27番ホール:集大成①
いよいよ企業対抗戦に選手として出場する大樹。
そんな大樹を応援する千夏、そして思わぬ人が来る・・・。
企業対抗戦前日の朝4時に起きるつもりが、3時半に目が覚めた。やることもないのでキッチンに行き、
前日自分で作った梅とわかめのおにぎりを食べた。俺が作るおにぎりは手が大きいせいかニギリの形がよく、
家族には好評だ。
5時半には全員迎えに行き、会場となる大茨城ゴルフクラブへ向かった。
昨年と同じように、首都高から常磐自動車道に乗って途中守谷のSAで休憩した。
やっぱり千夏と由佳ちゃんは後部座席で爆睡中だ。車が停車すると同時に起きるところも昨年と一緒だ。
「着いたの?」と、千夏の一言。これまた昨年と一緒。となると、俺の答えも同じだ。
「気持ちのいい朝ね。そういえば、去年もここで休憩したわね。」由佳ちゃんはのんびり
している。真田の件では少々怖かったが、こっちの由佳ちゃんの方がらしく感じる。
このサービスエリアに来ると感じることは、空気がうまいということだ。そして空が広く見える。東京にいては
感じることのない感覚だ。やはり人の少ない田舎が俺は好きだ。
第茨城ゴルフクラブには一番乗りだった。
着替えを終えロビーに行くと、巽部長や末木課長が受付をしていた。15分もすると児玉組が全員集合した。
選手4名と応援組6名の計10名でのラウンドだ。
スタート時間の8時20分までは、各自自由に練習をした。
俺はドライビングレンジで身体をほぐし、アプローチ、パッティングと一通り済ませた。1組目は選手の4人、
2組目は磯村さん、田之倉、由佳ちゃん、3組目は谷川課長、榊原さん、そして千夏だ。
巽部長初め選手4人は、磯村さんが作成してくれ攻略法を確認しながらのラウンドをした。
フェアウェイやグリーンの状態は最高だ。グリーンの速さは11.5フィートに仕上がっているとマスター室で
聞いた。なかなか経験することのない速さだ。
キャディーさんはコースを熟知しており、更にグリーン上でも試し打ちをさせてくれた。
昨年も練習ラウンドをしたが、選手としてのラウンドは気持ちの入り方が違った。
思っていたよりも右側にO Bのあるホールが多く、ミスをすると右にボールが出てしまう俺には要注意だ。
巽部長や佐藤課長からアドバイスをもらいながらのラウンドは勉強になった。
この日のベストスコアーは、末木課長の75ストロークだった。巽部長と佐藤課長が77、そして俺は80だった。ショットがブレて考えていたマネージメント通りにいかず、焦ってしまったのが原因だと俺は分析した。
終わった後で佐藤課長から、スイングに力みが見えたと言われた。どうやら思い通りにいかないプレイに、知らず知らずのうちに力が入っていたようだ。ゴルフはミスをするスポーツ、改めて再確認した。
この日の夜、併設されたホテルで夕食を取りながら今日のラウンドの感想や情報を共有した。
9時にはお開きとなり、その後は俺と田之倉の部屋に千夏と由佳ちゃん、
そして師匠が来て2時会が始まった。アルコールを摂取した師匠は手が付けられない。
「それにしても大樹がこんなに立派になるなんてねえ、千夏!」やれやれ、すっかり絶好調モードだ。
「まるで母親みたいなこと言うんですねえ、師匠」俺は素直に返した。
「誰が母親よ!私は独身を謳歌してるんだからね。分かるかなあ?仕事が楽しくて恋をする暇がないのよ!
ちなつう〜、ゆかあ〜」始まってしまった。
まあ、今日は帰る部屋は分かってるから安心だ。
「榊原さんは私たちの憧れですよ!先輩にどこまでもついていきます!!ねえ、ちなっちゃん」
おや、由佳ちゃんも怪しくなってきたような・・・。
「女に憧がれられてもなあ〜・・・。」
そう言って師匠は座っていたベッドの横に倒れて寝てしまった。
「あれえ〜、もしかして寝ちゃったかな?」田之倉は冷静に分析?している。
「寝ちゃったみたいね。とりあえずこのまま寝かせてあげよ」
そう言って千夏が布団をかけてあげた。
「じゃあ、改めて榊原師匠の“幸せ”を祈って乾杯しよう!」みんなで笑いながら乾杯をした。
榊原さんもみんなに慕われてさぞ嬉しいだろう。その後はゴルフの話はほとんどせず、榊原師匠を肴に楽しんだ。
俺は明日の試合のことも忘れて酒が進んだ。気がついた時には既に11時を回っていた。
千夏たちが部屋を出て10分ほどすると千夏からLINEが入った。ちょっとロビーに来て欲しいというものだった。
何事かとすでに薄暗くなったロビーへ行くと、千夏がぼんやり見えた。
「千夏、どうかしたか?」恐る恐る千夏に話かけた。
「用ってことじゃないんだけどさあ、今日ゆっくり話できなかったなあって思って」
千夏の様子がいつもと違う気がした。
「大樹さあ、この1年頑張ってきたよね。仕事もゴルフも、よくがんばったと思うよ。だから明日は大丈夫!」
しおらしく話をする千夏が今までで一番可愛く思えた。
俺は千夏の肩を両手で包み、おでこに”チュ”をした。
「ありがとな。明日は一緒にお祝いしよう!」
なによりも一番の元気をもらった。
翌日は5時に起きて、コースの周辺を散歩した。雲一つない晴天で気持ちの良い朝だったが、
昨日の酒がまだ残っていた。二日酔いも少しあるようだった。部屋に戻り水を1リットルをガブ飲みし、
さらにブラックコーヒーを胃に流し込んだ。
これで少しは酔いも覚めるだろう。
7時に田之倉とレストランに行くと、既に全員揃っていた。児玉組のユニフォームが眩しく見える。
女性陣にとっては不評だが・・。
「沢田くん、昨夜はよく眠れたかな?」俺は返す言葉に少し戸惑ったが、
「ええ、ぐっすり眠れました」嘘ではない答えだ。そう答えた後に千夏の余計な一言。
「いやあ〜、昨日はちょっと飲みすぎちゃったわね、由佳ちゃん」
全くこの娘は!この場の雰囲気を少しは考えんかい!!巽部長初めみんなが失笑している。
「如月くん、そんなに昨日は飲んだのかい?」
「あ、すいません。少々飲みすぎました。同期でお泊まりなんてなかなか無いもんですから」
「そうかあ、今日の応援もみんなで頼むよ。そういえば、そろそろ社長が到着される頃だから、7時半には
ロビーに集合だ」
軽い朝食を済ませ、ロビーで社長が到着されるのを待った。
玄関前に見慣れた黒塗りのレクサスL S500が停まり、児玉社長が手を上げながら
ロビーに入ってきた。
「いやあ、みんなご苦労さん」いつもの笑顔でねぎらいの言葉をかけてくれた。
「俺のことはいいから練習してきなさい。スタートまであまり時間がないだろ。俺は朝飯食ってくるから」
その時、玄関の方から大きな声で笑い声が聞こえた。どこかで聞いたような声だ。
「児玉さーん!、お、沢田ちゃんもいるな」
なんと天地会長だ。その後ろには瑞希さんもいる。まずい、俺の隣には千夏がいる。
「天地さん、どうしたんですか?」児玉社長も驚いているようだ。
「隠居生活の身、暇なもんで児玉さんの会社の応援に来ちゃいましたよ!実はうちも来年から参加させてもらおう
と下見がてら」
瑞希さんと目があい会釈をした。瑞希さんも微笑みながら会釈をした。
「そうでしたか。有り難うございます。恥ずかしくないプレイをお見せできればいいのですが」
「いやいや、ご謙遜を!巽さん頑張ってくださいよ。沢田ちゃんも選手とは大出世だな!瑞希も応援に来たから
頑張れよ!!」
その時、千夏の方をチラッと見たような気がした。
「天地さん、食事は取られましたか?よかったら一緒に食べましょう!」
そう言って、瑞希も一緒にレストランに向かった。応援組はまだやることはないので、社長の後からレストランに
行った。
「まさか天地会長がここにくるとはなあ。よし、僕たちは練習に行こう」
そう言って各自自分の調整に向かった。
ドライビングレンジで部長から、
「沢田くん、大丈夫か?」俺の心の内を分かっている様だ。
「正直、ちょっと動揺しました。でも大丈夫です。ゴルフに集中します。今日のために今まで練習をしてきました
から」部長は頷いて何も言わなかった。
今回、1番スタートは佐藤課長、2番目が俺で3番目が末木課長、最終スタートは
巽部長だ。1番ホールのティーグランド周辺には、各社の応援団が数多く集まっている。
中にはノボリの様なものまで準備している会社もある。児玉社長、天地会長初めうちの応援団も正面に陣取って
いた。
佐藤課長はティーショットで堅実にフェアウェイに運び、末木課長は少し右に流れたボールはラフへ。
しかしあそこなら2打目は十分狙える。
俺と一緒に回る選手は、同業の日の丸建設の伊藤さん、大黒生命の鈴木さん、
角田商事の角田さんの3人だ。まずはこの中でトップをとることができれば最高だ。
いよいよ俺の番だ。緊張していないといえば嘘になるが、不思議と落ち着いている。
芝を踏み締める足の裏の感覚、風の音、ギャラリーの声、大丈夫だ。
狙いはフェアウェイの右サイド、距離はいらない。方向重視だ。俺はいつも通りのルーティーンからアドレスに
入り、ボールに集中してクラブを振り切った。ボールの感触はよかった。
「ナイスショット!」複数のギャラリーから声をかけてもらった。
ボールは狙い通りフェアウェイ右サイドにはっきり見える。一緒に回る同組の選手たちからも声をかけてもらい、
お礼を言った。
俺は、応援団のみんなに手を挙げて歩き出した。今回俺には、師匠と千夏がついて回ってくれることになっている。この2人が近くにいてくれると心強い。
千夏と師匠がギャラリーとコースを隔てるロープの向こうから手を振っていた。
俺も親指を立てて合図を送った。
2打目は残りちょうど100ヤード、花道も開けていてグリーンセンターのピンは狙いやすい。
俺は51度のサンドウェッジを取り出し、上りのパットとなる様ピン右サイドをコントロールショットで狙った。
イメージ通り飛んだボールは少し距離が足らず、グリーンには乗ったものの距離のあるパットになった。
グリーン上に上がると、俺のボールは6mの軽いスライスラインでマズマズの位置だ。このホール俺は2パットの
パー。俺にとっては最高の出だしだ。他の3人もパーで発進だ。
2番ホールは左ドッグレッグの570ヤードの長いロングホールだ。
ここは、ティーショットは無理をせず3オン狙いの戦略だ。
ティーショットはスプーンで、狙いは240ヤード先のフェアウェイ右サイド。
ボールはわずかに巻いてやや左サイドで止まった。次のショットで左サイドを狙えるか微妙な位置だ。
ボールのある地点からグリーンは見えるものの、左にある大きなカラマツの枝が少し気になる。
狙いはフェアウェイ左サイドだが、右サイドに目標を変え今度はばフィーを選択した。
西垣プロに教わった足を半足分クローズに構え、フックがかかってくれれば上出来だ。
若干インサイドアウトの軌道で打ったボールは思ったよりもフックはかからず、フェアウェイやや右サイドへ。
昨日はうまく打てたが、練習通りいかないことはよくある。それでも右サイドにあるグリーンは十分狙える。
続く3打目、ここは確実にパーオンしたい。グリーンは若干砲台になっていて周りには大きくそして深い
バンカーが待ち構えている。花道はあるが幅が5mくらいしかなく、バンカーに入れたら俺のショットでは
カップに寄せるのは至難だ。ピンまで残り130ヤード、ピッチングウェッジのフルショットでジャストの距離。
自信を持って打ったボールはピン筋に飛んでいきナイスオン。砲台なのでボールは見えないが、そう遠くは
ないはずだ。
先行して前にいた千夏が拍手をする姿を見て、俺の期待は膨らんだ。
他の3人もこのホールは苦労していた。角田さん以外はドライバーで230〜240ヤードの飛距離だ。
3打目で150ヤード以上残ってしまう。結局このホール、パーオンしたのは俺と角田さんだけだ。
グリーン上に上がると、ピン手前4mの位置にあった。思ったより距離があった。
千夏の笑顔と拍手に騙された。ボールのディボットがピンのすぐ横にあったので、スピンで戻ってしまったらしい。ナイスショットだが、プロみたいにスピンのコントロールは俺にはできない。
バーディーパットは若干上りのほぼ真っ直ぐなライン。この難易度の高いホールでバーディーをとって
勢いづきたい。3人のパッティングを観察し、真っ直ぐで間違いないと確信した俺は50cmオーバーするよう
打った。インパクトの音も方向性も問題ないように思えた。
ところがカップ直前で右に曲がりカップの縁を半回転、無情にも向こう側の淵にボールは止まった。
半分くらいカップをのぞいているように見える。周りにいたギャラリーや選手までも大きなため息をした。
俺も内心“入ったと思ったのに、なんでだあ〜”と思いながらも、悔しさを表に出さず平然と何事もなかった
ようにカップに向かって歩いた。
ボールがなんとなく揺れているように見えた瞬間、「カラン!」カップにボールが落ちる高い金属音がした。
一斉にギャラリーから歓声が上がった。まるでプロの試合を見ているようだ。ボールを拾い上げ、周りの人に
お礼代わりに帽子のひさしに手を添えた。
榊原さんと千夏が手を取って飛び跳ねていたのが、印象的だった。このバーディーで俺は精神的にとても楽になった。
3番ホール、ここは420ヤードと長めの少し右ドッグレッグのミドルホール。
左サイドがグリーン横までO Bだ。狙い目はフェアウェイ左サイドだが、少し曲げるとO Bが待ち構え、
逆に右に行くと林に入りトラブルは必至だ。俺は磯村さんの攻略法通り、スプーンで左サイドを狙った。
俺のスプーンの距離は240ヤード、よほど曲げなければO Bには届かない。目標を狙ったショットは、
攻略法通りフェアウェイ左サイドをキープした。
残りはピンまで170ヤード、カップは右から8ヤード、手前から5ヤードに切ってある。このグリーンは、
奥からの下り傾斜がメチャクチャ早いため、絶対手前から攻めるのが鉄則だ。
俺は6番アイアンを指一本分短く持ち、フルショットした。グリーン中央を狙ったボールはグリーン手前の
傾斜の花道で止まった。最悪の結果は避けることができた。
エッジまで2ヤード、エッジから5ヤード。このくらいのアプローチは、さんざん練習
してきた。打つ前にはイメージはできあがっていた。
ラインはボール2個分のスライスと読んだ俺のピッチエンドランのボールは、ラインに乗っていたたものの
カップ手前20cmで止まった。奥に行っては絶対ダメな状況で、最高のショットだった。
このホールをパートして、3ホール終わって1アンダーは出来過ぎだ。
俺は以前巽部長から言われた “ゴルフは18ホール上がってなんぼ”を思い出して
気を引き締めた。
4番は195ヤードと距離にあるショートホール、このホールも3つの大きなバンカー
で囲まれている。このホール、グリーンを外し更にアプローチも寄せきれず2mの
下りのパットを残してしまった。俺の得意なスライスラインが唯一の救いだ。
俺と同じようなラインでわずか20cm後ろの角田さんが先にパットをした。
ボールに少し触った程度のパッティングだったが、ボールは加速してカップの向こう側
4mのところで止まった。転がりの速さに驚いたが、とても参考になった。
俺はいつも通りラインをイメージして狙いを定めストロークをした。
インパクトの瞬間、カップをオーバーしてしまうのではと頭をよぎった。
インパクトが緩んだと感じた。ボールは狙いよりも左に出て、タラタラ転がっていく。
角田さんのボールとは違い、止まりそうで止まらない。徐々に右に切れていくボールを
見ながら“入っちまえ!”という願いが通じたのか、カップに吸い込まれた。
「ナイスパー!」「ナイスパット!」角田さんや伊藤さん、鈴木さんまで声をかけてくれた。
みんなは俺がミスパットしたのを知ってるんだろうか?そんなことは素振りを見せない
よう振る舞った。“あ〜やばかった・・・。”でもこれがゴルフだ。ナイスショットしても
結果が最高とは限らない。ミスをしても結果よければ全て良しだ!
ところが幸運というのは、平等にみんなに分け与えられる。
5番の360ヤード短いミドルホールで、セカンドショットがバンカーに捕まりボギー。
続く6番、205ヤードの長いショートでは、グリーン手前の大きな池を意識してしまいティーショットを
左に引っ掛け、連続ボギー。ずるずるとスコアーを崩してしまった。
390ヤードの距離の短いミドルホール。左右O Bはないものの、左右のラフは深く
1打ペナルティーと同じ難易度だ。ここはスプーンでしっかりフェアウェイをキープ
することが必須だが、俺は悪い流れを変えようと攻略法とは違う選択をし躊躇なく
ドライバーをバックから引き抜きショットの準備をした。
俺の前の打順の角田さんがドライバーで打って、左に曲げてラフに勢いよく飛び込んだ。
あれはボギー確実だと思いながら、また巽部長の言葉が思い浮かんだ。“ゴルフは18
ホール上がってなんぼ”また間違いをするところだった。ドライバーで打ちたい気持ちを
抑え、自分のバカさ加減を再認識し、俺はクラブをスプーンに変えた。前半の今は、
まだ勝負する時じゃない。
気持ちが楽になった俺のショットは、狙い通りウェアウェイセンターをキープした。
2打目は残り170ヤード、ピンは奥から7ヤード、右から6ヤードだ。右サイドに外すより左サイドのほうが
寄せやすい位置だ。6番アイアンで打ったボールは、ピンの左サイド4mに止まった。
ラインは若干下のスライスライン。下りはそれほど意識しなくて大丈夫そうだ。イメージ通りのボールは
20cmオーバーしてパーで上がることができた。このホール、スプーンを選択させてくれた部長と角田さんに
感謝感謝だ!
8番ミドルホールでは2打目がまたバンカーに捕まりボギーとしたものの、9番ロング
ホールではしっかりパーを取り、前半2オーバーの38ストロークで回ることができた。
ホールアウト後、師匠と千夏が早速きて気の速いハイタッチで健闘を称えてくれた。
佐藤課長が3オーバー、末木課長が5オーバーだと千夏から聞いた。
「すごいよ大樹、やるわねえ!さすが私が見込んだ男だわ」
ほんとかよと思いながら、師匠の手前少し照れた。
「俺の力はまだまだこんなもんじゃないよ!」俺も軽口で応えた。
「ノロケるのはそのくらいにして、早くレストランに行きなさい!佐藤課長と末木課長が待ってるわよ」
師匠に急かされ、レストランに向かった。
昼の休憩は30分と短いため、ビュッフェ形式の軽食だった。
俺は、サンドウィッチとベーコン、サラダ、ヨーグルトを取り、佐藤課長達がいるテーブルに向かった。
佐藤課長と末木課長は午前の反省と、午後のラウンドの話をしていた。
「沢田、やるじゃないか」末木課長も5オーバーで回ったせいかご機嫌だ。
「予選突破の可能性は十分ありますよね!」
「巽部長も8ホールを終わって1オーバーだから、午後もこの調子で行けば決勝に
行けるだろうが油断は禁物だよ。まだ半分しか終わってないんだからね」
佐藤課長が午後のスタートに出ていくのと入れ替えに、社長と巽部長、そして天地会長と瑞希さんがやってきた。
社長達は巽部長の組についていたようだ。
「みんな調子良さそうだな。」社長はすでに全員のスコアーを知っていて、
「決勝進出したら、ご祝儀を出さんといかんなあ!」天地会長らしい発言だ。
「午後も頑張ってくださいね」瑞希さんが遠慮がちに言った。
「そうだ、午後は沢田ちゃんを応援するかあ!なあ瑞希?」瑞希さんも小さく頷いた。
思わず千夏の方を見てしまった自分が情けなかったが、千夏は聞いていなかったようでほっとした。
「会長、飯食べにいきましょう。我々応援組は向こうで別メニューですから」
社長が会長と瑞希さんを連れて行ってくれた。
事情を知っている部長が、
「沢田くん、これも人生だ。やりにくいかも知れんが、我々は試合に来てるんだ。ゴルフに集中だぞ!」
激励の言葉をくれた。午後のスタートに向け、俺は師匠や千夏に声をかけずに、集中を高めるため
ひとり練習グリーンに向かった。
パッティングをしながら、午前のラウンドを振り返った。ポイントはボギーが続いた後の7番ホールの
ドライバーだ。午後も同じようなことがあるだろう。その時も同じ判断をしなければいけない。
勝負はこれからだ!