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ごるふ一徹、カノジョ一途、一時社会人  作者: えずみ・かいのう
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26番ホール セクハラ!?

大会を控えた大事な時期に、新人真田が思わぬ行動に・・・。


企業対抗戦を3週間後に控えた9月の第1月曜日の定時後、ゴルフ部定例会が開催され選手任命が行われた。

今回児玉社長も出席されて、社長自ら選手任命書を5名の選手一人一人に手渡された。

任命書は和紙で作られたA5サイズの大きさで、会社のロゴや社長印まで押してある公文書のようだった。


内容はこうだ。「任命書 沢田大樹殿 貴殿を2019年度全国企業対抗ゴルフ選手権の

当社代表選手に命ず 平成30年9月9日 児玉組 組長 児玉聡一郎」

やっぱり児玉組は世間様から誤解されるような気がしてならない。


「昨年は予選落ちという悔しい結果に終わった。初参加ということもあったが、

それは言い訳にすぎん。選ばれた選手諸君は、会社の代表として我が社の誇りを胸に全力で頑張ってほしい。

今年こそは必ず予選突破し、更に全国制覇を成し遂げ美味い酒を飲もう!」


これを聞いて、甲子園を目指して野球に取り組んでいた高校時代の校長先生を俺は

思い出した。仲間たちと過ごした2年半の記憶は今でも鮮明に覚えている。


その後、選手一人一人決意表明を行い、谷川課長から試合前日に行われる練習ラウンドの内容が説明された。

今回も前回同様選手でなくても参加は可能ということだった。

最後に関東一本締めで締めて閉会となった。


定例会が終わり、いつものように片付けをしているところへ榊原さんがやってきた。

「沢田くんたちは、また一緒に行くのよねえ。悪いけど一緒に乗せてってくれない?」

俺の車は7人乗りのワンボックスだから、ゴルフバックを積んでも5人は余裕いける。


他の3人も問題なしという表情だったので、

「ぜんぜんO Kですけど、去年は末木課長と一緒にこられたんですよね。

今年は行かないんですか?」榊原さんに問いかけた。


「末木課長は真田と行くらしいのよ。誘われたけど本能的に断っちゃったから

乗せてって。車の中での会話がどうしても想像できなくてさあ」

気持ちはわかなくもないが、いつも大人の対応をする榊原さんにしては珍しいことだ。

そしてどうも師匠の様子が変だ。


「なんかあったんですか?」俺は聞いてみた。

「まあ、ここにいるみんなは口が硬いからいいかあ〜」

天井を見ながら言った。やっぱり何かあったんだと俺は直感した。みんなも黙って様子を伺っていた。

「実はね、真田のやつ・・・」“真田のやつ”とは穏やかではない。


「私に付き合ってくださいって言ってきたのよ。まあ新入社員が新しい環境になれなくて誰かを頼りたくなるとか、一時の気の迷いとか時々あるんだけどね、

どーもあいつの場合は違うんだよねえ。妙に冷静なところがあってさあ」

被害者は千夏だけではなかったのだ。


「ということは、榊原さんはお断りしたということですかね?」

「当たり前だろ!なんで私があんな半人前のボンボンと付き合わなくちゃいけないのよ」

それはそうだが、ひどい言いようだ。


「榊原さん、それ私も3週間くらい前に言われましたよ。あいつの立場もあるからと思って黙ってましたけど」

千夏が明らかな敵意を持って言った。

「ええ〜、それってセクハラになんないですか?」三井さんも親の仇を取るような勢いだ。

「そうだったの、そんなことあったんだ。これは問題だわ」女性3人のこの雰囲気に、

俺と田之倉はヤバイと感じた。


「沢田、田之倉、あんたたちどう思う??」俺ら2人を師匠は呼び捨てだ。

「どうと言われても、よろしくないですね」俺には答えようがない。

「女の敵というところでしょうか。」

田之倉の敬語がおかしくて、思わず笑いそうになった。


「田之倉、よく言った!“敵ならやっつけても文句ないわよね”」

師匠は誰に聞いているのだろうか?

「一月の間に2人の純情な乙女をたぶらかすなんて、もしかしたらもっと犠牲者が

いるかもしれないわね。これは成敗する必要があるわ」


師匠の目には怒りの炎が見えた。

まるでテレビの再放送でやっている“桃太郎侍”を見ているようだ。


「千夏、由佳、この問題は私に預けなさい。キッチリカタをつけるから」

そう言って会議室を出て行った。女性を怒らせるとこうなるのかと改めて認識した。

田之倉がニヤニヤしながら俺に言った。


「大樹、なんか大変なことが起きそうだな。大丈夫かな?」俺が答える前に、

「ちょっと爽くん、笑い事じゃないわよ。これは女にとってすっごく大事なことなのよ。わかってる?」

由佳ちゃんの一言に田之倉の顔から笑顔が消えた。やれやれ、地雷を踏んでしまった

田之倉を同情した。後で慰めてやろう。


「ところで大樹くんはちなっちゃんのこと知ってたの?」今度は俺がターゲットか?

「ああ、コクられた次の日に千夏から聞いたよ。頭には来たけど、その時は俺と付き合ってるって知らなかったと

思うし」

イカン!同情的な発言をしてしまった。

「知ってても知らなくっても、1ヶ月で2人に声かけるなんて非常識よ。女を馬鹿にしてるわ」

話の進む方向がまったく見えない。


「まさかとは思うけど、爽くんと大樹くんはそんなことしてないでしょうね!?」

俺と田之倉は由佳ちゃんの怒りに圧倒され、瞬時に否定した。とんでもないとばっちりだ。


「由佳ちゃん、取り敢えず榊原さんもああ言ってることだし、任せておきましょ。

後でもう一度話してみるわ」由佳ちゃんの気持ちを落ち着かせるには、同性からのご意見が一番効く。

俺は、話のきっかけとなった榊原さんと一緒に行くということを確認して、その場を終わりにした。


田之倉と由佳ちゃんと別れ、事務所に戻る途中千夏が聞いてきた。

「大樹、ぶっちゃけ真田のことどう思う?」千夏は冷静なようだ。

「まあ男として節操がないやつだと思うよ。いいけげんにしときなさいよって感じかな。ただ、もし2人以外にも

いて、仕事にも支障が出るようなら会社としても問題になると思うよ」

千夏は少し考えてから言った。


「実はね、総務の白川さん。彼女も言われたみたいなのよ。」

これは“おったまげ〜”というやつだ。


「終わったな。ご愁傷さま。榊原さんには言わないのか?」

「後で榊原さんに話すって言ったでしょ。そのことなのよ」

そういえば、大学の監督が言ってたな。社会にでたら“金”と“女”には気を付けろって。

その後、千夏は厳しい表情の榊原さんに声をかけ、会議室に行ってしまった。


幸い事務所にはほとんど人が残っていなかったので、内線で田之倉に電話をした。

「ああ、大樹かあ。お前らと別れた後由佳ちゃんに散々言われちゃったよ」

落ち込んでいる田之倉を元気付けようと、千夏から聞いた話をした。

「実はなあ、どうやら総務の白川さんにもコクってたらしいんだよ。さっき千夏から聞いた。

たぶん、今榊原さんに話してるよ」

田之倉も電話の向こうで驚いているのがよくわかる。


「これってただじゃ済まないだろ?」

「ああ、ホントならプライベートなことなんだろうけど、短期間で会社の女性に声をかけたとなると、

社員のモラルとか問題になるからな。もっとも見つかんなきゃいいんだろうけど、師匠に声をかけたのは

不味かったな」

「10歳も年上の女性に声かけるなんて、いい度胸してるよな」

「田之倉、それは由佳ちゃんに絶対言っちゃダメだぞ。殺されるからな」

「ああ分かった。口は災いの元だからな」ほんとに分かってるのか心配になる。


田之倉との電話を切った後、師匠と千夏を残しては帰りづらいと思いたまっていた雑用をこなした。

30分たっても戻ってこないので、ネットを見ながらそろそろ帰ろうかと考えてきた時に2人が戻って来た。


「あら、まだいたの?」

「もう帰ろうかと思ってたところです」

俺から話の内容を聞くのもなんだと思い、片付けを始めた。


「こういう事って私が入社2年目の時にあったのよ」そう切り出して師匠は話し始めた。

「その時はね、女性社員が2人も辞めちゃってね。1人の女の子なんて本気になってたもんだから、

うつ病になっちゃってしばらく休職。結局退職したわ。

男の方も何ヶ月かしてから辞めたけどね。いいことなんて一つもなかったのよ」

そう言ってさっきとはまったく違う寂しそうな表情を見せた。


「男女間のプライベートな問題なんだけどね、会社もその辺は厳しいのよ。同じ過ちは

絶対犯すなってこと。前回は社長自ら動いていたわ」


うちの社長も結構女遊びをしそうだが、意外と律儀なのかもしれない。

いや、あの社長なら自分のケツは自分で拭くだろう。


「この後、どうするんですか?」

「まずは明日部長に相談するわ。会社だってせっかく入って来た新人をつぶすようなことはしないと思うけど。

ただ、これ以上人数が増えるようだったら、会社としても人間としても見過ごすことはできないわね」

そう言って、ため息をつく師匠を初めて俺は見た。


「そうそう、千夏の話を聞いた時、あんた激怒したんだって?千夏、喜んでたわよ!」

「そうでもなかったと思いますけど・・・。」

「まあ、あんたたちは大丈夫よ。ホホホ・・。私書類一つ作ってから帰るから先に帰りなさい」

元気のない笑いをしながら、師匠はパソコンに向かった。


翌日は朝から巽部長初め営業の各課長、総務の谷川課長が営業の会議室に集まり会議をしていた。

明らかに、通常とは異なる雰囲気で1日が始まった。


千夏から聞いた話だが、千夏、榊原さん、白川さんが谷川課長からヒアリングを受け、経緯を説明したらしい。

その後、谷川課長に真田が呼ばれ真意を問い立たされ、

他に3人の女性社員に声をかけていたことが分かった。谷川課長はその3人の女性社員からもヒアリングを

行ったらしい。まずいことにそのうちの1人が数日前から体調不良で休んでいた。上司がすぐに自宅を訪ね話を

したところ、真田にしつこく言い寄られたことで会社に行く気分なれず休みをとっていたことが判明。


それにしても半年もしないうちに6人の女性にコクるとは、少々病的だ。由佳ちゃんが

知ったら、発狂するかもしれない。この後は平社員に情報は一切入ってくることはなく、結果だけを知ることに

なる。


翌日から真田は会社を休んでいる。1週間後、真田は今月末で自己都合での退職となったと榊原さんから知ら

された。榊原さんの話では、これを聞いた児玉社長が激怒して解雇だと総務の管掌役員に指示したらしいが、

解雇となると労基署に理由を届けるなど事務が


煩雑になり、事件性も乏しいことから自己都合退職で説得したとのことだった。

それには付録もあって、取引先から社長が頼まれて真田の件を総務に依頼したらしい。

取引先も社長も顔を潰され、カンカンだそうだ。


朗報は、休んでいた女性社員も会社に出てくるようになったことだ。新しい彼氏ができることを祈るのみだ。

そしてさらに朗報なのは、真田が企業対抗戦に出場しなく

なったことで、正選手から補欠に成り下がり選考会から機嫌の悪かった末木課長の機嫌がとても良くなったことだ。戦力的には多少ダウンかもしれないが、一度死んだ人間は強い。


企業対抗戦の前に俺の周りでバタバタしたものの、選ばれた選手は動揺することもなく準備に余念がなかった。

今年は磯浦さんが昨年のデータからヤーデージブックを使って攻略法を一人一人に作ってくれた。

選手はそれを自分流にアレンジすることになっている。

既に5回以上俺はヤーデージブックを見ながら各ホールの攻め方をイメージしている。

いわゆるイメージトレーニングというやつだ。


このシミュレーションでは、だいたい7アンダーで回ることができる。千夏に話したら、こういうトレーニングは

いろいろなスポーツで取り入れられていて、医学的にも脳にいい影響を与えることが証明されているらしい。


練習ラウンドの前日に、千夏、田之倉、由佳ちゃんに、お迎えの最終連絡を入れた。

一緒に行くことになっていた榊原さんは結局末木課長の車で行くことに落ち着いた。

”めでたしめでたし”というところでよかった。


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