Doppelgänger
…ここはどこだろう。
誠介はあたりを見渡す。しかし、周りは靄がかかったように何も見えない。
下はレンガ敷きの道路、上はこれまた靄がかかっている。
…俺はさっきまで何をしていた?
不思議なことに記憶にまで靄がかかったようにぼんやりとしか思い出せない。
靄だらけだ。しかし不思議と心地はよい。
…歩くか。
ここに突っ立っているのもいいのだが、少し前に進んでみたい気もする…そんな好奇心から、誠介は一歩ずつ前へと進んでいった。
どっちが前でどっちが後ろだなんて全く分からない。進んだ先に何があるかも。
そんな恐怖と格闘しながらも前に進んでいく、いや後ろに戻っていく。
この道は一体どこに繋がっているのだろうか、はたまた何県何市何丁目何番地の所なのだろうか。
いやそもそもここは日本なんだろうか、ヨーロッパ、いやアメリカかもしれない。
それに、太陽が見えない。
靄がかかっているとはいえ、あんなに強い光であれば空の一部分が明るくなるはずだ。なのにそれもない。
暗くもなく、明るくもない。
寒くなければ、暑くもない。
…ホント、不思議なところだよな。
しばらく歩いているが、何も見えてこなければ誰とも会わない。
何かに近づいて行っている気がするというのに。
それに、何だかさっきから体が浮きそうでたまらない。
でも浮けない。
なんだかここは本当に地球なのかが怪しくなってきた。
走ってみようか、いや体力温存のために歩くままにするか…唐突な葛藤に際悩まれながらも歩き続ける。
この先に何かがあることを信じて。
…あれなんだ?
突然前に現れた大きな城を見て、誠介は愕然とした。
真っ白な城。言うなれば西洋の白鷺城だろうか。
これまた大きな門は、入ってくれと言わんばかりに全開だ。周りに護衛がいる気配はしない、人の、いや生物の気配は全くない。
…誰もいないんだろうか。
なら入ってみるのもいいかもしれない、いや誰もいないからこそ警戒して入らない方がいいのかもしれない。
…けどさ。
入ってみたいよな、と。誠介はゆっくりと中に入っていく。
子供の性だよ、全く。
何が起こってももう知らない。死んだってボクは助けてやらない。
そんなボクの心中を察したのか察していないのか、誠介は手当たり次第に部屋の中に入っては物色していく。
はたから見れば泥棒じゃぁないか、人が来たらどうするんだい。
…人がいるとは思えねぇからな。
そうかい、ならいいんだけどね。
一階には何もなかったのか、端にあったらせん階段を登っていった。
大きな城に相応しい大きな階段。
一、二、三……全部で十三段、どうやらここはヨーロッパではなさそうだ。
二階に上がって、また同じことをしていく。でもどうせ何もないんだろうけど。
…綺麗な所だな。
そういやさっきから塵一つない。誰も住んでいなければ埃がかぶっているだろうに。
もしかすると、ここには誰かいるのかもね。
結局二階にも何もなかった。
らせん階段はまだ続いている。けど…これで最後の様だね。
着いたのは城には相応しくないコンクリートで出来た屋上。
柵は、ない。
…相変わらずの靄だな。
城の中はそうでもなかったが、外はやっぱり白色に染まっている。
柵がないから下手すると落ちちゃう、けどボクは助けないって決めたからね?
前に進むならそうぞ進んでくださいな。
…そうするよ、誰かさん。
誰か、ねぇ。
まあそっちからしたら誰かさんか。
ボクからしたら急に潜り込んできたボクなんだけどね。
何を言っているのか分からない?まあそうだろうね。
誰かが情けをかけたのだろう、急に視界が開けた。
先にあるのは、黒い何か。
…何だあれ。
これに関してはボクも分からないや。誠介をここに連れ出した者が連れ戻しに来たのかもね。
またまた何を言っているのか分からないってさ、言われてもこっちからしたらそれが常識なんだ。
さあ行きなよ。
元に戻りな。
君はここにいていい生物じゃない。
こんなところにいたら死んでしまうよ。
…分かったよ。
分かったのならそれでいいさ。
それじゃあまたね、また…。
「ねえ、一つ言ってもいいかい?」
誠介は少し驚いた顔をした。
「…何?」
少し身構えつつも、敵意は見せていない。
「happybirthday。」
「ああ…ありがとうな。」
少し微笑んで、誠介は黒い闇に飲み込まれていった。
君とまた会えるのはいつだろうか。
できれば何十年後がいいな。
ボクはもう、暫くは君とは会いたくないからね。
君だってそうだろう?
この話の意味を完全に理解できたあなたはきっと神様なんでしょう。
だって俺でさえ分かんないんだから。
書きたかったことはただ一つ。
誕生日おめでとう