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またもや遭遇と会話


「見たところ人間か」


 引きつった笑顔で振り返った俺に対して、今なお刃を押し付けてくる騎士が放った一言は、いたく冷たいものだった。

 兜のせいで顔は見えないが声色からして性別は男のようだ。


「他の何に見えますか?」

「軽口を叩くな」


 言葉を強調するかの如く、さらに剣の刃を押し付けられる。

 なんと言う理不尽、軽いジョークなのに、トークスキルがゼロなのか。

 むっ、と唇を噛み押し黙った俺に再度尋ねてくる。


「もう一度聞く、お前は何者だ」

「遭難者です」


 お望み通り正直に答える。

 しかしその答えでは納得がいかなかったらしい。


「嘘をつけ」


 きっぱり即答されてつい、嘘じゃないです、とでも言おうと思ったが堪えて押し黙る。

 騎士は強めに言葉を重ねる。


「魔鋼の森に通りすがりがいるわけがなかろう、どこの国の者だ、目的はなんだ」


 食い気味に詰問される。

 なるほど、魔鋼の森は危険地帯なのか。

(それなら真実を語っても話して信じてもらえるのか……)と思ったのもあり、一瞬尻込んだが


「日本から来ました、安全なとこに帰りたいです」


 とこれまた正直に話した。


「ふざけるな!!」


 大声で怒鳴られた。


「この魔鋼の森で遭難し、安全なとこに帰りたいだと!!ふざけるのも大概にしろ!!それにニホン?そんな国聞いたことも無い!嘘をつくにしてももっとマトモな嘘をつけ!人をおちょくりやがって!!」


 めちゃくちゃマジギレされた。

 まぁそうなるだろうなぁ、と思っていたので声量にビックリしたが内容に驚きはなかった。

 

(ここ異世界だし。俺でもそう思うわなぁ)


しかし事実は事実なので


「そう言われても……」


 と困惑してしまった。ぶっちゃけ疲労困憊でもう頭が回らない。

 下手な嘘で殺されたくないと正直に話したが逆効果だったようだ。

 とりあえず手が滑って殺されないように宥めたいのだが、どうしたらいいのか分からず、もうどうにでもなーれと思っていると


「どうしたどうした」

「大声出して何があった」

「誰かいたのか」


 とわらわらと騎士達が集まってきた。――武器を構えながら。

 1人だけなら隙を見て逃げ出せるかとも考えていたがこれは無理だ。


(てか、こんなに生きてたのか。大型の動物の集団と完全に引き分けるのか)


 そして彼らの戦闘能力に舌を巻く。さっきまでその中の1匹と特能ありきとはいえ、命かながらのチェイスをしたのだから、純粋にその7倍を相手取ったことに尊敬の念すら抱く。


「コイツ、ココで通りすがりとか言うんだ。ふざけてるだろ!」


 と集まってきた仲間達に憤慨しながらも説明する。

 仲間達に「えぇ……」と言わんばかりの動揺が広がる。すると1人が


「あっコイツ、さっき見たぞ。木の上にいた奴だ!!」


 (なんて余計な事を……)と心の中で舌打ちする。

 一瞬だったからバレてないと思ったが、俺は彼らにとって異世界の服装なのでやはり印象に残ったようだ。

 「そういえば」「あの情けない声の」と口々に呟き、更にざわめく騎士達、冷たくなる視線。

 首筋に向けられた剣がキラリと光る。もう限界だ。両手上げるのも疲れた。


「か、勘弁してください……俺はリュックを取りに来ただけなんです……」


 と泣き言を漏らす。

 だが、このコメントから堰を切ったように


「リュックとはなんだ!!」

「兵器の名称か!!」

「やはり目的があったんだな!!」

「アイツらをけしかけたのもお前か!!」


 と非難轟々。

 だけでは収まらず、向けられる剣が増える。

 うーん、リンチである。泣きそう。

 と既に半泣き状態なのだがひとつ閃いた。


(もしかして射程圏内なので剣にもムスコを生やせるのでは?)


 このままでは埒が明かないし、めっちゃ罵られるし、モノは試しだ、と勇気を振り絞る。

 心の中で作戦会議、特能を使ったらダッシュ!作戦は以上だ。


「よし……」


 小さく呟き、息を吸う。決して失敗はできない。リュックは諦めよう。今日はなんて1日だ。

 と軽くうんざりしつつ、俺に向けられた剣全ての刃の部分からにムスコが生えるように念じた。

 結果は――


「うわぁ!」


 と悲鳴を上げ、剣を落とす。予想通りだ。

 仮に落とさなかったとしても刃の部分から上に向けてびっしり生えたので、モノを切ることも刺すことも不可能だろう。

 摩訶不思議な現象に狼狽え、全員の注意が剣に注がれる。


「今だ!!」


 やってきた千載一遇のチャンス!

 俺は脱兎のごとく走り出す、が


「おっと、動くな」


 という声と共に飛んできた斬撃。切り裂かれる目の前の地面。

 さっきも似たようなのを逃げてきたのでわかる。

 これは当たったら死ぬ。そしてこれは警告。

 さらに発射方向を見ると兜を被っていない一人の騎士が鞘に剣を収め構えなおしていた。

 再発射は可能ということだろう。もちろん特能の射程圏外だ。


「あっ、ハイ」


 ということで俺は素直に諦め、その場に正座した。







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