11番ホール:プロジェクト始動
一色食品福岡支店の新社屋提案に向け、社内でプロジェクトがスタートする。
その陰で、新人チームの検討会も始まった。
翌日16時から、一色食品福岡支店新社屋プロジェクトの第1回目の打ち合わせが
開催された。営業だけでなく、設計部門、コンサルティング部門、資材部門、検査部門、
経理部門、総務部門からチーム要員が選抜された。総勢20名近い社員が会議室に集まった。
この中には、田之倉と由佳ちゃんも加わっていた。営業のオレや設計の平田あゆみさん、
検査の増田真一くんも含めて今年の新人が5名も入っていた。
極めて異例の事らしかったが理由は後で分かった。
皆、特に新人は緊張した面持ちで着席して、会議の開始を待っていた。
巽部長が最初に挨拶し、末木課長進行による各部門の紹介が行われた。
その後、各部門の役割分担、今後の進め方について説明が行われた。
今日は顔合わせがメインの打ち合わせだったが、一色食品から入手した計画書は
全員に配布され、次回打合せまでに内容を精査することになった。
営業の役割は、一色食品との良好な信頼関係を築き、お客様のニーズを把握する事。
さらに、競合情報の入手も大事な役割だ。
最後に巽部長から一言あった。
「これから長丁場になりますが、皆さんよろしくお願いします。提案書作成にあたっては、
皆さんの叡智を結集して、お客様に喜んでいただきましょう」
それから、と一呼吸おいて言葉を続けた。
「今回プロジェクトを立ち上げるにあたって、新しい取り組みをしました。
ご存知のように、メンバーには今年入社した新人が5名入っています。
これまでのチーム編成では考えられなかったことです。一色食品の一色常務から伺った、
若い人にチャレンジするチャンスを与えるという話を聞き、これは当社でも是非やろう
と考えました。新人の5名は不安もあると思いますが、経験を積んだ社員では見えない
皆さんの意見を忌憚なく出して欲しいと思います。失敗を恐れず、頑張ってやり遂げましょう!」
新人5名が選ばれた理由がこれで分かった。新人5名で集まって打ち合わせをやっても
おもしろいかもと思ったのは、オレだけだろうか。
会議終了後は、新人5人が残って部屋の片付けをした。
「こんな大きなプロジェクトに今年の新人が5人も入っているなんて、今まで無かった
事なんだよな」田之倉が口を開いた。
「そうよね。経営理念とはいえ私もびっくりしたわ。」平田さんが言った。
まだ会議室に残っていた榊原さんが、その会話に入ってきた。
「一色食品さんは、とにかく失敗を恐れず若い社員にチャレンジさせることを理念として掲げているのよ。
今回の引き合いも、そのお陰ね」
「そのお陰とはどういう意味でしょうか?」今度は増田くんが質問した。
榊原さんは引き合いまでの経緯を簡単に説明し、新人の沢田くんにチャレンジさせようと一色常務が
引き合いを出したものだと答えた。
「でも、沢田くんは他社の人間ですよね?」平田さんは疑問をとことん追求するタイプ
のようだ。
「そこが一色食品の凄いところよ。自社の社員に拘っていないのよ。なかなかできることじゃないわよね。
それに若い人の転職も応援しているらしいの。自社で学んだことを世の中で活かすなら、どこの会社でも
構わないっていうこと。
一度退職しても又雇うこともあるらしいわ。そんな会社私も聞いたことないわ」
「懐の大きな会社ですね。」田之倉が感心して言った。
「逆に離職率は低いらしいわ」
世の中にはいろいろな会社があるものだ。
「そういうことなら、僕たち新人5人だけで意見交換したらどうだろう。三人寄れば
文殊の知恵とも言うだろう」田之倉も良いこと言うが、珍しいことわざを使うものだ。
「オレも賛成!」同意見のオレも大賛成だ。
由佳ちゃんも平田さんも賛成した。俺たちはL I N Eで、“一色食品P”というグループを
作って連絡を取り合うことにした。事務局は営業であるオレの役目になった。
取り敢えず1回目は、明日みんな都合が良いと言うことで居酒屋で開催することにした。
由佳ちゃんが、「沢田くん、結局飲みたいだけなんじゃないの??」
やっぱり最近千夏に感化されてきたようだ。田之倉にもアドバイスしておこう。
「そんなことないよ。頭に燃料補給した方がみんなもいい知恵が出るだろう!」オレは
ニヤッと笑って答えた。
かた付けも終わり席に戻ったオレは、先ほどの会議の議事録を明日出席者に配布するため、
せっせと作成していた。
既に定時は過ぎていたが、30分ほどで作れるだろう。
さあ、いよいよこれからだ。巽部長や一色さんの期待に応えたい。そう強く思えた。
一色食品の計画書を確認しながら議事録を作成した。あっという間に1時間が過ぎていた。
パソコンのディスプレイにメール着信がポップアップされた。
メールはゴルフ部事務局からのもので、来週月曜日定時後に部会を開催すると記載されていた。
議題は、来月末に開催される企業対抗戦の選手決定というものだった。
まだ正式には決定していないものの、部員であれば選手が誰になるかはほぼ知っていた。
残念ながら、今回オレは対象外だ。合宿も含め、4ラウンドの平均が90ストロークでは、残念ながら絶望的だ。
考えているうちに、無性にクラブを振りたくなった。
議事録も仕上がったのでそろそろ帰ろうとしたときに、胸のポケットにあるスマホが振動した。
田之倉からのL I N Eだった。この後時間があるなら、飲みに行かないかという内容だった。
明日も新人5人で行く予定なのに、なんだろう。何かあったかと思いながら、
“時間は空いている。すぐに出れるよ”と返事をした。
机の周りを片付け1階に降りると、既に田之倉が待っていた。
「お待たせ。」
「悪いな。急に付き合わせちゃって」
「大丈夫だよ。駅前の居酒屋に行こうか」
「ああ、そうしよう」
田之倉もオレも居酒屋まではほとんど口を聞かなかった。田之倉が何を話したいのか
見当がつかなかったが、話すまで待つことにした。
居酒屋についてすぐにビールとつまみを注文した。
「ゴルフ部からメールが来てたろ」オレは頷いた。
「ちなっちゃんとはどう。うまくいってる?」
オレの質問は無視され、突然こっちの話になったのでびっくりした。
「ああ、何とかね。お互い楽しくやってると思うよ」
「そう、良かった。」どうも今日の田之倉は、会話がチグハグというかスムーズではない。
だんだん、オレの方がムズムズしてきた。
「あのさあ・・・」やっと本題に入りそうだ。その時、店員がビールを持ってきた。
「お待たせしました!生2つねえ!!」せっかく始まりそうだったのに、田之倉も間が悪い。
「今日もお疲れ・・」雰囲気のおかしい田之倉の発声だ。
「お疲れさん」そう言って、オレは3分の1ほど飲み干した。
相変わらず、最初の一口は生き返る気分だ。
「それで、何?」田之倉の目を見て聞いてみた。
「あのさあ・・」悪いとは思ったが、少し可笑しくなった。
「何?言ってみろよ」
「ゆかさんのことなんだけど・・・。」“ゆかりさん”と聞いた瞬間、誰のことか分からなかった。
「“ゆか”って、資材の由佳ちゃんのことかあ?」念の為、確認した。
「他にいないだろう!」少しムッとして言った。何もオレに当たらなくてもいいだろう。
「さっきの会議でも気になって仕方ないんだよ。どうしたらいい??」
そういうことか。本気で由佳ちゃんのことを好きになって、気になって仕方がないということか。
まるで小学生みたいだ。プライベイトを仕事に持ち込んではいかんと言おうと
思ったが、田之倉の表情を見ているとそれも言えなくなった。
「どうしたらって。自分の気持ちをぶつけるしかないんじゃないの。考えているだけじゃ
何も進展しないと思うし」
名前は“爽”のくせに、全然“爽”じゃない。
「大樹はいいよな。ちなっちゃんから迫られたんだから・・・。」
そう言われるとそうだが、目の当たりにして言われると、ムカついてくる。
自分のことを思い出して、あることを思いついた。
「どうだろう、由佳ちゃんを食事に誘ってみたら。例えば、いい店を見つけたから
食べに行こうとか。あくまでも軽い感じで、どう?」
「情けない話、僕は今まで一度も女性を誘ったりした事ないんだよ」
オレも田之倉に合わせて応えた。
「あのねえ、オレも情けない話、女の子に声かけたり“付き合ってください”なんて言った事ないんだよ。
彼女いない歴22年だったんだから」
「僕の事おかしいかい、大樹」
「おかしい訳ないだろ。」
オレまで本当に情けなくなってきた。田之倉は黙り込んで、だんだん泣きそうな顔になってきた。
「分かった!オレが何気なく由佳ちゃんと食事に行きたがってると、匂わせてみるよ」
「本当に!ありがとう、大樹!!よろしく頼むよ。」田之倉は急に元気になった。
まるで高校生の青春ドラマで出てくるような場面だ。
「今日は僕が奢るよ。好きなだけ飲んでくれ」全く急転直下の上機嫌だ。
しかし参った。田之倉の為だから何とかしたいが、如何せんオレにいは女性経験が不足している。
ゴルフと同じだ。そうか、ゴルフと一緒なら経験豊かそうな人間に相談すればいい。
部長は人生経験も長いから期待できるが、まさかこんな話をもっていくわけにはいかない。
榊原さんも良さそうだが、30過ぎて独身の女性に相談するのもどうしたものか。
結局、千夏に相談するのが良さそうだ。正直経験豊富であって欲しくはないが、
この際だから致し方ない。女心もよく分かるだろう。
それからの田之倉は、えらく饒舌になった。それだけ純真なやつなんだろう。
なんて役を引き受けたんだろうと思いながら、オレはやけくそ半分、田之倉はおそらく期待全開で美味しい
酒を飲んだ。
「そう言えば、明日一色食品の打ち合わせを夜やるんだよね」田之倉は目を輝かせて
言った。オレは、明日決行しろという合図だと感じた。
「そうだねえ〜」半分酔ったフリをして流した。
「由佳さんもくるんだよね」由佳さんかあ。初々しくて、田之倉が可愛い。
変に絡まれるのも面倒なので、
「任せとけって、作戦考えるからさ」
「大樹、頼りになるよ。ありがとう!」ホント可愛いやつだ。
家についたのは、既に11時を回っていた。
田之倉との約束が頭から離れず、千夏に相談することにした。
「どうしたの?こんな時間に」良かった。千夏はまだ起きていたようだ。
「悪いな。こんな時間に。実は一大事が起きた!」
「なに、一大事って?スイングが分からなくなった?」
「違うよ。一人の男の人生がかかっている」オレはさっきの田之倉の話をして、アドバイスを求めた。
「友達の悩みを聞いてあげるのはいいけど、男の大樹がそんなことしたら、多分藪蛇になるわよ」
そう言って千夏先生は続けた。
「自分に告白もできない男性を、女性の心が揺れると思うの?」おっしゃる通り!
「それで?」
「仕方ないわね。私がそれとなく由佳ちゃんの気持ちを確認してみるわ。少し時間ちょうーだい」
「そう言ってもらえると助かるよ。でも時間がないんだよ。明日の夜飲み会があって、
そこで二人は顔を合わせちゃうんだよ。それまでに何とか頼む!」
「また急ねえ。こういうのはタイミングが大事なのよ。もっと早く言ってくれればいいのに」
早くもなにも、オレもさっき聞いたばかりだ。
「分かったわ。何とかしてみる」
「よろしく頼むよ。実はオレもこういうの苦手なんだ」
「分かってるわ。高くつくからね、覚悟しといてよ!」
「りょーかい!何でもいうこと聞くよ」
「じゃあ、ディズニーランドとシーに連れてって。おやすみ〜。」
ディズニーに関してはもちろん異論はないし、これで今日はゆっくり眠れそうだ。
翌日は、朝から昨日作成した議事録を榊原さんに確認してもらい、午前中には関係者へ
メール送信を終えた。
千夏に頼んだ田之倉との約束はずっと気になって頭から離れなかったが、千夏に任せる
しかない。朝、千夏と顔を合わせたときには、開口一番“ディズニー忘れないでね”
だった。
定時後に行うミーティングについて、場所、時間など新人4名にメールした。
改めて、一色食品新社屋の計画書を最初から見直した。この計画書には、彼らの想いが詰まっている。
提案する内容は、この計画書以上のものを作って納得してもらいたい。
千夏からL I N Eが入った。由佳ちゃんと昼食を外で食べることになったと書かれていて、
その後話をすることになった。
千夏と由佳は、12時きっかりに1回のロビーで待ち合わせをしていた。
目的地は3分ほど離れた、洋食屋だ。
「由佳ちゃん、意外と空いていて良かったわね」
「珍しいわね。いつも混んでいるのに」二人は店の奥の席に案内された。
「なにしよっかなあ。ここのランチボリュームの割に格安よね」
二人してそう多くはないメニューと睨めっこして、結局“シェフお任せランチ”に落ち着いた。
「そう言えば、一色食品さんのプロジェクトに新人5名が選ばれたんですってね。
由佳ちゃんも凄いじゃない」
「新人教育みたいなもんよ。大樹くんも田之倉くんも一緒だから、心強いわ」
田之倉の名前が由佳から出たので、千夏はシメタ!と思った。
「二人とも対照的な個性だから面白いんじゃない!」
「そうね。いい意味で二人ともね。昨日のプロジェクトの田之倉くんは良かったわ」
会議終了後に、新人5人でチームを作って検討しようという提案の話をした。
千夏も田之倉がそんな提案するとは、ちょっと意外だった。
「へえ〜、マジで爽くんがそんなこと言ったんだ。ちょっと信じられない。」
千夏は田之倉のことを少し落とし気味に言って、由佳の反応をみた。
「そんなことないよ。格好よかったわ。みんなを一つにするような雰囲気があったもの」
千夏は心の中で“ニヤッ”とした。
「そう言う一面もあるってことね。男って分からないものね。そう言えば、この間田之倉くんも
由佳ちゃんのこと褒めていたわよ」
「え、なんて言ってたの?」
「なんだったかな。」千夏はとぼけて由佳を少し焦らした。
「田之倉くんって彼女今いないんだよね。」
「入社した頃はそう言っていたわね。そう言えば、千夏ちゃんは大樹くんとどうなの?」
ヤバイ。まだ由佳ちゃんには言ってなかった。今はこっちの話は避けたいところだ。
「まあまあかな。いつもの調子でやっているわ」千夏は話を変えようと、
「そうだ、田之倉くんねえ、由佳ちゃんのこと気にしてたわよ。多分だけど・・。」
「気にしてるって、どう言う意味?」
「そう言う意味よ」千夏は気を持たせるような言い方をした。
「由佳ちゃん、今付き合っている人いないんでしょ。」
「ええ、いないけど」
「田之倉くんのこと、気になってたでしょ」千夏はここだとばかり、追い込みに入った。
「気にならないって言ったら嘘になるけど。でも、入社してからまだそんなに経ってないし、
いつも近くにいるから。」
そんなに経ってないって、私と大樹はどうなっちゃうの?
「じゃあ、今度食事でも行ってみたら。彼の気持ちもわかるかもしれないし、由佳ちゃんの気持ちもね」
口には出さないものの、満更でもなさそうな感じだ。
「もしかしたら、彼から誘ってくるかもしれないけどね」よし、これで今日の夜の布石は打てた。
「そうねえ。彼良い人だし考えてみるわ」
「由佳ちゃん、考えちゃだめよ。感じるのよ。理屈じゃないんだからね。嫌だと
感じたらやめれば良いわ。友達なんだし私も大樹もいるし、どうにでもなるわ」
「そう言うところが、千夏ちゃんの凄いとこよね。私も見習わなきゃね」由佳らしい
笑顔で答えた。
「由佳ちゃんには私に無いものをいっぱい持ってる。自信持って良いわよ。
これから仕事もゴルフも恋も頑張らないとね!」
由佳ちゃんには悪いが、今回はまずまずの成果だ。これで大樹とのディズニーランドが近づいた思うと、
嬉し過ぎて大声で叫びたかった。
二人はグレープグフルーツジュースとオレンジジュースで乾杯して店を出た。
千夏は由佳と別れたところで、大樹をビルのカフェテリアに呼び出した。
カフェテリアは30人くらい入れる大きさがあり、一人で集中したいときにここで
仕事をすることも推奨されている。最近ではだいぶ増えているありがたい制度だ。
オレはコーヒーを二つ買って向かいの席に座った。
「どうだった?」千夏の表情から、どうもあまり芳しくなかったようだ。
いきなりオレの目の前に右手の親指を立てて突き出した。
「バッチリよ!」千夏は満面の笑みを浮かべ答えた。
「何だよ、脅かすなよ。それで・・」
千夏は由佳との会話の内容を話し始めた。
「ということは、由佳ちゃんは満更でも無い様子で、田之倉からの誘いを待っていると考えて良いのかな」
「そうね。由佳ちゃんは田之倉くんのことを意識し始めてるってとこかな。
この先は、うまくいってもいかなくても二人の問題よ。こればっかりは見守ることしかできないわ」
「そうだな。ところでいつ行く?」
「え?」
「ディズニーランド行くんだろ。」忘れてないくせに、全く演技がうまい。
「覚えていたんだ」
「決まっているだろ。約束したのは昨日だぞ」
「嬉しい!」
千夏の笑顔を見てオレも嬉しくなり、抱きしめたくなったが場所を思い出して思いとどまった。
「オレも楽しみにしてるよ」千夏と相談して来週の土曜日に決めて席に戻った。
田之倉の喜ぶ顔が目に浮かぶが、ここからが田之倉の正念場だ。
時間は早かったが、定時後すぐに田之倉を誘って会社を出て、道すがら田之倉に
説明した。
「由佳ちゃんを誘うべきだな。とっても良い娘だよ」オレは最後に付け加えた。
「ありがとう。今日ダメもとで話してみるよ」どうも弱気の虫がいるようだ。
「自信持てよ。田之倉らしく自分を出せば良いんだから」田之倉と由佳ちゃんには
是非良い関係になってほしいと心から思った。
お店にはまだ誰も来ていなかった。予約した個室は8人部屋で十分余裕があった。
さてこれから二人のためのセッティングが必要だ。
オレは幹事役なので、入り口近くの席だ。田之倉は今回の言い出しっぺなので、上座の中央に座らせた。
由佳ちゃんは田之倉の隣に座ってもらって、後は空いてるところだ。
他の3人は時間通り来た。3人入ったところで襖を閉めようとした時、もう1人現れた。
「なんかいいのかな?来ちゃったけど・・」千夏だった、何で来たんだ!?
「会社出たら千夏ちゃんにあってね、平田さんと増田くんに話したら喜んで賛成して
くれたから誘っちゃった!」今日の由佳ちゃんはハイテンションようだ。
「如月さんなら大歓迎だよ!」増田も嬉しそうだ。
「田之倉くんも良いよね?」オレには聞いてくれなかったのは、少し残念だが我慢した。
「全然構わないよ。千夏ちゃんなら意見出してくれると思うよ」
という事で、一色食品新社屋建設プロジェクト新人チームの楽しい会合が始まった。
乾杯をした後、千夏が初参加ということもあり、オレから改めて今回の案件の概要を
説明し情報を共有した。
その後は、田之倉に進行を任せた。田之倉の提案で、自分ならどういう環境で仕事をしたいか
というシチュエーションで何を求めるのか自由に発言する事になった。
但し条件として、人の発言を否定や反対はしない事、そしてできそうもない事でも何でも良いというものだった。
それでも最初は皆遠慮がちだったが、アルコールも入り始まってしまえば色々な意見が
出された。
会社にプールやジムがあったら健康にも良い、温泉があったらお肌にいい、お菓子コーナーが
各フロアーにあったら最高、森林浴のできるオフィスは仕事に集中できるとか、
いろいろだ。オフィス一つとってもいろいろな環境があるものだとつくづく感心した。
熱気を帯びた会合は、延々と3時間以上続いた。