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ごるふ一徹、カノジョ一途、一時社会人  作者: えずみ・かいのう
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5番ホール:ゴルフは仕事より緊張する! (コンペ組み合わせ発表!)

社内コンペの組み合わせが発表され、コンペ前の特訓?などなど、いよいよ本番デビューに向けてスタートします!


いよいよ社内コンペまで1週間となった。


コンペの場所は、静岡県にある富士児玉ゴルフクラブである。全長7,200ヤード(一番後ろのティーの場合)のチャンピオンコースで広々したコース。


この日、事務局をしている総務部から参加者宛にメールが送られて来た。

当日の組合せとか集合時間などのお知らせだ。


誰と一緒に回るのか期待と不安を胸に、早速添付されているエクセルを開いた。

「ガーーーン!」


一瞬自分の目を疑い、思わず巽部長がいるはずのブースを見てしまった。

なんと、アウトの一番スタート。同じ組には児玉社長、巽部長、それと検査部の佐藤課長だ。巽部長と佐藤課長はいいとして(ちょっと失礼ではあるが)、社長と一緒とは。どう見ても俺が鞄持ちで落ち着いてゴルフどころじゃない。


「この組にど素人の俺が入っていいのか?」オレは思わず動揺してしまった。

「どうしたの?」隣に座っていた榊原さんが声をかけて来た。

「今度の社内コンペの組み合わせを見たんですが、なんと社長と一緒なんです!」

「あら、組み合わせ表来てたんだ。でも良かったじゃない。」


どうもオレの周りの女子は、榊原さんといい千夏といい、オレに対して無責任な発言が多い!?


「社長に沢田くんの事を知ってもらうには、とてもいい機会よ。こんな機会なかなか望んでもないわよ!」確かに榊原さんの言う通りだ。


「そうですね。そうします。問題はどう考えてもゴルフで迷惑をかけてしまいそうで。」

「いいのよ。そんな事考えなくて。社長だって沢田くんがゴルフ未経験って知ってるわ。それに、巽部長が一緒だから大丈夫よ。それより、ラウンド中のマナーだけはしっかり覚えておいた方が良いわよ。一緒に回って周りの人に迷惑をかけるのは、スコアーよりもマナーだから。最初は慣れるまで時間かかるけど、一度覚えて仕舞えば当たり前になってなんて事ないわ。私も最初は苦労したもの。」


「へえ〜そうですか。榊原さんも苦労されたんですね。」

「でもそんなに難しく考える事ないわ。マナーと言っても言われてみれば当たり前のことばかりだから。」


「あ、部長!」思わず口に出して叫んでしまった。

「お疲れさん。二人してどうした?」

「先ほど総務課から今度のコンペの組み合わせ表が届きまして、それを見ていたところです。部長見られました?」


「ああ、見たよ。沢村くん、社長と僕と一緒の組になったね」

「はい、びっくりしました。私などがご一緒して良いのか・・」


「そう思うのも仕方ないけど、良い機会だから社長に自分を売ってみなさい。自分の会社の社長に認めてもらえ無いのに、お客様に認めてもらうことはでき無いからね。媚びるのとは違うから勘違いし無いように。」


「“自分を売る“ですか。」媚びることじゃないんだよな。要はアピールすれば良いのかな。

「実は事前に総務課から組合せのことで連絡があってね。社長が新入社員と回りたいと言って来たらしいんだよ。今度のコンペで新人は4人参加するらしいんだが、誰が良いか聞かれてね、私が沢田くんを推薦しといたんだよ。」


「部長が自分を推薦したんですか?」

「なんだ、不満か?」巽部長が笑いながら言った。


「いえ、まったく不満ではありません。部長のお気持ちに応えられるよう、精一杯頑張ります!」

「そう言うことだ。ある意味、社長のご指名なんだからね。」


「ご指名!?どうも緊張してきたような気がします。」

「緊張するようなガラじゃないでしょ!」どうも榊原さんはオレに対して手厳しい事を言う。そんでもって本当に嬉しそうに話す。


「練習も続けているようだし、分からないことがあったら遠慮なく聞きなさい。」

「有難うございます!」


部長が席に戻ると、

「羨ましいわ、沢田くんが。」榊原さんが言った。

「どうしてですか?」


「部長も沢田くんには期待しているみたい。何となく雰囲気でわかるの。」

「そんなこと言って、榊原さんだって主任としてバリバリやって、部長だけじゃなく、会社から期待されているじゃないですか!」


「そうね。あなたからそんなこと言われると、なんかシャクだけど許すわ。」

この綺麗なお姉さんは何を言ってるんだろう。オレはトイレに行くと言って席を立った。

トイレの前で千夏と鉢合わせした。


「おう、お疲れ。」

「聞いたわよ!コンペで社長と回るんだって!!」

「早いな。組合せ表みたの?」

「総務の白川さんから聞いた。社長直々のご指名だそうじゃない!」


何とまあ早くも話が大きくなっている。いちいち説明するのも面倒なので、

「まあ大体そうね。」

「何よ、大体って!練習やってるんでしょ。いいとこ見せなさいよ!!」


言い終わらないうちに、オフィスの方に走って行った。廊下を走っちゃいけないのに。

それにしても千夏はオレに対して上から目線のような気がしてならない。こういうのと結婚すると旦那刃大変だろうなあ〜・・・。


スッキリして席に戻ってパソコンの画面を見たが、コンペのことが気になってどうも落ち着か無い。


「まずい。ゴルフごときで仕事が手に付かないようなら、サラリーマン失格だ。」

オレは気を取り直して、仕事に取りかかった。


「バシッ」「ガキ」「バシッ」「バシッ」「ガキ」・・・

だいぶ良い音が出るようになった。部長に言われて7番アイアンを使っての小さいスイング。決してクラブを腕だけで挙げず、脇を開けず背筋を意識しつつ肩を回しながらトップを作る。トップでは右足内側に9割重心を乗せ、一呼吸の間を作って、左腰回転の主導でクラブが降りてくる。その時、左足内側で勢いを受け止め決して左肩は開かず、体の正面でボールを捉える。最後にフィニッシュでは飛球方向に正対してスイング完了。この時、左足一本で立っている。と、頭の中では完璧だが、これがチョー難しい。


途中飽きそうな時もあるが、たまに芯でボールを捉えた時の打感、音そして直進するボールが快感でずっと続けている。かれこれ3週間になる。目黒ゴルフ練習場は夜11時までやっているので、平日の会社帰りに練習するには助かる。


ドライバーを打ってみたかったが、部長から短期間で上手くなりたかったら基本をマスターする事だ、と強く言われているのでここは我慢だ。

スマホを打席の後ろにセットして、自分のスイングフォームを確認する。自分で言うのもなんだが決して悪くないと思うものの、プロのスイングと比べると何かが違う。


「何が違うんだろうなあ。体全体に力みがあるような気もするけどな」

「頑張ってるな!」社長の天野さんが声だ。

「なかなか様になってるじゃねえか。」

「有難うございます。」ここは一つダメもとで社長に聞いてみよう。


「あの〜、一ついいですか。どうもスイングが硬い気がするんですけど、社長さんから見てどうですか?」

「ほう、自分で分かるんかい。」社長はニコニコしながら、


「脇をしっかり閉めようとして、腕に力が入りすぎてんだよ。そうすると肩に力が入る。それじゃあ安定したスイング軌道にならねーし、それに連れられてタイミングもずれやすくなるから、ボールを芯で捉える確率が低くなる。わかるかあ〜?」


想像以上に論理的な回答だった。人は見かけによら無いものだ。


「とても分かり易いご指摘、誠に有難うございます。ちょっとやってみます。」

「バシ」「バシ」

「すごいです!全然違います!!」


「お前さん、飲み込みが早えなあ〜、なかなかすぐにはできねえ〜ぞ。その感触を忘れるなよ。徹底的に振って、体で覚えるんだ。それまで続けなきゃ意味ねえからな」


「はい、続けて練習します。楽しいから多分できると思います!」


「練習しててそんなに楽しそうに言うやつは珍しいな。沢田ちゃん、良かったらティーチングプロにレッスンしてもらったらどうだ。オレも多少のアドバイスはできるが、プロじゃねえ。プロはいろんな引き出しを持ってるから、レッスンやるなら変な癖がつく前がいいぞお。どうだあ?」


突然、言われてびっくりした。レッスンなんて今まで考えてなかったが、野球でもコーチにはすごく助けてもらった。


「是非お願いします。どなたかご存知の方はいらっしゃいますか?」

「うちに来ているプロで、西垣って言うのがいる。歳は30歳でまだ若いが、理論もしっかりしているし、アメリカにも言って資格を持ってる。確か、レッドベターのところで勉強したんじゃなかったかな。」


「え、レッドベターですか!それは是非お願いします。レッスン受けさせてください!!」

何とレッドベターに教わった人から教えてもらえる!こんなことってあるんだろうか。偶然とは言え恐ろしい。


「来るのは、火曜日と木曜日の夜、それと土曜日の午前だな。明日火曜日だから、来たらオレから言っとくから。明日は18時以降ならいるから来れるかあ?」


「はい、大丈夫です。必ず来ます。」

「分かった。じゃあ頑張ってな!」


去っていく天野社長に、オレは高校時代身につけたお辞儀をした。


翌日、定時後早速練習場に行った。時間は18時をまわっていた。

カウンターにいた天野社長に挨拶をして、2階の21〜27番打席でレッスンしてると聞いた。プロらしい人が、7人の生徒に手取り足取り教えているのが見えた。


「こんばんは。天野社長から伺って来ました沢田です。」

「おお、沢田さんね。お待ちしていましたよ。それじゃ27番打席に入ってちょっと待っていてください。」

オレは27番打席にカードをセットして、準備運動を始めた。


20分くらいたった頃、西垣プロがきた。


「お待たせしてすいません。」ニコニコして感じの良さそうな人だ。

「今日からお世話になります。よろしくお願いします。」


「社長から聞いてますよ。3週間ずっとハーフスイングの練習ばかりしてるんだってね」天野社長もよく見てるもんだ。


「はい。私の上司に基本が大事だと言われて続けてます。」

「なかなかそう言う練習をみんなやりたがらなくてね。すぐドライバーとかで振り回しちゃうんですよね。じゃあ、まずはレッスンの内容を紹介しますね。」


一通りレッスンのスケジュールとか内容について説明を受けた。

月額12,000円で原則週一回レッスンが受けられるらしい。かなり良心的な料金のようだ。


「沢田さんは野球をずっとやってたんですよね。ところで、どう言うゴルファーになりたいとかありますか?」


すかさず、「アダム・スコット見たいなスイングを身に付けたいです!」

「そうですか。沢田さん、体型も近いしスイング的にはいいかもしれませんね。」

もしかしたらアダム・スコット2世になれるかもしれない!?


「それでは、練習してきたハーフスイングを見せてください。2、3球でいいですよ。」

どうも野球と違って、ゴルフは見られていると緊張する。昨日、天野社長から言われた上体の力みに注意しながら、3球打った。


「ガキ」「ガキ」「バシ」

「いいじゃないですか。決して悪くないですよ。それでは始めましょうか。」


西垣プロはの教え方は、まず自分でお手本を見せてくれる。そして説明しながら手取り足取りアドレスからスイング中の身体の動きを教えてくれた。

そして正面や後方、背後からビデオでとり、それを見ながら良い点、悪い点を指摘してくれる。その後また打席に立ってボールを打つ。


3時間みっちりハーフスイングの練習に取り組んだ。今までよりも特に下半身にハリを感じた。それを西垣プロに言うと、

「ゴルフはスポーツなんですよ。全身の筋肉、骨を使ってスイングしてるんです。逆にいいうと、そうならない人は楽をしていて、しっかりスイングできていないと言うことになるんです。沢田さんは野球をやっていましたから、クラブを“振る”という感覚、ボールを飛ばすという感覚を既に体でわかっているんです。」


一言一言に納得してしまう。この人なら信頼できそうだ。


「ところで西垣プロ。今度の土曜日会社のコンペがあるんですが・・・。」

「本当ですか!?できれば行って欲しくありませんが、会社のコンペなら仕方ないですね。」

西垣プロは少し考えた後、「木曜日と土曜日はレッスンに来られますか?」


「大丈夫だと思います。」

「そうしたら、この2日でラウンドに必要な最低限のことをレッスンしましょう。ハーフスイングはイイ線いってますから、ドライバーとアプローチ中心で。」


「そうしてもらえると助かります。ドライバーはまだ打ったことがないので特に不安です。」

「大丈夫ですよ。ドライバーもアイアンも、今やっているハーフスイングを少し大きくしただけです。そのための基本練習ですから、難しく考えなくていいんです。」


このハーフスイングというのは、自分で思った以上に大事なことのようだ。部長の言ってたことは正しかった。



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