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ごるふ一徹、カノジョ一途、一時社会人  作者: えずみ・かいのう
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21番ホール:新入社員

新しい年度を迎え、大樹のいる営業部隊にも新入社員が配属された。

さらに、秋の企業対抗戦に向けスタートを切る!


今年の東京の桜の開花は例年より早く3月下旬には満開となっていた。

それでも、我が社の入社式である4月1日は、桜の花は十分見応えのある美しいものだった。

実のところ、俺は桜の花が散った葉桜が一番好きだ。太陽の陽を浴びた新緑に、若々しい強い生命力を感じる

ことができる。


早いもので俺が入社してから1年がたった。この1年で一番自信を持って言えることは、ゴルフが上達したことだ。西垣プロの指導のおかげで、ゴルフの基本を徹底して習得することができた。

そして技術面だけでなく、マネージメントやメンタル面のアドバイスもありがたかった。

今年になってからは成果がスコアーにもあらわれるようになってきた。秋の企業対抗戦に向け、一歩づつ前に進んでいければと最近よく思う。


今年は、新入社員60名が新たな仲間として増える予定だ。

ロビーには既に新入社員向けの受付が設置されている。真新しいスーツを着こなしているとは言い難い

新入社員の姿がちらほらいる。俺から見ても初々しく思える。

たった1年しか経っていないが、今の俺はスーツを着こなしているんだろうか。


巽部長の話だと、大学ゴルフ部出身の新人が1名いるらしい。この新人が児玉組に

入ることが既に決定していると言っていた。今年の企業対抗戦は昨年の雪辱を晴らすべく、先輩社員のみんなも

練習を重ねている。そして営業部にも2名が配属される予定らしく、俺にも後輩ができると思うと楽しみだ。


席に着くと榊原さんから、部長のところに行くように言われた。

だいたい朝イチで部長に呼ばれる時は、いい話ではないことが多い。

俺はすぐに部長席に向かった。俺は挨拶をして部長席の前に立った。


「今週末、天地会長をうちの社長と私とで接待する予定なのは知っていると思うが、

私に外せない別件が入ってしまってねえ。そこで君に代わりに一緒にラウンドして欲しいんだ」

この件は図書館の仕様がほぼ決まり契約関連も見通しがほぼついたことから、お礼をするものだった。

俺がスケジューリングしたので承知していたし、俺の役割はゴルフ場で出迎えをすることになっていた。


「もともと出迎え役をする予定だったし、社長とも相談の上で決めたことだから頼むよ」

天地会長は好きだし一緒にゴルフも久しぶりだから嬉しいが、例の結婚騒動?以来、瑞希さんとは

極力仕事以外で距離を置いてきたつもりだ。


「部長、これは業務命令ですよね?」

「なんだ、お孫さんのことか?」部長も知ってるくせに意地悪だ。

「あれから何かあったのか?」

「いえ、何もありません。逆に何もないのが少々怖いです」

「まあ気持ちも分からんでもないが、社長もいるし心配することはないだろう。

まあ、君がしっかりしてればなんの問題もないよ」


どうも部長の目を見ていると、この状況を楽しんでいるようだ。


「分かりました。部長のご期待に応えられるよう頑張ります!」

「ところで、ゴルフ部出身の新人はかなりうまいらしいぞ。最近調子はどうなんだ?」

「はい、ここ3ラウンドのアベレージは87です。やっぱり課題はアプローチとマネージメントです」

「まあそれを自覚してるんだったら、やるべきことは分かっていそうだな」

俺は頭を下げ自席に戻った。


「何の話だったの?」俺は榊原さんに部長の話を説明した。

「なんだ、その件か」

「“なんだ”とはお言葉ですね。僕にとっては気の進まない話なんですけどね」

「いやあ、ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだけどね、天地会長と懇親を深めて来なさいよ」


榊原さんは頼りになる先輩だが、部長と一緒で楽しんでる。


「榊原さん、もしかして楽しんでるでしょ?」

「ええ〜、分かるぅ〜!君を見てるとね、心の動揺が手に取るように分かっちゃってねえ。なんか面白いんだよね。ごめんね!」

あやまっていながら、面白がってる榊原さんを恨めしそうに睨んでやった。


「ここだけの話ね、仕事やゴルフだけじゃなくて“女性”をもっと勉強したほうがいいわよ」

前から言われてることだが、師匠の言うことは絶対だ。そうは言っても、“女”の何を勉強すればいいのか

よく分からない。

「師匠!今度ゆっくり話を聞かせてください!!」

榊原さんはパソコンの画面を見たまま親指を立てた。


俺もパソコンを立ち上げ、1日の最初の仕事であるメールのチェックをした。

お客様専用の受信フォルダーには2通のメールが来ていた。1通は瑞希さんからの今週末のゴルフに

関するものだった。既に天地会長には俺が同伴することは伝わっていて、内容は週末のゴルフを楽しみにしている

というもので他は特に書いてなかった。

どう返すべきか考えた挙句、形式的な返信にしておいた。


2通目はT K Cエレクトロニクスの白石課長からで見積もりの依頼だった。

新規の話のようだったので、今週伺いたいと返信しておいた。後で電話でも確認しておくのは必須だ。


それから社内フォルダーには10通のメールが来ていて、そのうちの1通はゴルフ部事務局の白川さんからだった。

内容は今週末の定例コンペの最終案内と新年度定例会を来週金曜日に開催するというものだった。

今回の定例コンペから、秋の企業対抗戦の選手選抜の対象となる重要なものだ。よって今週は予定を全て断り、

毎日練習場に通うことにしている。


定時になり速攻で練習場に向かう俺を千夏が追っかけてきた。

「なんで先言っちゃうのよ!」

「あれ、定時後会議じゃなかったけ?」

「違うわよ。それは明日の話でしょ。」

それは俺の知らないことだ。


「悪かったよ。勘違いしてた。」ここは男の俺が謝っておくに限る。

「そういえば西垣プロが千夏のこと褒めてたよ。飲み込みが早いって!」

「当然でしょ!私がマジやれば簡単よ」

まだまだ千夏はゴルフの奥深さを知らないな。今度俺が教えてあげたいと思うのだが、そういう機会がなかなか

こない。


練習場には西垣プロがすでにきていて、レッスンの生徒は俺たち二人だけだった。

最初西垣プロは千夏をしている。千夏のスイングをみていると、この数ヶ月間で更に上達しているのがよく分かる。女性特有の力感のないリズミカルなスイングは、初めて1年とは思えない。

もともとパワーはあるからドライバーで200ヤードくらい飛んでいる。


そんな千夏を横にして、俺はいつものようにハーフスイングの練習から始めた。

この練習も9番、7番、5番アイアンとイメージ通り打てるようになってきている。

そのあとは課題のアプローチだ。5ヤードから始めて10ヤード、20ヤード、30ヤードと繰り返しの反復練習。千夏のレッスンを終えた西垣プロから声がかかった。


「沢田さん、そろそろフルショットの練習を始めましょうか。」

初めてフルスイングを教えてもらえる!

「ラウンドではフルスイングもしていたでしょうから、まずは打ってみてください。」


3球ほど打ったところで、

「スイングとしてはいいですね。それでは、正面のネットを9分割して狙いを定めて打ってください」

そう言って、西垣プロは7番アイアンを指定した後、ボールの位置をアドバイスくれた。

高いゾーンへは左足かかと線上、低いゾーンへは右足かかち線上、真ん中のゾーンは体の中央にボールを

セットする。1球1球セットアップをして、狙いを定めたゾーンに9球続けて打った。


結果は、狙い通り打てたのは9球中3球だった。


「今の結果が、沢田さんの現在の精度です。これをもっと上げていきましょう!」

そうかあ、悔しいがこれが俺のショットの精度かあ。


「沢村さん、ショットの精度をあげるとはどういうことかわかりますか?」

“精度を上げる”の意味?どういうことだろう。

「パーオン率を上げるということですか」

「それもありますが、もう一度ゴルフというスポーツを考えてみてください。

ゴルフはミスをするのが当たり前ですよね。このミスの幅が大きいか小さいかでスコアーに影響しますよね。

ということは、ミスの幅が小さくなることは精度が上がるということなんです」

なるほど、西垣プロの言う通りだ。


「次に沢田さんに考えて欲しいのは、ミスをしても次のショットをできるだけ打ちやすい、寄せやすいゾーンに

おくことができる、それがショットの精度をあげて本来のマネージメントをするということです」

分かっていると思っていたが、改めて言われるとできていなかったと分かった。


「まだまだこれからですよ。スコアーは気にする必要はありませんが、伸び代は十分ありますよ」


西垣プロは常に俺のすすむべき道を示してくれる。これでやらなければいけない事がはっきりした。

アプローチも大事だが、今はショットの精度を上げることに専念しよう。アプローチだってライが良ければ、

そこそこ寄せる自信はある。そうなれば大きく崩れることはない。


練習帰りに千夏とラーメンを食べに行った。

「大樹聞いてよ。西垣さんからそろそろコースに行った方がいいって言われちゃった!」

千夏は心底嬉しそうに言った。


「良かったじゃん。コース一緒に行けるね!」

「いいねえ。大樹とガチンコ勝負だね!」

「俺とガチンコとはいい度胸だな。胸を貸してやるよ」

「ゴルフになると大樹は生意気だね」

さんざん勝つとか負けないとか言い合ったあと、ゴルフデートの日程を相談して別れた。


週末の天地さんとのラウンドは、以前一緒にラウンドしたことはあったものの児玉社長と接待ということも

あってか緊張した。主役は天地会長と児玉社長で、瑞希さんと俺は付き添いのようなものだ。


会長と社長は経営者らしく日本経済や経営のことを話しているようだった。

それによって瑞希さんと話す時間が自然と多くなった。年末の話題に触れる事なく、

地元の仙台やゴルフの話など気さくに瑞希さんは声をかけてくれた。

俺もそれに応えていろいろな話をした。


今日のゴルフは会長も瑞希さんも楽しめてもらえたようだ。会長と社長は次回仙台でゴルフをする約束をしていた。

帰り際に会長から声をかけられた。


「沢田ちゃん、今日は楽しかったぜ。ところで瑞希としっかり話はできたか?」

会長も瑞希さんがいるところで聞くところがイヤらしい。


「言っとくけど、沢田ちゃんを仙台に呼ぶことは諦めてないぜ。瑞希のこともな!」

ニヤっと笑って会長は社用車に乗り込んだ。瑞希さんも、「私もですよ」そう言って後に続いた。

一瞬固まった俺を置いて、社用車は発進して去った。


「沢田くん、君とんでもない人に見込まれたな。でもこの縁は大事にしなさいよ」

社長は嬉しそうに言って、社用車に乗り込んだ。俺は社長を見送りひとりゴルフ場に残された。


コースに夕日が差して光の線が何本も見えた。幻想的なホールは写真のようだった。


ほんの数分だったろうか、瑞希さんの声が俺の頭の中で何度も繰り返された。

俺は瑞希さんに対して今のままでいいのだろうか、白黒つけるべきではないかそう自問したが答えは出なかった。

それでも今日はこれから練習場直行だ。西垣プロの課題に取り組んでショットの精度を上げなければならない。



明日は先日の接待ゴルフに続いて2週連続でゴルフだ。この2週間で9分割のゾーンに打ち分ける精度は上がった。平均すると6球は枠を捉えられるようになった。


今日のゴルフ部定例コンペで、どれだけ成果を出せるか楽しみだ。

場所は何度もラウンドしている富士児玉ゴルフクラブだからコースのことは分かっている。参加者は10名3組、

俺は最終組で佐藤課長とアナリストの磯村さんだ。


1番ミドルホール、俺のティーショットは270ヤード先のフェアウェイ右へ。

残りは140ヤードだから9番アイアンを選択した。ピンはグリーンのほぼ真ん中。

グリーン左サイドは傾斜が強くラフも深い。一方右サイドはサブグリーンもあって広い。

よって狙いはピンの右側だ。3打目は少し右に出たが、かろうじてエッジでボールは止まった。

これでいいと自分に言い聞かせた。次は得意のパターで打つ事ができる。

結果はこのホール2パットでパーだ。パーオンはしなかったものの西垣プロのアドバイス通りの

マネージメントができた。


2番ホールは比較的距離の短い390ヤードの軽い左ドック。250ヤード以上

真っ直ぐ打つと林に入ってしまう。俺はティーショットでスプーンを選択し、230ヤード地点。

残り150ヤードを8番アイアン。今度はグリーン右はトラブルになりやすい。

ピンは右サイドだから厳しいところに切ってある。それでも俺は、グリーン中央と左サイドエッジの中間を狙った。またしても狙いより右に出てグリーン中央へ。結果オーライのピン横4mだ。

アドレスからインペクとまで無心で打ったパットが入ってしまいバーディーだ。


2ホールだがトータル1アンダーは初めてだ。それとここまでのショットは右目に

出ている。これは頭に入れておかないといけない。


3番ホールは180ヤードのショートホール。フェアウェイの真ん中あたりから左サイドは川が流れていて

左サイドは絶対N Gだ。ただしグリーンは左側でピンも左サイドの手前だ。

6番アイアンでこれまでと同じように、狙いはピンと右エッジの中間だ。


いつも通りのルーティーンから放ったティーショットは、グリーン中央に飛び出した。

瞬間的に引っ掛けた感触が残ったボールはグリーン左に落ちて、左にキックした。

一番やってはいけないことをやってしまった!

ボールは川に入ったかどうか微妙なところだ。ボールの地点に行くまで、俺は最悪のケースを想定した。


ボールはかろうじてラフに止まっていた。ただし、次のアプローチは深いラフからの下りになり難しそうだ。

エッジまで10ヤード、エッジから7ヤード。まずはしっかりグリーンに乗せる事が大事だ。

サンドウェッジを短く持ち、しっかりヒットすることだけに集中して打ったボールはピン手前3mくらいに

落ちてそのまま花道まで転がった。


想定内の結果だ。ここからピン手前1mに寄せて、1パットのボギーでしのいだ。

ティーショットをミスした分、仕方のない結果だが、納得の内容だった。


俺は次のロングホールのことを考えた。

今日の俺は西垣プロの言っていた事がよく分かった。ミスショットはあるものの、1打1打を冷静に考えて

打つ事ができた。そしてショットとショットの間に考える事の大切さを知った。


この日は絶好調という感じはなかったが、なんとベストスコアー更新の78で回る事ができた。自分でも信じられなくて、アテストでは3度スコアーを見直した。


「沢田くん、今日は最高のプレイをしたね」佐藤課長が言った。

「正直なところ、どうして78で回れたのかよく分かりません」

「そうかもね。そこがゴルフの面白いところでもあるんだけどね。僕からみて今日の君は、できることを

しっかりやっていたという感じかな。決して無理なマネージメントは選択していなかった。一皮向けたんじゃない」俺は佐藤課長の言う事がイマイチ理解できなかった。


ラウンド後のパーティーで成績発表が行われた。俺は巽部長の74に次いで2番目の

成績だった。選手選抜に向けて最高のスタートだ。それから反省会が行われた。

一人一人ラウンドの反省を発表し、主に同伴者がアドバイスを行うものだ。


俺の順番になり、今日のラウンドで感じたことを話した。

「今日はお疲れ様でした。おかげさまでベストスコアーを更新できましたが、何が良かったのか正直分かりません。ただ、マネージメントはそこそこできたように思います。今日も課題は、ショットとアプローチの

更なる精度向上です」

俺は正直に感じたことを話した。


磯村さんから発言があった。

「今日の沢村くんは、スコアー以上にゴルフの内容が良かったと思います。スーパーショットはないものの、

致命傷になるようなミスはほとんどなく許容できる範囲でした。ここが一番評価できる点だと思います。

こういったゴルフを続ける事ができれば、安定性もグッと上がると思います」


「私もそう感じましたよ。今日の沢村くんは大人のゴルフをしてましたね。

あまり褒めるのもどうかと思いますが、アマチュアゴルファーらしいプレイスタイルだったよ」

佐藤課長が言ってくれた。


最後に部長がしめた。

「今日の反省を聞いていると、スコアー以上に皆上達しているようだ。昨年は悔しい思いをしたが、

課題を持って秋に向けて頑張って行こう。みんなお疲れ様」


今日も帰りに練習場に行ってラウンドの反省会だ。最近、ラウンド後の練習は日課みたいになった。

ラウンドも楽しいが練習も楽しい。


週が開けいよいよ会社では新入社員の配属がある。営業にも2名が配属されると聞いている。

まあ俺の部下になることはないだろうが、おなじ課なら面倒を見てやろう。


10時になると、部長が新入社員の集まる大講堂へ向かった。去年が思い出される。

30分ほどすると部長が新人を連れて戻り、事務所にいた社員20人ほどが集められた。

さっそく部長から新人2名が紹介された。


一人は真田光輝、城北工業大学のゴルフ部出身だ。あまり背は高くないが、気が強そうな印象だ。

もう一人は江藤ひまわり、房総大学の建築工学部出身の理系女子で大人しそうな雰囲気だ。

真田くんは千夏と同じ営業2課、江藤さんは俺と同じ1課だ。


「今日からお世話になる真田っス。自分は仕事もゴルフも恋もガンガンいきますんでよろしくっす!」

いきなりゴルフも恋とか言い出すとは、変わったやつだ。

それに言葉使いがなってない。


「はじめまして。江藤ひまわりと言います。頑張りますのでご指導よろしくお願いいたします」

こちらは先輩社員の反応はいいようだ。


その江藤さんが、榊原さんの部下になることになった。ということは俺の部下にもなるのか?

さっそく榊原チームで打ち合わせをすることになり、事務所の角にあるミーティングスポットに集まった。

「今日からこのメンバーでやっていくことになりました。私が主任の榊原です。

そしてこっちが沢田くん、江藤さん、よろしくね」


「こちらこそよろしくお願いします」やっぱり新人は初々しい。

「硬くならないでいいわよ。楽しくやっていきましょ!ねえ、沢田くん」

「師匠のおっしゃる通り!何事にも楽しく真剣に!!」

「榊原さんは“師匠”って言うんですか?」江藤さんはキョトンとしている。

「おいおい、沢村くん。師匠は照れるから江藤さんの前で言うな!ところで、江藤さんの仕事だけど、

当面は私と一緒にやってもらうから。普段の会社生活のことは沢村くん面倒を見てあげてね。いい?」


「了解です。パソコンとか電話、コピー機諸々ですね」俺は快く引き受けた。

「ご面倒おかけしますが、よろしくお願いします。沢田先輩」

先輩と呼ばれるとお尻がムズムズする。


「こっちこそよろしくね。同じチームなんだから分かんないことはなんでも聞いてきいていいよ」

新しい新人が良さそうな子でよかった。俺もしっかりしないとな。


一旦解散となり、俺は江藤さんに会社生活に必要な勤怠管理の仕組みとか社内メール、電話、コピー機の使い方を

一通り説明した。


昼食の時間になり、榊原さんと3人で食堂へ向かった。同じ営業に配属された真田も主任の香川さんや

千夏と既に来ていた。

江藤さんは学生時代吹奏楽部でトランペットを吹いていて、高校時代は名門白百合女子学園で杉並区にある

“普門館”で全日本吹奏楽コンクール高校の部に出場したくらいの名手らしい。高校野球でいえば甲子園みたいな

ものだと榊原さんが言っていた。一度ぜひフルートの音色を聴いてみたいものだ。


午後からはちょっとした資料の作成とかコピーなど、雑用をしてもらって時間が過ぎた。

今回の新人2人の配属によって営業部隊も活気付いたように感じる。


俺と千夏が配属された去年もそうだったのだろうか。たった1年前だけど、遠い昔のように感じる。

そう思うのは俺だけなんだろうか。新人の真田のことも聞きたいし、後で千夏にも聞いてみよう。


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