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苦手な方はご注意ください。

妖桃奇譚―あやかしとうきたん― 第三章(声劇用台本3:2:1/最少人数2:1:1)

作者: 二階堂史城

声劇用台本(分)



※演者さんの性別は問いませんが、キャラクターの性転換は不可。

【登場人物】


≪人間≫


志弦[しづる]♂18歳。桃花(とうか)警護隊(けいごたい)・二番隊隊長。

       真面目で、感情が表に出るタイプではない。

       仁の考えている事が理解できず、多少仁に冷たい部分がある。


仁[じん]♂21歳。桃花警護隊・三番隊隊長。

     いつもへらへらしていて、どこか考えが読めないところがある。

     冗談で志弦達に手合わせをけしかけてくる節がある。


凛音[りんね]♀20歳。桃花警護隊・一番隊隊長。

       狐の半妖。その力と技で地位を確立させた。

       人の前では強がっているが、根は普通の女の子。



たえ♀16歳。縁の元恋人。志左衛門の妹。※絲と兼役。


志左衛門[しざえもん]♂20歳。志弦の先祖。たえの兄。

           男性のみが神通力を使える家系の次期当主。

           並外れた神通力の持ち主として、その名を知らない者はいない。※志弦と兼役。




≪妖怪≫


絲[いと]♀雪女。半妖。見た目10代半ば。

     天真爛漫な少女。


縁[えにし]♂大天狗。見た目30後半。

      妖怪の長。人間を憎んでいる。

      過去に人間と何かあった様子。




--------------


<役表>3:2:1

志弦/志左衛門♂

仁♂

凛音♀

絲/たえ♀

縁♂

N:




--------------




<役表>2:1:1(最少人数)

志弦/志左衛門♂

仁♂/縁♂

凛音/絲/たえ♀

N:





=======================================



【あらすじ】


人間の住む桃源郷―――桃花街(とうかがい)と、妖怪の棲む(いにしえ)の森。

彼らは棲み分けることで「表面上」は平穏と安寧を手にしていた。

…が、一部の妖怪は悪事を企て、人間に害なす存在として、忌み嫌われていた。

志弦、仁、凛音の三人は、そんな輩を制裁する為に作られた桃花警護隊に属し、日々修練に励んでいた。


志弦は5年前、川で溺れたところを絲に助けられたが、縁に殺されかけ、

故の妖力によって桃花街へと帰る事となる。

しかし、志弦が生きている事は古の森に棲む妖怪達は知る由もなかった。





=======================================






【伍】




N:―――数百年前。

  縁は(いにしえ)の森の入口で恋人との逢瀬を重ねていた。

  今宵も新月の暗闇に紛れて恋人・たえが来るのを待っていた。


たえ:お待たせ!縁!


縁:…今日はもう来ないかと思ったぞ。


たえ:ごめんごめん!家の手伝いが終わらなくて……、っ?!縁…?


縁:たえ…、俺の側に居てくれ…。


たえ:いきなりどうしたの?縁らしくないなぁ。

   …いいよ。私も縁と一緒に居たいから。


縁:たえ…。


縁M:あの時は幸せだった。―――なのに。



たえ:やめてぇえええええ!!


縁:…た、え……?

  たえ!!たえええええ!!


N:縁を庇い、神通力の刃をその身に受けたたえの身体がゆらりと傾く。

  縁は腕を伸ばし、倒れるたえを抱き留めた。

  その身から流れる大量の(くれない)が、縁の身体と地面を濡らしていく。


縁:たえ…たえ…っ、目を開けろ…、たえ…っ。


たえ:え…、に…し……?


縁:!!

  たえ!!しっかりしろ!!たえ!!


たえ:……あ、なた…に…、出会え…て……、よか………。


縁:たえ…?たええええええっ!!

  う…うぅ…っ。


  (間)


  ……………、おのれ…おのれ…っ、妖怪だけでは飽き足らず…っ、実の妹まで手に掛けるか…っ、

  赦さん…、赦さんぞ……っ。


N:怒りよりも、愛する者を失った悲しみに打ち震え、泣きながら縁は羽団扇を手に立ち上がった。

  武器を持つ人間達を先導する男―――朱桃(しゅとう)志左衛門へと向き直る。


志左衛門:………実の妹を手に掛けた辛さが…お前に分かるか…?

     妹をたぶらかした罪は重い…、覚悟しろ!!!


縁:覚悟するのは…、貴様だ!!!



N:死闘の末、縁は志左衛門に勝てず、二百年間封印される事となった。

  たえを失った悲しみと、志左衛門への復讐の怒りと共に。



◇◆◇



絲:…しさま、…にしさま…?


縁:……たえ……たえ…。


絲:縁様!!


縁:……た、え…?

  …!!絲か…。何故ここに()る?


絲:縁様…?どうして泣いて―――


縁:…何でもない。お前には関わりのない事だ。

  時に、今は何時(なんどき)か?


絲:(うし)(こく)です。


縁:そうか。少し出掛けてくる。


絲:えっ、今からですか?


縁:朝までには戻る。それまで、留守を頼んだぞ。


N:縁は優しく絲の頭を撫でた。


絲:え…?


縁:…ごほんっ。ではな。






【陸】




N:桃花街―――志弦、仁、凛音の三人は行きつけの飯屋に来ていた。


仁:そういやぁ、何で二人は警護隊に入ったんだ?


凛音:…いきなりね。どうしたの?急に。


仁:あ?何となくだよ何となく。酒のつまみになるかと思ってよ。

  で?凛音総隊長は?


凛音:私?私はね…、母さんを守りたかったの。


仁:母親を?


凛音:……うん。


N:俯く凛音の表情は笑ってはいたものの、複雑な心境を表していた。

  一瞬の静寂が走る。


凛音:……あ、ご、ごめんね!なんか辛気臭くなっちゃったね!


志弦:俺も仁も無理に聞こうとは思ってない。凛音が話したくなったら話せばいい。


凛音:…うん。ありがと。


仁:そうそう。人間生きてりゃあ、それなりにいろいろあるもんよ。

  そんで?志弦は何で隊に入ったんだ?


志弦:俺は……。


仁:ん?


志弦:………分からない。


仁:へ…?自分の事なのに分からねぇのかよ?


志弦:何か、大事なものを守りたくて…。

   勿論親や妹もそうだけど…、多分、違う…。

   でも…それが誰なのか思い出せないんだ。考える度に頭痛がして、考えられなくなる…。


仁:…そういやぁ、志弦は昔の記憶ないんだったよな?


志弦:ああ…。けど、夢はよく見るんだ。


凛音:夢…?


志弦:白い髪の少女が、俺に笑いかけてくる夢…。


仁:白い髪…?

  それって…、まさか妖怪なんじゃねぇのか?!


志弦:分からない…。


仁:分かんねぇったって…なぁ?!


凛音:白い髪でしょ?可能性は十分あるわね…。心当たりないの?


志弦:…無い、訳じゃない。

   俺の過去に、何か関わりがあるのかも知れな…っ、うっ!!


凛音:えっ?!ちょっと!!志弦?!


志弦:う…っ、うぁあああ…っ!!


仁:志弦?!

  こりゃあやべぇぞ…!おやっさん!!ちょっと手伝ってくれ!!


N:仁は自分の肩に志弦の腕を掛けた。

  店主と共に志弦の身体を持ち上げようとするも、志弦は呼吸もままならない状態だった。


凛音:志弦!!


仁:しっかりしろ!!もう少しで楽になるからな!!


N:志弦は仁と店主に引き摺られるように、店から程近い療養所に運ばれる事となった。






【漆】




???(絲):―――(げん)…、いい名前だね!


志弦M:―――ああ、またこの夢だ…。


???(絲):弦!弦!えへへっ。


志弦M:―――この娘は、誰なんだ…?

    何故、俺を弦と呼ぶんだ…?


???(絲):弦…、弦…!!嫌ぁあああああ!!




志弦:―――ッ!!


凛音:志弦!…大丈夫?凄いうなされてたから、心配したのよ?


志弦:凛音…。う…っ!


凛音:寝てなさい。今先生呼んでくるから。


志弦:いい…大丈夫だ。俺はどれくらい寝てたんだ…?


凛音:…半日よ。今はもう朝。


志弦:半日?!

   妖怪の動きは…、街は大丈夫なのか?!


凛音:……志弦、動ける?詳しくは詰所で話すわ。






【捌】




志弦:月明村(つきあけむら)…?


凛音:ここから3つ山を越えた所に村があるでしょ?あそこよ。


仁:ああ。そこが雪女にやられたんだと。

  そんで、何年か前に雪女が来てたっつー話で街中大騒ぎよ。


凛音:志弦も見てきたから分かると思うけど…、

   みんないきり立って、何をしでかすか分からないって雰囲気よね…。


志弦:そうだな…。


仁:話を続けるぜ?

  まずあの森には知っての通り、妖怪の長である縁がいる。

  その縁が、月明村を襲った雪女を(かくま)ってる、って話なんだよ。


N:縁、という名を聞いた志弦の頭が僅かに痛む。

  その違和感に、志弦は眉を(ひそ)めた。


凛音:縁…、厄介ね…。


仁:作戦はどうする?


凛音:そうね…、三番隊は月明村、一番隊の隠密は古の森で情報の裏を取って来る。

   二番隊は街の鎮静化。

   これでどう?


仁:隠密なら俺の隊にも居る。わざわざ一番隊から出さなくてもいいだろ。


凛音:馬鹿ね。もしかしたら縁と対峙するかも知れないのよ?

   そうなったら、うまく逃げ切らなきゃならない。分かる?


仁:うちの隊のは俺に似て、口が上手いし足が速いのが揃ってる。

  縁を巻くならうちの方が適任だ。


凛音:…そうね。分かったわ。

   一番隊が月明村へ、三番隊の隠密が森へ向かう事にしましょ。

   二番隊は変わらず街の沈静化頼んだわね。…志弦?


志弦:…あ、悪い。何でもない。

   沈静化だよな?分かった。


凛音:それじゃあ各隊、作戦を進めて。進展があったら私に報告するように。以上!



◇◆◇



凛音:隠密からの情報よ。

   確かに月明村は雪女に襲われていた。そして、縁の所に雪女の少女は居たわ。


仁:マジかよ…。

  そんじゃ…、森に攻め込んでそいつを始末するしかねぇだろ。


凛音:そんな事したら、縁の逆鱗に触れるわ…!

   そもそも、その雪女を始末するのだって、縁は黙ってはいない…そう思わない?


仁:だったらどうすんだ?!このまま指咥えて見てろなんて言うんじゃねぇだろな?!


志弦:…俺に考えがある。


凛音:志弦…?


志弦:俺が隠密の匂い隠しを使って、一人で森へ入る。

   そして、その雪女をおびき出す。


仁:はぁっ?!んな危ねぇ事させられる訳ねぇだろ!!

  一人でだなんて無茶にも程がある!!


凛音:そうよ!!死ぬかも知れないのよ?!


志弦:一個隊で攻め込めば、縁の眼には俺達が攻め込んできたように映ってしまう。

   それだけは皆避けたい筈だ。


凛音:確かにそうだけど……、だったら隠密を使えば―――


志弦:確かに隠密を使えば簡単だ。けど…、白い髪の少女の夢がどうしても気になるんだ。

   俺の過去と繋がりが有るかも知れない…。だから、この目で確かめたい。

   俺が森から出てくるまで、皆は近くで待機していてくれ。


仁:だからって森ん中に一人でなんて行かせられるか!!

  …行くなら俺が行く。


凛音:仁さん…?


仁:昨日の志弦の頭痛…、ありゃあ間違いなく志弦の夢に出て来る白い髪の少女が関係してる。

  先遣隊の情報に依りゃあ、その雪女の髪は白って話だ。

  …お前、また頭痛が起きたらどうするつもりだ?


志弦:頭痛が起きない確証はない…。けど、どうしても確かめたいんだ。


仁:駄目だ!!


志弦:仁…分かってくれ。


仁:分かるかよ…!!お前は…大切な仲間なんだ!!


志弦:仁…。


凛音:仁さん…。


仁:…お前らよぉ、この俺が無駄死にするとでも思ってんのかぁ?

  縁に殺られる前に、その雪女をおびき出してやるさ。


凛音:…行かせられない。仁さんも私達にとって大切な仲間なの!!


仁:俺なら大丈夫だ。何があろうと任務は全うする。俺を信じろって。


凛音:行かせられないったら行かせられない!!無駄死にするかも知れないのよ?!


志弦:……分かった。


凛音:志弦…?


志弦:仁は殺されたって死なないくらい肝が据わってる男だから。

   俺は、仁を信じるよ。


仁:おっ!お前、初めて俺の事認めてくれたな!!

  それだけで俺ぁ心置きなく縁の懐に突っ込んでいけるわ。

  …ほら、凛音総隊長!いつまでも迷ってねぇでシャキッとしろ!


凛音:…っ。


仁:凛音!


凛音:………っ!

   三番隊隊長・九十九(つくも)仁。これより貴官に命ずる。

   諸悪の根源である雪女をおびき出し、必ずや生きて帰ってくる事!以上…!!


仁:三番隊隊長・九十九仁。その任、全うする事を此処に誓う。

  …待っててくれ。凛音。志弦。


志弦:仁…、無事に帰って来いよ。


凛音:何かあったらちゃんと狼煙を上げて。必ず助けに行くから…!


仁:ああ。頼りにしてんぜ?俺の大切な仲間達!


志弦M:その夜、仁は森へと向けて一人旅立っていった。

    それ以降、仁の姿は…跡形もなく消えた。




【玖】



仁:すんませーん。また呼び出しちまって。

  まぁ、どうぞ。好物の蜂蜜っす。


N:丑の刻。古の森から程近い川辺の木の下で、仁はへらへらと笑いながら小さな壺を縁に手渡した。


縁:ふん。お前でなければ来ぬわ。

  して…、話とは?


仁:こりゃぁ噂なんすけどね…、こっから大分離れた所にある村が最近雪女にやられたらしいんすよ。

  ま、どうせ人間の仕業でしょうがね。

  それで、旦那のとこに雪女の子、いましたよね?

  今、人間達がその子を殺そうと躍起になってるんすよ。


縁:…なに?


仁:こりゃあ放っておけねぇと思って、旦那の耳に入れとかにゃあと。


縁:俺が封印から解かれてから早数十年…、人間との和解が成立したとはいえ、

  今になってこんな形で再び攻め込もう等とは、本当に人間とは愚かなものよ…!!


仁:俺も一応隊員なんで止めるようには動いてんすけど…、あの女がどうしても、って聞かなくて。

  最悪、全面戦争になるかもしれないっつーのだけは覚悟しといてくだせぇ。


縁:……、仁よ、裏切るでないぞ。


仁:まさか。俺は人間が大ッッッ嫌いなんで。





―続く―

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。



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