モブの独白①
思い付くままに書いております。短いお話になる予定です。
突然だが、私はなんらかの乙女ゲーム世界らしきところに、モブとして生まれ変わったようだ。
私はアルマ・フェルトン(♀) 17歳。
父は辺境伯だ。
残念である。せっかくだったら男に生まれて(気持ちは)百合展開を目指すのだってやぶさかではなかった。
全くもって残念である。
辺境伯家に生まれた子どもは私一人。私はなにがなんでも婿をとるか、一人で家を継いで生き抜いたとしても後継ぎの養子を迎えなくてはならない。
面倒……いや、非常に残念である。
さて、ここにきてなぜここが乙女ゲームの世界なのではと気付いたか、振り返って確認してみよう。
そもそも、昔から前世とおぼしき不思議な記憶が混在しているのは気付いていた。なので、きっと周囲からは浮いた特異な子どもだった事だろう。
それでも、辺境伯という特殊な家で育った私は恵まれた環境でのびのび育ったと断言できる。
そして、16歳になって初めて王都にやってきた。この王都には、貴族が通う学園なるものが存在しているからだ。
年の同じ若者たちを集め、共に学び共に切磋琢磨することで友情と信頼を築き平和な世にしていこうという、ありがた迷惑なコンセプトのもと作られたようである。
迷惑である。私は田舎でのんびり暮らしたかった。とは言え学園を卒業しないと家が継げないと言われているので強制的に通うことにはなっている。
制服といい、単位制のカリキュラムといい、なんだか前世の学校のようだと思っていたら、出会う人出会う人がみんな美形。みんなカラフル。
我が家はみんなそれぞれ濃淡はあれど金髪碧眼で統一されてたから、こんなに赤や緑や青なんていう髪色をした人々が普通にいるとは知らなかった。
ちなみに、私の通う学年には王子がいる。王太子候補と言われる第一王子だ。そして、大人の事情で王子と同世代の子もたくさんいる。なので、この学年は学園始まって以来の大人数で構成されているらしい。
だがしかし、やる気のない私の最初の一年間は本当に何事もなく過ぎた。平和な一年だった。
前世のゲームみたいだな、と思いつつも何も起きなかったので正直油断していた。
そんな中でやってきた入学式。新入生が来場するのを、二年生になった私はのんべんだらりと眺めていた。
そして、事件が起こる。
式が始まり、二年生ながら既に生徒会長をつとめる王子が挨拶をしていた時だ。
慌ただしく扉が開き、一人の女子生徒が入ってきた。ピンク色のストレートロングヘア。顔は可愛い。スタイルもまあスラリとしてはいるようだ。
「あ、す、すみません……迷ってしまって!」
恥ずかしそうに顔を赤らめた少女は、大きくはきはきとした声でそう宣言した。講堂に響き渡る高く鼻にかかった声。明らかに作っているやつだ。イラッとする。
式の最中なのわかるだろうが。黙って入らんかい。
思わず心の中でつっこんだ。
しかし、少女はめげない。非難めいた視線をものともせず、「えっと、私の席どこですかぁ?」と王子にたずねていた。
王子にだ。壇上にいて、たった今挨拶を中断させられた、王子にだ。
こいつ、アホの子か。
王子は勿論何も答えない。困ったように教師陣に目を向けている。
呆れながら眺めていると、少女はそのうち教師陣に連れられて退場していった。
「え! 何でですか? え、ちょっと、これ、大事な出会いイベントなのにぃ……っ」
……お分かりいただけただろうか。
私はようやくここで気がついた。
ここが乙女ゲームの世界らしく、あのピンク頭がヒロインらしいことに。そしてヒロインももれなく転生者であることに。
いや、モブだから気づかなかったのは当たり前だと思う。なんか色々文化の発展具合がおかしいなとか思ってたけど、前世の記憶のせいだと思うじゃないか。
うん、だから私は悪くない。私は頭悪くない。あんなピンク頭と一緒にしてはいけない。
私は鋭い観察眼と鉄面皮を持って生まれた次期女辺境伯だ。
まあ、気づいたからといって私の生活が変わるわけではない。なにせモブ。モブオブモブ。
辺境伯家と言えど、王子たちと密接に関わるような学園生活はしていない。父からも特にそこの交遊関係を強化しろとは言われていない。
むしろ、
「王子についてる優秀な長男たちではなく、(使い勝手が)良さそうな次男三男を捕まえてこい」
と厳命されている。無論婿にするためだ。
なので、私は今日も昼休みに木陰で昼御飯を食べている。
一人だ。
寂しくはない。だって人付き合いが面倒なのだ。
婿問題も、私に全くやる気がないのでなんだかんだで父がどこからか見つけてくると思う。こんな変な女でも気にせず辺境伯を名乗ってくれる人を。
ふむ、この玉子焼きはなかなか上手くいった。
「こんにちは」
明日はゆで玉子にしよう。そろそろだし巻き玉子は飽きた。
「えーっと、聞こえている?」
なにせ家に鶏小屋があるせいで卵は山のようにあるんだ、いくらでも……ん?
「はい、何でしょう」
弁当に気を取られている間に話しかけられていたことを知り、私は顔をあげた。
眩しい。
ものすごいキラキライケメンが私を見下ろしている。
王子である。
なぜに?
「ふふ、やっと見てくれた。ずっと気になっていたんだ。君はいつもここでお昼食べてるから……変わったごはんだね?」
なんて事だ。なんか攻略キャラみたいな事を言い出したぞ王子。
なんでも、私がいつも誰もいないと思ってたこの場所、生徒会室から丸見えらしい。
なんて事だ。
内心愕然とするも、私の顔にそれは出ていないとは思う。
王子は無邪気ささえ漂わせて、玉子焼きを指差して「食べてみたい」とか言い出している。
「はあ、どうぞ……」
「ありがとう……ん、おいしいね……これ卵だよね」
「はい。だし巻き玉子と言います……あの、殿下、護衛の方は?」
「ああ、その辺にいるよ。ねえ、良かったらうちの料理人にレシピを教えてくれないかな」
護衛の方々への対応が塩過ぎませんか王子。
あと、どうやらお気に召したらしい私の前世知識料理。
当然だとは思う。なにしろ我が家でも評判で、私が弁当作るようになってからどんどん家庭内にレシピが取り入れられている。
まあ、玉子焼きくらいなら良いか。
「……分かりました。少々お待ち下さい」
私はそう言って玉子焼きをもう一つ差し上げると(欲しそうに見てたからだ)、傍に置いていた鞄からノートを取り出す。作り方を、絵を交えつつ書き上げて、ページを破って折り畳み、王子に差し出した。
護衛の人がいればその人に渡すんだが。なぜ近付いてこないんだ。
あ、こんなモブに警戒する必要ないからか。
そうか。
「……君は料理人になりたいの?」
私が迷わずレシピを書いたせいで、王子はこの料理が私の手作りだと気がついたらしい。
「いえ。身の回りの事は一通り出来るようにするのが我が家の家訓ですので、その一環で」
なにしろ辺境なので、境で争いが起きれば普通の生活は送れない。どんな環境でも生き延びれるように、サバイバル知識はかなり叩き込まれている。
まあ、この弁当作りは単に私が食べたかっただけなので関係ないけど、とりあえずの言い訳としては及第点だろう。実際、料理もやり続けないと体が覚えてくれないし。
王子はしげしげと私の書いたレシピを見つめ、そしてやがて、私の事を真っ直ぐ見つめてきた。
やめてほしい、そのイベントスチルみたいな顔。
モブだぞ、私はモブだぞ。
「君、生徒会に入ってくれないかな」
「え……」
「このレシピのまとめ方、すごく見やすいし分かりやすい。事務要員として欲しい」
もう一度言わせてほしい。
私はモブだぞ。
モブなのに……あ、パシリにちょうど良さそうだということか。
そうか。
私は前世で事務職だったらしい。生徒会室に積み上げられていた書類を見てなぜか俄然やる気を出してしまい、気づいたら身分差などなんのその、次期宰相だとか、将来絶対に雲の上の存在になるであろう王子の取り巻きたちに書類整理の仕方を徹底的に伝授していた。
「フェルトン、君が入ってから確実に帰宅時間が早まったよ、ありがとう」
「学生の身で残業していたのがそもそもの間違いでは……」
私が入ってから一ヶ月ほどで仕事量が落ち着いてきた為、王子に休憩時間を設けるよう進言し、当然のように受け入れられた。
今はその休憩時間である。
ちなみに、お茶の煎れ方も全員に叩き込んだ。
生徒会の役員は私以外全員男だ。だからといって私が毎回いれるのは嫌だ。身分なんて関係ない。私はこんなキラキライケメンたちに毎回お茶をいれるのは嫌だ。
「君のその能力は、やはり家訓によるものなのだろうか?」
「……このままいくと、いずれ辺境伯を継ぐ身ですので」
家訓とは関係なく前世知識のせいだけど、面倒なので明言せずに答えておく。
生徒会に入ったからと言って、ちょうどよさそうな次男三男を捕まえられる訳ではない。もう父にめちゃくちゃ頑張ってもらうしかない。今度、父には王都で評判の良い胃薬と育毛剤を贈っておこうと思う。
「誰か好い人はいないの?」
という王子がちょっとにやけているのは、自分の可愛い婚約者を思い浮かべているからだ。侯爵令嬢の彼女はどこからみても完璧で、王子はベタ惚れしている。
やめろリア充、巻き込むな。
「居ませんね……いえ、私は選ぶ立場じゃないですし。こんなのでも気にせず来てくれるならどなたでも」
ガタン!
と、椅子を倒す勢いで立ち上がったのは幼い頃から王子の騎士となる事を誓っているという同年男子。甘党の彼はさっきまでハムスターのごとくクッキーを貪っていたのに、今はものすごい険しい顔で私を見下ろしていた。
「フェルトン……だ、誰でも良いなどと……俺でも良いとでも言うつもりか!」
「あ、ダメですね。実家を継がない方でないと。婿に来てもらうのでそこが最低条件です」
「なっ……」
彼はなぜかぶるぶると震えると、部屋を出ていってしまった。
突然どうしたのだろうか。もしかして該当しそうな人がいて連れてきてくれたりするのだろうか。
いや、ないな……あの男に限ってそれはない。真面目だけど、そういう気が利かせられる男ではない。
「フェルトン……君のそういう……はっきり伝えられる所は美点だと常々思うのだけどね」
王子が苦笑いで言う。
これは、男なら良いかもしれないが女性はどうだろう、という言動を私がした時にいつも王子が言うセリフだ。
何か不味かったらしい。
「……ええと、探してきますか?」
「そうしてあげて。はい、クッキー」
餌付けして連れてこいと。貴方もたいがいですよ王子。
私は仕方なく校舎の中を歩き回る。
一体どこまで走っていったのか、あの男が一向に見つからない。いや、時折すれ違う生徒に聞くと間違いなくその道は通っているのに、全然追い付かない。
いっそのこと、ティーセット置いて待ってた方が寄ってこないだろうか。今なら紅茶に角砂糖山盛り入れてやっても良い。早く出て来てくれないだろうか、早く家に帰りたい。
「むしろもう生徒会室に戻っているのでは……」
一周して戻っていてもおかしくはない。そう思って私が踵を返したその時、視界にとてもきらびやかなものが映った。
「アルマ・フェルトン様ですわね」
「……左様でございますが」
立ちはだかる壁……にしてはきらきらしいし儚げだ。
「何かご用でしょうか? エステル・ターナー侯爵令嬢」
このめっちゃくちゃ儚げな美人。
王子殿下の婚約者様である。
とりあえずフルネーム呼ばれたので呼び返してみたけども。
あれ、何だろうこの空気。
やめてほしい。私こんな美人に睨まれるような事をした覚えないし、万が一そんな事になってたら王子に消される(物理的に)。
「わたくし、貴女にお聞きしたい事があるのです。お時間を頂けませんか」
「……かしこまりました」
幸い、すぐ近くの教室が空いている。そちらへ誘うと、彼女は緊張感を漲らせてついてきた。
何だろう、何を告白するつもりなのだこの美人。
「……単刀直入にお聞きします」
「はい」
「殿下に……その、取り入ってどうされるおつもりですか」
「ええと……すみません、身に覚えがないのでお聞きしたいのですが、殿下というのはどちらの殿下でしょう」
「なっ……」
本当に疑問だったので問い返したら、彼女はとてもショックを受けた様子で黙ってしまった。
やめてほしい。あ、待って泣かないで!
貴女に泣かれたら私消されちゃう!(物理)
「えっと……ターナー様は第一王子の婚約者でいらっしゃるので現生徒会長でもあらせられる殿下の事でしょうかね?」
あ、頷いた良かった。
「私は特に殿下に取り入る必要性を感じていませんので、ターナー様は何か誤解をされているようですね」
「ですが……今まで一人もいなかった女性の役員を急に起用され、殿下はとても……楽しそうに……」
「ああ、それは楽しいでしょうねぇ。こう言ってはなんですが、私が入ってから作業効率が上がりましたから」
美人がまたもや泣きそうになっている。
待って! 我慢して!
「ターナー様、殿下は前より帰りが早くなっていませんか? だからターナー様にたくさん会いに行っているでしょう?」
「えっ……なっ……」
なぜそんな事を知っているのかというお顔ですね。
「いつも殿下が仰ってますよ。『早く帰れるようになったから、婚約者と会う時間が増えて毎日楽しい』と。婚約者様から見ても殿下は楽しそうなのですね」
「で、ですが、それでは、貴女は一体……何の為に生徒会に……?」
「それは勿論殿下に誘われたからです。私が入って事務仕事を請け負ったら早く帰れそうだって思って誘ったみたいですよ。まあ、私も実家の手伝いでこういう運営管理の仕事は慣れてますし、私としても良い勉強になっていますから今のところウィンウィンで取引成功ってところでしょうか」
美人から涙が引っ込んだ。よし、もう大丈夫だな。
そろそろ私黙ってもいいかな。いつもよりかなり長文を喋ったからすごく疲れた。
「ごめんなさい、わたくし、てっきり貴女はあの中のどなたかと恋仲になりたいのかと……」
「まさか。私は実家に婿に来てくださる方が欲しいので、後継ぎばかりの生徒会役員は全員対象外です」
そう返すと、彼女は今度こそほっとしたような顔で私を見つめてきた。
あ、なるほど。王子を取られると思って嫉妬したのかこの美人。
無理だろ、私が彼女より優れてる所なんて一つもないのになんでそんな事思っちゃったのこの美人。
本当に美人だな……顔のつくりなんてもう人形みたいに精巧……あ。
「そう言えば以前、殿下があまりに貴女に会いたくなりすぎて仕事を放棄していまして……」
「えっ」
「効率が落ちるくらいなら婚約者様の人形でも作って抱いてたらどうだと冗談を言ったら真に受けたので」
「えっ!?」
「全員で止めました」
「そ、そうなの……良かったわ……」
慌てて青ざめた後、またもやほっとする美人。
どんな顔させても可愛いってすごいな。ずっと見てられる。
「なので、ターナー様。もし宜しければ時折、殿下に差し入れなどして頂けませんか。あるいはお手紙とか。きっとそれだけでやる気が満ち足りるのではないかと」
「そ、そうなのですか……?」
「等身大人形でも良いですけど」
「お菓子にしますわ!」
そんなやりとりの後、ターナー様──エステル様は正式に私と友人になって下さった。
王子が公務で居ない隙を見てお茶する仲だ。私は主に仕事中の王子について暴露話をするだけだが。
まあ楽しそうだから良いのではないかと思う。
ちょうぜつ びじん の ともだち が できた !
嬉しい。
さて。生徒会と婚約者様の件も落ち着いた。
残すはあれである。
騎士の彼ではない。彼はあの後、校庭を走っているところを捕獲して生徒会室に連れ戻した。
で、問題の件。私は本当は放っておきたかったのだけど、風紀委員が泣きついてきたし、まあ、なんというか無関係とも言い難い。
そう。あの、ピンク頭ヒロインの存在だ。
最初の印象があまりに悪かった為、ピンク頭は未だに学園で浮いている。なのに気付かず一生懸命王子を攻略しようとしている。
まあ、毎回護衛に阻まれて、十メートル以内にも近づけてないけど。
とにかく、周りからはただひたすら奇行を繰り返すだけにしか見えないのだ。当然苦情が来る。
最初は気にしていなかった私も、同じ転生者としてあまりに痛い光景でだんだんいたたまれなくなってきた。
という事で。
「ちょっと! なんなの? 一体なんなのよこのモブ女!」
「ええ。その通り私はモブオブモブです宜しくお願いしますね残念ピンクさん」
「ざん……っ!?」
ただ今、ピンク頭を捕らえております。
簡単でした。王子が落としたハンカチを拾おうとしたら上から檻が降ってくる罠でした。
さすがアホの子。
「それで、ストーカー残念ピンクさん」
「増えてる……」
「ええ、増やしますよ変態ストーカー残念ピンクさん」
「地味に増えてる……」
「それは私への挑戦ですか、ええと、変態ストーカー残念ピンク鼻毛出てるよさん」
「え、やだ嘘!」
「嘘です」
慌てて鼻を押さえるピンク頭を眺めやり、私はため息を吐き出す。
ああ、なんて語彙力の無さ。もっと色々心を抉るような形容詞をつけたかったのに。勉強しよう。
「という訳で私は早く帰って勉強したいので用件をお伝えしますね」
「いや、どういう訳なの?」
「王子攻略は無理です」
「は?」
「王子の趣味は、儚げで、追いかけたら顔真っ赤にして逃げちゃうくらいの純粋さを持っている女の子です」
「……」
「その点貴女は肉食の中の肉食。肉食キング。キングオブ肉食。ようは王子の趣味と真逆。あとマナーがない。教養もない。身分もない」
胸も、は特大ブーメランになりかねないので言わずに飲み込む。
「せめてその有り余る肉食感を覆い隠す擬態が出来れば良かったかもしれませんが、いつ何時も目がギラついてるので護衛の方々も貴女を近付けさせないんですよ。つまり演技力もない、と。ないない尽くしですね」
「だって……」
「あまりの肉食オーラのせいで、ヒロイン補正が消え失せたのではと、私は推測しているんですが」
「え、あなた、もしかして転生者なの!?」
今更気づいたのか。あれか、もっとわかりやすく「煌めく夜空とシャンパン○ワー!」とか叫んでやれば良かったのか。やらないけど。パーティーは止めるどころかそもそも始まらないから。
「しがないモブですがね。まあでも辺境伯家直系の女なので、男爵家養子の貴女よりは身分が上です」
「ずるい」
「ずるかねぇわ残念ピンク」
「口悪……っ」
思わず素で話したらピンク頭がドン引いた。もういいや、隠して得になる相手じゃないし。
「補正が効かないんじゃもうどうにもならん。王子は婚約者のエステル様に骨の髄まで惚れ込んでるし、諦めて大人しく他の男漁ってくれ」
「漁りたいわけじゃないわよ!」
「今のところ王子の妾候補にもなってないけど」
「ひどい! せっかく転生したんだからちょっとハーレム経験してみたかっただけなのに!」
「叶わぬ夢だったな」
ピンク頭がうなだれながら檻の中でうずくまる。
ちょっとはこちらの攻撃が効いているらしい。たぶんだけど泣いている気がする。泣き真似かもしれないけど。
「……条件があるわ」
「ほう? この期に及んで? 君はそんな立場じゃないんだが……」
「……に……なって……」
「ん?」
声が小さくて聞き取れなかったので、仕方なく私は檻へと近づく。
「あなたが私と友達になってくれたら全部諦めるからぁ!」
がっしゃんがっしゃんと檻を揺らしながらピンク頭が叫ぶ。
やめなさい、ご飯をねだるゴリラか君は。
「友達? 私と?」
「そ、そうよ!」
「……ドMなの?」
「なんでよ!?」
こうして、私に人生二人目の女友達ができた。
解せぬ。
別視点も書きたいと考えています。
ここまで、お読みいただきありがとうございます。