表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごるふ一徹、カノジョ一途、一時社会人  作者: えずみ・かいのう
22/44

10番ホール:予想外の展開③


連れて行かれたのは、案の定銀座にある高級クラブだった。クラブのママがすぐに

挨拶に来て、入れてあったボトルでウイスキーを作ってくれた。

ここでも、ウイスキーやらバーボンやら、綾部さんの注文通り遠慮せず頂いた。


11時を回った頃、佐伯さんは先に帰ることになった。佐伯さんは見送りを遠慮したが、

ご馳走になっているオレとしてはそうもいかないので、エレベーターまで見送った。


「佐伯さん、今日はお世話になりました。本当に楽しかったです」

「いえ、こちらこそ一色や綾部にお付き合い頂いて、有難うございます。

二人とも若い人と飲むのが大好きで、沢田さんのこと、とっても気に入ったみたいですよ。

私もとても楽しませて頂きました。仕事もうまく行くといいですね」


「有難うございます。また、こうして来れるように頑張ります」

「頑張ってください。是非いらっしゃってください。それからゴルフも頑張ってくださいね」


佐伯さんのほんのり赤く染まった頬が、チョー色っぽく見えた。

オレは佐伯さんを見送って、一色さんと綾部さんの待つ席に戻った。


「すいません。お待たせしました」

「わざわざ見送って頂いて申し訳ない。いつも佐伯には世話になっているから、

こうして誘っているんですよ」


その後もゴルフ談議やら仕事の話で盛り上がった。結局0時過ぎまでその店にいた。

かなり酔った一色さんはまだいたそうだったが、綾部さんが半ば強引にお開きにした。


店を出るとレクサスが待ち構えていた。二人に丁重にお礼を言ってオレは少し歩いて

からタクシーに乗った。行き先を告げ、このタクシー代は会社で出してくれるのかと

思いながら眠ってしまった。


家に着く頃には酔いも少し冷めた。両親は既に寝ているようで、コップに水と氷を

入れソファーに座ってテレビをつけた。衛星放送でU Sツアーの放送をしていた。

緑の絨毯、青い海と空そして白い雲が眩しく見えた。世界最高峰のツアーで戦う

選手たちは、以前にもまして華麗に感じた。

タイガー・ウッズ、ローリー・マキロイ、リッキー・ファウラー、ダスティン・ジョンソン

そして松山英樹と同じステージにいるような気になる・・・。


翌朝は母親に起こされた。どうやらソファーでテレビをつけたまま眠ってしまったらしい。

お陰で首の筋が少し痛い。オレは熱めのシャワーを浴びて、コーヒーだけ飲んで家を出た。

久しぶりの二日酔いだ。


「まいったなあ、昨日の報告をしなくちゃいけないのに、何も纏めてない」

しかしどうにも頭が回らない。いい酒は悪酔しないはずなんだが、今更遅い。


駅から会社に向かって歩いていると、後ろから肩を叩かれ「おはよう」と聴き慣れた

声がした。千夏と由佳ちゃんだった。


「あんまり朝から高い声で大声出さないでください」オレは丁重にお願いした。

「あら、どうしたの。なんか悪いことしたの?」

千夏は面白そうに、由佳ちゃんは心配そうにオレの顔を覗き込んだ。


「単なる二日酔いだよ。頼むから静かに話して」

「そっか、昨日一色食品さんに行ったんだっけ。どうだった?」


オレは、ゆっくりそして静かに二人に説明した。佐伯さんのことは要点ではなかった

ので省いた。

「よく聞こえなかったけど凄いね大樹は。新人離れしているわ」手を挙げて応えつつ、

千夏さん、頼むから静かにしてください、と心の中で呟いだ。


「うまく話が進むといいわね。」由佳ちゃんの声は今のオレの頭には心地よい。

「それでお土産のお菓子は何だった?」冗談だとはわかっていたが、答えるのが

面倒で脳天気な質問は聞こえないふりをした。


「ねえ〜、パン!」千夏がオレの尻を叩いた。これは間違いなくパワハラだ!


由佳ちゃんの視線を感じつつ、今のは同僚に対する行為としてはちょっと問題だ。

プライベートと一線を引くよう千夏にあとで注意しておこう。


会社の前に来たオレは、深呼吸をして頭のギアーを入れ替えた。このまま職場に顔を

出したら、末木課長に何を言われるか分からない。


既に榊原さんは出社していた。

「沢田くん、昨日はお疲れ様。良い話を頂いたみたいで良かったわね。昨日連絡を

もらってから、部長と課長には状況を報告しといたわ。それで早速なんだけど、

10時から詳細を説明するから、それまでに報告の内容を纏めてちょーだい」


とりあえず、オレは打ち合わせ後の鮨屋と二次会のクラブ、タクシーで帰ったことを

報告した。榊原さんからもし次に同じようなことになったら、少なくともどちらかの

会の費用はうちで持つようにアドバイスされた。


10時になると部長席前のソファーに4人が座った。

オレは、小一時間で纏めたメモをもとに、昨日の打ち合わせの内容を報告した。

巽部長も末木課長もニコニコして喜んでいた。いや、末木課長はニコニコはしていなかったが、

喜んでいるそぶりはしていたというべきだ。


ただ、末木課長から営業活動において受注することは大変だが、もっと大事なのは

引き合いを持ってくることだそうだ。

そういう意味では、よくやったと言っていた。ここは素直に受け取るべきだろう。


結論は、改めて当社の方針として提案を是非させていただく意思を一色食品さんに

示そうということになった。詳細な仕様をまだ入手していないので最終結論ではないが、是非受注に向けて会社を挙げて取り組むというものだった。


部長から、

「沢田くん、窓口の綾部さんに連絡を入れてくれたまえ。私がお会いして直接意思を

伝えたいと。日程は君に任せる。私のスケジュールよりも先方の都合を優先させて

いいから。それから昨日のお礼も忘れないようにな」オレは頷いた。


急にビジネスが始まるような緊張感を感じた。ここからはスピードが大事だ。


「その時は、末木くんと榊原くんも一緒に来てくれ。本件については、社長にも報告しておく。

一色食品といえば会社の規模、知名度はもちろん、うちで受注した場合を考えると宣伝効果も十分見込める。

全力で取りに行こう」1時間ほどで打ち合わせは終了した。


席に戻ろうとすると、オレだけ部長に呼び止められた。


「沢田くん、こういうチャンスはそうそうあるものではない。そして必ずしも誰にでも

あるものではない。結果は気にせず、一色食品のことを想い精一杯やってくれ。

ところでゴルフの話も出たんだろう?」


「はい、ほとんどゴルフの話でした。一色食品さんのゴルフ部も企業対抗戦には毎年出場していて、

決勝に進出するほどレベルが高いようです。うちのゴルフ部のこともご存知でした」

「そうかあ、じゃあいいライバルになるように頑張らないとな。一色さんとはいい関係が作れるように

頑張ろう」


席に戻ってすぐに綾部さんに電話を入れた。

昨日のお礼をした上で、当社として是非提案させていただく方針であること、改めて巽部長がご挨拶に

伺いたい旨を伝えた。綾部さんは大層喜んでくださり、一色さんの予定も確認した上で日程は明日の

13時に決まった。この時間帯なら部長も課長も空いている。


すぐに部長、課長、榊原さんに訪問する日程を伝え、出張報告書の作成に取り掛かった。

報告の緊張感から解放されて、また二日酔いが帰ってきた。


改めてメモを確認しながら、時系列に記載していった。5W1Hを念頭に置いて、

簡潔に読み手が理解しやすいようパソコンで打ち込んでいった。


昼食の頃には、何とか二日酔いも治まってきた。

食堂に行くと、千夏、田之倉、由佳ちゃんそして白川さんもいた。

オレは軽めのサンドウィッチとオレンジジュースを買って、席に座った。


「みんなお疲れさん」いつも通り挨拶した。

「沢田の方が疲れているみたいだな」田之倉とは久しぶりだ。

「やっと昨日の二日酔いが抜けてきたよ。お客さんがよく飲むから、勢いで飲みすぎ

ちゃったよ」

「それは仕方ない」千夏の言葉に田之倉が同意した。


由佳ちゃんが、「お客さんのせいにしたらダメよね。ね、千夏ちゃん」

「ごもっとも。一流の営業は、自分をコントロールするものよ!」


最近、女性陣のツッコミに激しさを増してきたように感じるのは、オレの気のせいか。

「おっしゃる通り。オレもコントロールして二日酔いになった」

「ばっかみたい」オレの冗談は通じているのだろうか・・・。


「受注できたらいいな。頑張れよ、大樹!」田之倉の言葉が心から嬉しい。

そう言えば、田之倉は由佳ちゃんに告ったのだろうか。いや、恐らくまだだろうな。

飯に行こうと約束していたけど近いうちに誘ってみるか。


翌日、部長と末木課長、榊原さんそしてオレの4人は、一色食品本社がある神田に

向かった。

1階の受付で入館の受付を済ませロビーで待っていると、一色さんの秘書の佐伯さんが

今日も出迎えにきてくれた。


佐伯さんはオレにちょっと会釈をしてから、巽部長に挨拶をしエレベーターの方へ案内した。

昨日とは違う会議室に案内してくれた。

巽部長が先に入室しオレが最後に入ろうとすると、佐伯さんが囁いた。


「昨日は有難うござました。とても楽しかったですよ。」一瞬、ドキッとした。

そう言って、ドアを閉めた。


「今案内してくれた女性と知り合いかい?」突然末木課長が言った。

短時間で2度ドッキっとした。

「はい、昨日もご案内頂きました。一色さんの秘書の方です。」

「そうか。取締役の秘書が直接出迎えてくれるなんて、随分と丁重だな。」


入り口側から、オレ、末木課長、巽部長、榊原さんの順にテーブルに着席した。

少しすると、一色さんたちが入室してきた。

「巽さん、先日は有難うございました!」一色さんがこれまでにない笑顔で巽部長に近づき、握手した。


「とんでもない。こちらこそ有難うございました。それに本日は大変なご配慮を頂き、

心から感謝しております。」巽部長が応えた。


一通り挨拶を済ませたところで、皆着席した。


一色食品からは、一色さん、綾部さんの他に総務課長の辻さん、調達部の梶山さんが参加された。

俺の予想に反し、一色さんと巽部長でゴルフの話で盛り上がった。15分くらい続いた。


「今日の本題ですが、・・・」一色さんが切り出した。

福岡支店新社屋建設計画(秘)と題した資料が配布され、今回の案件の概要を説明した。

詳細は、辻さんと梶山さんから説明があった。

いくつか質疑応答が行われた後、両社の窓口担当は、一色食品側が辻さんと梶山さん、

当社は榊原さんとオレになった。それを以って今日の打ち合わせは終了した。


今日は出席していないが、実際工事が始まれば福岡支社の担当になるだろう。

その後は、又ゴルフの話になった。お互いゴルフ部があるということで、対抗戦をやることになった。

もっとも、公平性を期すため発注企業が確定した後でということだ。


今日のオレの出番はゼロだった。至極当然の話ではあるが・・・。


今回の計画の概要は、今年度中に予算を確定し、再来年の5月に竣工する計画だ。

予算は建設費として約30億円で当社としてはなかなかの規模だ。


ビルには約700名が入る予定で、食堂、応接室、会議室、展示室、警備室など最新の

設備も仕様に入っている。この仕様書に記載されていないものは、積極的に提案してほしいとのことだった。


又競合他社についても説明があった。従来から取引のある大手ゼネコンの小田建設、

中堅の大宝建設、陽光建設の3社だ。おそらく一番手強いのは本社を建設した小田建設のようだ。


そして次回打ち合わせは、2週間後に決まった。

俺に取って本当の意味で初めての案件、これから忙しくなると考えると武者震いがしてくる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ