初めてなら、今回のお詫びに私の屋敷へ泊まると良い」


「有り難うございます……!!」


セオドア将軍が私を持ち上げ馬へと乗せ、私の後ろへと将軍は乗った。背後を取られるのは好きじゃない。無防備に近い状態で私はセオドア将軍の屋敷へと向かった。





ーーーーーーーーーー



セオドア将軍に連られ立派な屋敷へと足を踏み入れる。使用人に私の状況を説明して、客室へと案内される。


「今回の事もあって、怖い思いをしただろう。王都にいる間は此処に泊まると良い」


「……良いんですか?」


「女の一人旅だ。何か理由があるのだろう」


「……ええ。少し複雑な事情がありまして……」


「私はさっきの野盗の件を済ませてくる。服も後で使用人が持ってくるから、寛いでくれ」


一瞬私の素性がバレたのかと思ったが、杞憂だったようだ。さり気なくセオドア将軍を観察すると灰色の短い髪に、目付きが悪いが碧眼の髪をしている精悍な男性だ。よってくる女も多いだろうに、無防備に私を屋敷に泊めるあたり、隙がある。その隙を狙い、セオドア将軍を殺すとするか。


セオドア将軍が部屋を出ていくと、メイドが入ってきて、即製品のドレスを持ってきた。


「大丈夫ですか?怖い思いをされましたね……セオドア様からお嬢様を丁寧にもてなす様に言われてますので大丈夫ですよ」


「……何から何まで有り難う御座います」


「いえ!!あのセオドア様に脅えずにいられる女性など数少ないので、こちらとしても嬉しい限りです!!」


セオドア将軍に脅える?何を脅える要素があった?首を傾げ、ドレスは恥ずかしいから自分で着ると言ってメイドを部屋から出す。私の服の所々に暗器が仕込まれている。これを見られる訳にはいかない。簡素なドレスを選び、ドレスの中や足に暗器を仕込ませてゆく。


再びノックがされ、食事をさっきのメイドが持ってきた。食べてみるが毒の味はしない。セオドア将軍は私の事を警戒していないのか?少しセオドア将軍の様子を見てみるか。 


夜になり、セオドア将軍が帰ってくる。夕食に誘われて一緒に夕食を取る事になった。


「私の名前はセオドア・アバント。君の名前を聞くのを忘れていた。すまない」


「いえ、私はミアです。私も名乗らず……すみませんでした」


ミアなんて名前は嘘だ。私達道具には名前など必要ない。


「ミア……複雑な事情とやらは聞かないが、何かあったら言ってくれ。力になろう」


なら死んでくれ、と言いたくなったが和かに笑う。セオドア将軍は死神とまで言われてるのだ。警戒をするに越したことはない。

 

「有り難う御座います……」


それからというもの、セオドア将軍は花やお菓子、ドレスなどを屋敷に帰るたび私にプレゼントしてくる。この待遇はなんだ?何か思惑でもあるのだろうか。


私は深夜、薄着でセオドア将軍の部屋を訪ねる。隙あらば殺すのは容易であろう。


「ミア、どうした?」


「怖い夢をみてしまって……その……」


「そんな薄着じゃ寒いだろう。これを羽織って中へ入ると良い」


温かい私より一回り大きいガウンを渡され、羽織る。この二週間、セオドア将軍の様子を観察したが、何も聞かないし、仕掛けてもこない。


「怖い夢とはなんだ……?言いたくなければ言わなくて良いが……」


優しく問われ、道具であるはずの私の口から出た言葉は失態ものだった。


「仲の良い友達だった子が次々と死んでいくのです。……私の手で。私にあったのは死にたくない感情だけで、その感情も直ぐに殺されるのです」


もう良いか。私のこの言葉でセオドア将軍も気づいただろう。ずっと胸の奥にしまっていたものを吐露する。


「私は誰も殺したく無かった。でも、友達だったものが私に殺意を向けてくる。生きるために……だから私も殺してゆくのです……生きるために……だから、セオドア将軍……死んでください」


隠し持っていた暗器をセオドア将軍に向けるが、直ぐに取り押さえられる。私は笑いながら奥歯に仕込んでいた毒を噛み、飲み込む。私にはもう、セオドア将軍を殺す気なんかなかった。


やっと自由になれる。


最後に私を道具では無く、人として扱ってくれたセオドア将軍には感謝だ。


そのまま血を吐く私を抱き上げ、セオドア将軍は急いで何処かへ運び込む。


「ミア!!しっかりしろ!!私はまだ何も君に伝えていない!!」


意識の薄れてゆく中、セオドア将軍の声だけが響いていた。





ーーーーーーーーーー




朝日の光で目を覚ます。そうか、私は死ねなかったのか。これから尋問や拷問がまっている筈なのに、私が目覚めたのはセオドア将軍の部屋だった。横には無防備に私の手を握り眠るセオドア将軍がいた。よく見ると目の下にクマや無精髭が生えている。それを私はなんとも言えない感情が湧き上がり首を傾げる。


セオドア将軍の目蓋が震え持ちがると、私を見て目を見開き、強い力で抱きしめられる。


「良かった……!!一週間も君は眠っていたんだ……!!目を覚ましてくれて本当に良かった!!」


「何故、牢ではないのです?私は貴方を殺す様命じられた暗殺者ですよ?」


「そんな事、ミアを馬に乗せた時から分かっていた」


なんだ、最初から分かっていたのか。だったらあの二週間はなんだったのだろう。


「最初は君に探りを入れようとした。だが……まだ少女とも呼べるミアが、何故暗殺者をしているか知りたくなった……」


「……私は道具です。ミアという名前も嘘。命じられ、貴方を殺す為に取り入ろうとした。これが全てです。さあ、尋問や拷問されてもそれ以上は私は聞かされてないので分かりませんよ」


「そのつもりは無い。君があの夜、私を殺す気など無かったことも分かっている。殺意がどこにも無かった」


長い髪を梳きながら、優しく頭を撫でられる。殺し続けていた偽りの無い感情がポロポロと、目からこぼれ落ちる。


「なんで?なんで止まらないの!?」


「ミア……もう心を殺すことはない。君は自由だ。もし、君に追手が来ても私が守ろう」


「無理です……追手は私が死なない限りずっと私を狙い続けます」


セオドア将軍は少し笑って安心させる様にポンポンと背中を優しく叩く。


「私も似た様なものだ。だから安心してこの屋敷に住むと良い。私が招き入れない限り、この屋敷の警備は万全だ」


「なんで……なんで、そこまでして私を庇うんですか」


「その……一目惚れというやつだ」


「一目惚れ……」


私はその言葉に初めて会った時のことを思い出す。その時私は野党に服を裂かれ……


「……スケベ」


「違う!!いや、違くはないが、違うんだ!!」


焦った表情で弁明をするセオドア将軍が死神なんて名前は似合わないと私は心からクスクスと笑う。


これから私は追手に追われ続ける事になるだろうが、この人の側なら安全だろうと何故か思った。私を道具としてでは無く、人間として扱ってくれるセオドア将軍の事を私はいつの間にか好きになっていたのだろう。


私はやはり生きていたい。例え追手が来ても、この人の側にいたいと強く思った。




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