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黄昏と丑三つ時  作者: 浩幹
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藍色の海月

リハビリがてら一つ書かせていただきました。

 梅雨に入りジメジメとした日々、今日もあいにくの雨だった。

「強い上に変に斜めぶりやから服濡れるんが最悪よなぁ」

 そういって制服に付いた水滴を払っているのは有間邦海ありまくにみ、俺の友人且つ剣道部仲間だ。

 彼の言う通り、今日の雨は横殴りで傘では到底防げるもんじゃあなかった。靴も何もかもびしょ濡れだ、お気に入りだったというのに……。

「七夕祭りがそろそろあるっていうのにな、それまでに終わってくれてたらいいんだけどな……」

「せやな、今年もみんなで行けたらいいんやけどなぁ」

「あ、それなんだけど……」

 そこまで言って激しく後悔した、まあどっちにせよ言わなくてはいけなかったためいいっちゃいいんだが、有間に言うには少しばかりキツイ内容だ。

 せめて……そうだな、一条ならましかもしれない、あいつはきっと興味なさげに一言返事をして終わる……。

「何や?」

 こいつも悪気があってやってるわけではないとは思うがその純粋な眼差しをして人の諸事情には鋭い野郎だからな、色々とめんどくさい。

「今年はみんなと行けねーんだよ」

「なんで?あ、彼女?」

 ファッ……これ以上は言わないでおこう、みんな察しておくれ。

「違う」

「その顔は図星やな。誰や?俺の知ってる人かぁ?」

 ファッキ……危なかった。

 俺はそっぽを向いて、顔を見られない角度に立ってから聞こえるか聞こえないかという声で呟いた。

「俺は藍夏以外の女子を……」

 好きにはならねぇ————そう言おうとしたとき、運悪く、いや運よくバスが来た。

 しかも俺が乗るバスだ、ここで有間とは別れることになる。

「じゃあな」

 有間が何か俺に言っていたが、気にせずバスに乗る。車内は雨の時に起こる満員電車ならぬ満員バスで、せっかく乾き始めた制服が乗車客の開かれた傘によって再び濡れてしまった。

 さらには発車したときの慣性の法則により小さな子供が一人派手に乗客の股の間に転んでしまっていた。泣き叫び、周りからは冷ややかな目で睨まれている……俺が一番見たくない光景だ。

 空いていたのなら迷わずあやすのだが、今は身動きが取れない状況だ、諦めることにする。


 窓から見える空はどんよりと、青色を覆い隠すような灰色だった。



  〇



 人波にもまれる事30分、ようやく家にたどり着いた俺は何もかもを放り出してスマホを開いた。

 とあるサイトを開くと、通知が何件か届いている。その中にお目当ての方が含まれているのを見つけた俺は気持ち悪いくらいににやけてしまった。


 先に訂正しておこう。

 決して彼女ではなく……サイトで出会った一人の女子高校生である。別に告白していないし、なんなら元カノより俺の趣味を知っていると思う。

 今から約2か月前、バンドファン仲間を探していると偶然知り合った子で、推しから何まで気が合うので毎日のように喋っていたのだ。

 そして最近家が近くだということが発覚したので……オフ会の約束をしたのだ。七夕祭りを一緒に回ろう、と。

 ちなみに、学校に行く前に彼女にどんな服装で行くのか聞いていた。


 そして、彼女からは、『浴衣で行くよ!』と来ていた……。



  〇



 一方、一人バス停に残された邦海は、わざとらしげに視線の右を睨むと、ブツブツと独り言を言い始めた。

「俺やって彼女欲しいし……佐久間欲しいし……」

「へぇ、そうなのか」

 急に声がしたので後ろを向くと、俊太が興味深げにこちらを見てきていた。

「あ、いやその……」

 邦海は慌てて無かったことにしようとしたが、俊太は意地悪な笑みを浮かべてスマホを操作し始めた。


 これは、男子全員に邦海の好きな人がバレた瞬間であった————。



  〇



 七夕祭り当日。

 流石に浴衣を着ることは出来なかったため、お気に入りの服を着て家族に悟られないように装いながら出かけた。

 空は濃い紺色をしている、最高の天気だ。

 待ち合わせ場所は会場内にある稲荷神社の境内、時間はまだあるが、どうせなら先にりんご飴とか買って食べておきたい。


 去年も一昨年もその前も行ったことはあるので、どこに何があるかは大体把握しているはずだったのだが……

「こりゃ完全に迷ったな」

 歩き回りすぎて神社が分からなくなってしまった、海月、一生の不覚。

 とりあえず路上に置いてあるであろう地図を探すも人ごみのせいで分からない。

 せめて知っている人でもいたらいいんだけどな、まあいないだろうと……いや、待てよ。確か有間達がいたはず、最悪の場合は頼るとしよう。


 恥も何もかも捨ててそう決意したその時、誰かに服を引っ張られる感覚がした。しかも凄い力だ、全く逆らえないまま引きずられて、気が付いたら境内にいた。

「はへっ!?」

 慌てて周りを見渡すと、一人のお面を持った同じ年位の女子が立っていた。

 しかもどこかで見たような……見てないような……。

「あっ」

 何かに気づいたその子は、慌ててお面を被って右を向いた。どうやら顔を見られたくないらしい。

「あ、ごめん……そしてありがとう、よくわかったね」

 本当によくわかったと思う。今まで顔は見せてないし、特徴とかも特には言っていない。

 なのに、何故……。

 無意識にまじまじと見つめていたようで、彼女は初めこそはキョトンとした様子だったが、次第に恥ずかしがるようにもじもじとし始め、最後は睨まれている気がした。あくまでも予想ではあるが。

「行かないの?楽しみだったんだけど……」

 その不満そうな声を聴いた俺はすぐに彼女の手を引くと、祭りの中に引き連れた。

 人ごみにもまれるも決して手は離さず、特に行く当てもなく歩いていく。

 暫くすると広いところに出たので、彼女に待っててもらい、来る途中で見つけた屋店で色々と買う、本当に色々と。

「ごめん、待たせた!」

「いいよ、何も言ってないのに欲しいやつ買ってきてくれてありがとうね」

 そういうと彼女は俺の手から綿あめを受け取り、お面の口当たりを少し上げて食べると手を軽く振った。感動したときの振り方だ。

 俺も一口りんご飴を舐める。さっきは買えなかったからついでに買ってきた、旨い。

「次何する?」

 いつの間にか食べ終わっていた彼女は俺の方をじーっと見つめながら聞いてきた。

「どこがいい?」

「どこでもいいよ」

 そういって彼女は上を向くが、明かりにかき消されて星は見えていない。少し残念そうな顔をして再びこちらを向いた。

「本当に、君の好きな所でいいよ」

 興味がなさそうに言って、俺の手を持つ。俺の好きにしろってことなんだろうか、よく分からない。

「分かった、俺の好きなことをする」



 その後、俺たちは射的とか、金魚すくいとか、見つけたところすべて遊びまくった。景品などを取って彼女に渡すと、彼女は無邪気にはしゃいでくれるので調子に乗ってやりまくって……を繰り返していると、気づいたら夜10時を過ぎており、屋台が閉まり始めていた。

「変えるの遅くなっちゃうな、ごめんよ」

「いいよ、楽しかったし」

 家に帰る途中、俺がそう謝ると、彼女は笑って許してくれた。それはいいんだが……さっきから葛藤にさいなまれていた。


 ————顔が見たい。


 神社の所で会った時から、一回も顔を見ていない。初めはちらっと見えたけども……。

「なあ」

「ん?」

 俺が急に立ち止まると、彼女は不思議そうに顔を傾げてこちらを向いた。

「……お面を外してくれねぇか?」

 いざ言うとなると何て言えばいいのか分からず、ストレートなのかオブラードを包んでいるのかよくわからない表現になってしまった。

「え、やだ」

 案の定というかなんというか、きっぱりと断られてしまう。


 ここで諦めればいいのに、彼女の言い方に少しイラっと来た俺は、顔を上げると彼女の方へ歩いていく。


 そして、お面を————


「……え?」

「だ、だから嫌だって言ったのに」

 彼女は、元カノの藍夏によく似ていた……というか本人だった。何故声で分からなかったのだろうか、別に女子は声変わりなんかしないし……。

「藍夏……あれ、お前名古屋に言ってたんじゃなかったっけ」

「家出して帰ってきたのよ」

 さらっと凄いことを言う。家出?金は?情報量が多すぎて混乱してしまう。

「え?」

「フリーズしすぎでしょ」

 藍夏は堪え切れないといった風に笑っている。冷静にいられるそっちが凄いと思うのは俺だけなんだろうか。

「じゃあ、今どこに住んでんだ?」

「街外れのアパートよ、住めば都って感じで案外いいわよ」

「そっか……」

 それだったらいっそのこと俺ん家に、と言おうとしたが、きっと親が許さないな。

 それに、その前に言っておかないといけないことがある、藍夏が親を気にしていないのなら尚更。

「なあ、藍夏」

 無意識にまた歩み始めていた足をもう一度止め、俺は藍夏の両肩を掴んだ。

「なぁに、クラゲ」

 藍夏は天使のような顔をして俺の方を向く、ヤバい可愛い。

「あ、あのさ……」

 俺はまだ藍夏のことが好きで、今日の七夕祭りが楽しかったこと、そしてもしよければもう一度付き合ってくれないか、という旨をしどろもどろになりながらも伝える。

 藍夏はそんな俺をじっと見つめると、顔を真っ赤になりながらも答えてくれた。

「私も好きよ、海月」



  〇



「へぇ~~……」

 次の朝。事の一連を有間に話すと、彼は気持ち悪いくらいにニヤニヤしてきた。

 そういや有間の好きな人がLANEでバラされていたのだが大丈夫だったのだろうか。

「それで?結局藍夏さんはどうしたんだ?」

「俺自身が一人暮らしすることになってよ、そこに一緒に住むってさ」

「てか学校は?」

「中卒でいいらしい。バイト見つけては金稼ぐって息巻いてた」

 個人的には帰ってきたときにいてほしいんだけどな。

「そっかそっかぁ」

 さっきから有間が含み笑いをしてはくるくると回っている、こいつもしかしてどこかに頭をぶつけたのだろうか。

「織姫様と彦星様ってか?良かったなぁ……」


 ……そういう事か。

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