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ごるふ一徹、カノジョ一途、一時社会人  作者: えずみ・かいのう
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6番ホール:ゴルフ部創設、こうなったらとことんやり抜け!①

社長の方針でゴルフ部創設が決まった。日本一を目指して児玉組(?)がスタートする!

そして大樹たち新人4人も、本格的にゴルフに取り組むことになる。

翌日の月曜日は、コンペに参加した社員だけでなく、参加しなかった社員までゴルフ部創設の話で持ちきりだった。ゴルフをやらない先輩社員たちは、ゴルフ部以外のクラブ活動を認めるということに興味があるのだろう。そういう意味で社長自らが初めてのクラブ活動を宣言したのが、余程インパクトがあったようだ。


浮かれ気分でパソコンを立ち上げているところへ千夏がやってきて、

「さ・わ・だ・く・ん、昨日は活躍したみたいじゃない!もしかして浮かれているんじゃないの?」ほぼ想定通りのお言葉。


「ハハッ、オレの実力からしたらまだまだだけどね。」と謙遜(?)して返すと、

「でも凄いわね!野球だけじゃなくゴルフも才能あるかもね。見直しちゃった!!」

これは想定外のお言葉。


「部長とかプロのお陰だよ。ぜんぜん実力不足。やっぱり考えていた以上というか、相当奥が深くて面白いスポーツということは分かったよ。」


「そういえばゴルフ部できるんだって?榊原さんが言ってた。」

やはり千夏と榊原さんは、裏でつながっているようだ。

「そう。昨日入部した!」昨日の昼食時のことを簡単に説明した。

「へえ〜、もしかして期待されてるかもねえ。私も入ろうかな??」

「いいんじゃないか。そうだ、田之倉も入部させよう!」

「由佳ちゃんもね!」

そうこう話してると始業のチャイムがなったので、千夏は席に戻りオレはパソコンに向かった。


翌日、早くも社内ネットの掲示板で総務課から社員向けに、ゴルフ部創設のお知らせがあった。

男性だけではなく女性部員も募集していて、ゴルフ未経験者大歓迎と書いてあった。

企業対抗戦のことも記載があった。


榊原さんとオレには、巽部長から直接話があった。有難い限りだ。

榊原さんの話では、うちの会社はかなりレベルの高い人が揃っているようだ。巽部長はじめ、検査部の佐藤課長のハンディーはシングル。更にオレの上司でもある末木課長も80前後で回るらしい。他にも80代で回れる人が数人いるようだ。企業対抗戦は選手4名が出場だから、オレが入る余地は今のところ無い。


さすがに実績のないオレは、今年の選手に選ばれることは難しいだろうが、今から諦めたくはなかった。できる限りのことをやって、それでダメなら仕方ない。


掲示板に貼り付けてあった入部申込書に期限は1週間だったが早速記入し、事務局になっている総務課の白川さん宛にメールをした。すぐに白川さんからメールの返信があった。


「昨日のコンペでは沢田さんはすごかったですね。デビュー戦なのにびっくりしました。ゴルフ部でも頑張ってください!」と書かれていた。これだけでやる気100倍だ。

何と返信しようかと考えていたところ、あいにく会議の時間になってしまい後で返事することにした。パソコンに後ろ髪を身かれるのはじめてだ。


1週間後、再び白川さんからゴルフ部創設のメールがきた。

集まった部員は全部で47名でかなりの人数だ。男性は40名、女性は7名。大阪や福岡など全国の支店からも参加している。千夏や由佳ちゃん、田之倉の名前もあった。知らない名前ばかりだったが、どんな人たちなのか楽しみだ。


メールを読み進めると、来週月曜日にゴルフ部の創立の決起集会を行うとのことだった。“決起”とは随分お袈裟だとは思ったが、おそらくチョー気合いの入った社長の発案だろう。オレは好きだけど・・・。


最近時間の経つのが早く、あっという間に月曜日だ。

定時後、“ゴルフ部創設決起集会”の会場に、オレは千夏や由佳ちゃん、田之倉と会場に向かった。続々人が集まってきて、事務局となる総務課からも2名が来て受付をしていた。


会の進行は、相変わらず谷川課長だ。

「皆さん、お忙しい中お集まり頂き、有り難うございます。只今よりゴルフ部創設決起集会を開催します。最初に児玉社長よりご挨拶いただきます。」


「みんな、お疲れ様。忙しい中今日は集まってくれて本当に有り難う。この記念すべきゴルフ部創設の決起集会がこうして開くことができて嬉しい。今日は支店も含めて全国から47名の社員に集まってもらった。」


どうやら出張の用事を作って、支店からも部員がきているらしい。全く徹底している。

「まず、今回ゴルフ部を作った経緯を説明しておこう。みんなのおかげで、この業界における会社としての地位を築くことが出来た。これから大事になるのは、働く人の生活の質を高めることだ。私は会社としても努力したいと考えている。


会社は仕事をするところだ。それによってみんなにも給料が出せる。それはこれまでもやってきた。今回これに加えて、みんなに仕事以外で生活をより豊かになる、具体的にいうと熱中できるものとか目標を持って取り組めるような場を作りたいと考えた。

ゴルフ部はその最初の取り組みだ。今後、みんなのやりたいこと、スポーツでも良いし文化的なことでも構わない。会社としてそれを支援していきたいと考えている。経緯はこんなところだ。」


オレは社長となるとこんなことまで考えるんだと感心していた。単にゴルフが好きだからゴルフ部を作るもんだとばかり思っていた。


「本題のゴルフ部だが、私はこれまで何でも1番を目指してやってきた。ゴルフ部の目標を日本一としたい。ただ勘違いしないで欲しい。大事なことは、目標に向かって頑張るその過程だ。その過程がみんなの力となり無限の可能性が広がる。嬉しいことに男性だけでなく、女性部員も7名集まってくれた。こうして集まってくれたことが何より嬉しい。

ありがとう!以上だ」大きな拍手で包まれた。


ここにいる全員が感動とまではいかなくても、喜んだに違いない。うちの社長は仕事だけでなく、社員のことも考えてくれている。


続いて自己紹介が始まった。ちなみに社長はゴルフ部の名誉会員ということだった。

男子チームの部長は巽部長。副部長は佐藤課長。女子チームは、情報システム統括部の江森玲子課長。副部長は榊原さんだ。事務局は、総務課の谷川課長と白川さん。

そして驚いたのが、最後に紹介されたゴルフアナリストの経理部の磯村主任だ。


磯村さんとはコンペでも少し話をさせてもらったが、今回選手兼アナリストということだ。説明では、選手個人のプレイデータの分析によって、強みや課題を明確にして練習に役立ててもらうこと。そして、大会会場となるコースの戦略立案などだ。


磯村さんはスポーツ心理学も大学で学んでおり、メンタル的な部分もサポートしてくれるらしい。ここまでやるかというくらい驚かせてくれる。


その後、練習施設について説明があった。本社を始め、各拠点の最寄りの練習場と会社として提携するそうだ。社員証を見せれば割引が受けられるそうだ。オレが行っている目黒ゴルフ練習場の名前もあり、思わずガッツポーズ!


更にゴルフ場についても話があった。先日行われたコンペの富士児玉ゴルフクラブは、会社が持っているゴルフ場で社員料金でプレイできるとのことだった。総務課を通して予約すればいいらしい。最近安くなったとは言っても、我々安月給のサラリーマンにとってはまだまだ高額だ。こういう環境を提供してくれる会社には感謝だ。


「最後に・・・」と谷川課長から、今後のスケジュールについて説明があった。

来月から月1回研修会を行い、夏には合宿を実施。選手はこの合宿で決めるとのことだった。そして9月にある企業対抗戦予選。ここまでが当面のスケジュールだ。


その後は社員食堂に移動して懇親会が開かれた。テーブルには、ビールやオードブル、つまみが既に並べられていた。

社長の乾杯発声の後は無礼講。社長は支社から来た社員たちと話していた。


俺たち4人と榊原さんは同じテーブルでビールを飲みながら話していた。

「なんか取り組み方が凄いですね。」千夏が榊原さんに言った。

「社長が言っていたけど、日本一になるってマジね。何事にも全力を尽くす。まだまだ他にも考えていると思うわ。それが児玉社長よ!」俺たちより社長を知っている榊原さんが答えた。


「俺たちも練習しないといけないな。これから時間が合うときはみんなで練習に行こう!」

「いいわね!行きましょう!!」由佳ちゃんもその気になってきた。

「その前にクラブを買わなくちゃいけないわね。」

「そういえば、ちなっちゃんと由佳ちゃんと田之倉はまだクラブが無かったね。」

よくよく考えると、クラもないのにゴルフ部に入るとはみんないい度胸だ。オレも人のことは言えないが・・・。


「それだったら、経理の磯村くんに相談すると良いわ。彼はクラブのことにも詳しいの。初心者のみんなに使いやすいクラブを教えてくれると思うわ。」

そういうと榊原さんは、隣のテーブルにいた磯村さんを呼んだ。


「知っているけど思うけど、こちらゴルフアナリストの磯村くん。」

榊原さんは改めて俺たちを磯村さんに紹介してくれた。


「沢田くん以外はみんなクラブ持ってないの。クラブを買いたいんだけどアドバイスしてくれる?」

「ああ、良いよ。まあ今言葉で説明するより、ゴルフショップで見ながらが良いね。会社が終わってから一緒に見に行こう。取り敢えずは、ハーフセットで十分だろう。中古のクラブというのもあるけど、出来たら新品で買った方がいいよ。」


経理の人だからお堅いイメージがあったが、磯村さんはそんなことないらしい。

少し経理の見方を変えた方が良さそうだ。


「これからは僕がみんなをサポートする。それが社長の言う日本一に近づく道だと考えている。それでは失礼する!」そう言い残して別のテーブルへ行ってしまった。磯村さんも悪い人ではないようだが、まるでA Iと話しているような感じだ。


「さあ、みんなも他のテーブルに行って挨拶してきなさい。」榊原さんの助言で、男性陣、女性陣それぞれ各テーブルに散った。


集まった先輩社員と色々な話ができた。一つ分かったことは、みんなゴルフバカということだ。“ゴルフバカ”とは良い意味でだ。みんなゴルフを心から好きなようだ。単にゴルフを娯楽ではなくスポーツとして捉えている。


スポーツでは色々なことが学べる。オレはこれまで野球の中でいろいろなことを学ぶことができた。チームメイトとの協調や目標に向かって努力することの大切さ。色々なことだ。恐らく、ゴルフにおいても同じだと感じる。


少々大袈裟かもしれないが、うちのゴルフ部にはアナリストもいれば、事務局の人達もいる。自分一人ではなく上司や先輩社員、管理部門の人達などなど、仕事と同じようにここにいる人たちを大事にしたい。


白川さんから声を掛けられた。

「沢田くん、どうゴルフ部のみんなは?」

「皆さん、本当にゴルフが好きみたいですね。僕も嬉しくなってきます。」

「うちの会社で初めてのクラブ活動になるから、ゴルフ部員以外の人も注目しているみたい。沢田くんのことも噂をしていたのよ。社長とラウンドして100を切ったって。」

「まさか僕もそんなスコアーで回れるとは思ってもいませんでした。何せ初ラウンドは約170ですからね・・。練習場のプロに言われて、スコアーではなく状況をよく見るように言われたのが、良かったのかもしれません。後はツキですかね。まだまだです。」

「そう言うところが、沢田くんの良いところね。みんなも言っているけど、スコアーを気にしないってできないらしいわ。」少なくともオレに自覚はなかった。


「白川さんはゴルフはやらないんですか?」

「私は応援する方が好きなのよ。沢田くんのことも応援するからね。でもゴルフのことはよく分からないから勉強中!ゴルフ部の事務局しね!」それを聞いたオレは、

「それじゃ僕も協力しますよ。僕も勉強中ですけど。」

「ありがとう!少し練習もしてみるわ。今度練習に連れてってくれる?」

「ぜんぜんO Kです!」嬉しくなって少々興奮してきた。練習は2人で行くんだろうか??


「おお、期待の新人がいるな!」これからとういうときに巽部長から声をかけられた。

「あ、巽部長お疲れ様です。」部長はニコニコしていた。今の話聞かれたかも・・・。

「西垣プロはどう?」

「はい。まだ数回しかレッスン受けていませんが、上達できそうな気がします。とてもわかりやすく教えてくれます。」

「天野社長も言っていたけど、西垣プロは評判いいようだよ。」


今度はそこに児玉社長がやってきた。

「ほぅ。沢田くんはレッスンを受けているのか?この間は何も言ってなかったな。」

「はい。まだ数回しか受けていませんでしたし、どうなるか分からなかったので。」

「そうかあ。ゴルフは特に基本が大事だ。最初に基本を身につければ後が楽だ。この間のラウンドは何を考えてプレイしていた?」同じことを聞かれるのは何度目だろう・・。


「プロに言われたのですが、その時々の状況をよく把握して練習していたハーフショットに集中しろと。それからスコアーに捉われるなと。」

「なるほど。それは難しいことをアドバイスするもんだな。で、それをやり切ったわけだ。」


隣で巽部長が満足そうな表情で、オレの代わりに答えた。

「はい、彼のプレイ態度や様子を見た限り、状況を冷静に客観的にみることができる才能があるようです。ずっとやってきた野球で培われたのかもしれません。技術的にはまだまだですが、練習と経験を積めば将来のうちのエースになるんじゃないでしょうか。」これほど褒められることは滅多にない。照れるどころか緊張してきた。


「それは嬉しい限りだ。人の成長を見るのは楽しいことだ。これは仕事でもゴルフでも一緒だ。共通することは多い。仕事で学んだことをゴルフで活かす。そしてまたゴルフで学んだことを仕事に活かす。それができると私は信じている。」


そこにいる全員が、黙って肯いていた。

急に真面目な話になったが、社長にとっては全てに対して真剣なんだと思った。


次号に続きます・・・。

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