4番ホール:ゴルフって難しい、でも楽しい!①
いよいよ大樹がゴルフ練習場デビュー!巽部長の見立ては?
テレビび出演していた児玉社長の人柄に憧れ、入社した大樹であったが、先日の食堂での出来事は思わぬものであった。児玉社長の上下関係を気にしない、ざっくばらんな人柄は社内でも評判が良かった。世間一般の企業では、このようなことは珍しいかもしれないと思いながら、隣に座っている榊原さんに聞いてみた。
「榊原さん、児玉社長と仕事の話とかするんですか?」
「たまに巽部長のお供で社長室や会議室で話をしたことはあるわ。当たり前だけど、仕事では厳しいわよ。でないとたった一代でここまで会社を大きくすることなんてできないわ。」
「そりゃそうですよね。どんな方なんですか?」
「私の口から聞くより、実際に自分の目で見て、触れて感じた方がいいわ。人の話なんて、意外と当てにならないことが多いから。でもよく仰っているのは、何事にも興味を持て!一度やり始めたらとことんやり抜け!っていうことね。とっても、熱い気持ちを持たれているのは確かだと思うわよ。」榊原さんは、何となく嬉しそうに話してくれた。
“とことん”って、オレの爺ちゃんと同じこと言うんだ。年代的にそうなのか?。
「そう言えば、明日巽部長からクラブもらうんですって?」
「え、誰から聞いたんですか?」
「誰ってあなたの彼女よ!キ・サ・ラ・ギさん!!」
「はい??ち、ち、違いますよ!怒りますよ!!そんなんじゃないですから。」
千夏の席を見たらいなかったので、ホッとした。榊原さんもまったく人が悪い。
「昨日ロッカーで偶然一緒になってコンペの話をしてたら、如月さんが嬉しそうに話してくれたから知ってるのよ。」
「明日目黒駅の近くの練習場まで、部長がクラブを持ってきてくれるんです。全く恐縮しちゃいます。」
「部長もゴルフが大好きだから、自分の部下がゴルフ始めるとか聞くと嬉しいのよ!お年寄りは喜ばしてあげないと!!」榊原さんは悪戯っぽく笑った。
「折角だから、ゴルフ教えて貰えばいいんじゃない。きっと喜ぶと思うわ。」
「そうですかあ。榊原さんもとてもお上手だと聞きましたけど、よく練習に行かれるんですか?」
「週に1回は行くようにしているわ。お客さんのコンペに参加したりすることもあるから、あまりにスコアー悪いと一緒に回った人に迷惑かけちゃうから。ま、100切れれば御の字ね。」
「100を切るって凄いんでしょうね。僕の初めてのゴルフは、170くらいでした。あまりに回数振るもんだから、途中でわからなくなりました。」
「最初は誰だってそうよ。沢田くんは野球やっててパワーがありそうだし、遠くに飛ばす人はどうしても曲がっちゃうのよね。その点、女性は飛ばないからO Bも少なくて、結果スコアーが少なくなるという訳。」
そうかあ。ゴルフでボールを飛ばすということはもしかしたらデメリットなのかも知れない。逆に遠くにまっすぐ飛ばすことができれば、間違いなくメリットになる。まあ前回のゴルフはデメリットしかなかったけど・・・。
「まずは巽部長に色々ゴルフのことを聞いてみます。自分でやってみないと前に進まないですから。」
「そういうこと。その調子で無駄口叩いて無いで仕事も頑張ってね!」
ポンと肩を叩かれ、榊原さんもオレも仕事を再開した。
今日土曜日は、巽部長からクラブをもらえる日だ。
昨日部長から、目黒ゴルフ練習場に10時待ち合わせの連絡をもらっていたので、15分位前には行こうといつもの休日より早起きした。
練習場までは歩いて10分ほどなので9時半に出ればよかったが、特にやることがなかったので早めに出ることにした。9時半前にはついたので、カウンターにいたちょっと愛想の悪いオヤジさんに待ち合わせの話をして、ロビーで部長を待つことにした。この間買った“ビジョン54”を持ってきていた。既に一度読んではいたが、2度目もやっぱり面白かった。15分ほどすると巽部長がゴルフバックを2つ抱えてやってきた。
「おはようございます。」
「おお、おはよう。お、ゴルフの勉強かい?」
「勉強というほどではありませんが、面白い本を見つけたので読んでいます。」
「“ビジョン54”かあ。その本僕も持っているよ!僕は社長から紹介されて買ったんだ。」思ってもみなかったことを聞いた。
「沢田くんは誰かから勧められたのかな?」
「いえ、代官山のTotayaに行った時に、何となく目についたので買っただけです。とても勉強になります。」
「そうかあ。その本を買うとは目の付け所がいいね。それ第2巻も出てるからかってみるといいよ。」思わぬところで褒められたようで、照れてしまった。それにしても第2巻のことは知らなかった。またTotayaに行って買ってこよう!
「ところで、社長お久しぶりです。ちょっとご無沙汰してしまってすいませんね」
カウンターにいた愛想の無いおじさんに、部長が話しかけた。
「久しぶりだね〜。3年ぶりぐらいか?元気してたの。」
「家を引っ越してから遠のいてしまって。お陰様で元気にゴルフはやってます。社長もお変わりなくて良かったです。」
「こっちは歳食ったよ。ゴルフも思うようにいかなくなってな。まあ仕方ねえーけど、この年でゴルフができるんだから、文句言っちゃあいけねえな。」
「社長、この青年は今年うちの会社に入社した沢田くんです。この近くに住んでいるんで、よろしくお願いしますよ。うちのホープです!」
「沢田くん、こちらこの練習場の社長の天野さんだ」
「おおよ。巽さんとこのホープじゃ邪険にはできねえな。沢田くんって言ったっけ。なんかあったらオレにいいな」相変わらずぶっきらぼうに言った。
「ありがとうございます。これからお世話になります。」このおじさん、社長だったんだ。
意外といい人かも知れないと思いながら、受付を済ませ2,000円のプリペードカードを買ってから、巽部長の後をついて指定された1階の打席に向かった。既に満席に近い状況だった。
次号に続きます・・・。