逃走と闘争
こうして成長した特能で必死に逃げている時、視界の片隅に変なモノを発見した。
白ライオンさんを上手く巻けたかどうかはよく分からないが、どうしても気になり、俺はそれの後方に回り込んでみた。
黒いローブを頭にまで被った奴が、太い木の枝の上に立ち、どこかを見つめているようだ。
視線の先を追ってみると、そこには騎士とライオンの戦場があった。
そして幸いな事にこちらには気付いていない様子。
(メチャ怪しいじゃん)
奴と隣接した木にそっと捕まり見張る。
どうやら戦いの観戦に夢中になっているらしい。
何を言っているのかは分からないが、ブツブツ呟く声が聞こえる。
(スポーツ観戦気分か)
後ろからなので良くは分からないが、手に何かを持っているようでそれにひたすら話しかけている模様。
それにあまりに集中しているのか俺が近づいた時に多少物音を立てたと思うのだが、全くバレてないようだ。
(携帯……じゃないよな、多分通信機?)
遠距離で支援する騎士の仲間なのかと考えたが、それにしては離れすぎだし装備品の趣味嗜好というか雰囲気が彼等とは真反対だと思う。
騎士たちのはもっと正規兵の物のようで、奴のはならず者の傭兵のような出で立ちだ。
一瞬、この森で死んだ幽霊の類かゴースト系モンスターかもと疑ったのだが、足はしっかりあったのでそういう種族という訳ではなさそうだ。
一安心。しかし、状況から考えると俺と同じく偶然にこの場に居合わせたパターンではないだろう。
(つまりは何かの意図があってこの場にいるに違いない)
個人的には話しかけてみるのも吝かではないのだが、如何せん怪しすぎる。
ここでまた襲われても困る。
(どうしたもんかね……)
と言いつつも特能を使い、そっとその場を離れようとする。
興味本位で近づいてみたものの、触らぬ神に祟りなし。あと、正直またやらかしかねない。
だが例によって離脱は上手くはいかなかった。
突如、俺の捕まっていた木にぶち当たる衝撃。
さっきから音沙汰ないので巻いただろうと思ってた白ライオンに補足されていたのだ。
しかもすぐに隠れたのか全く姿形が見当たらない。
今度は一発でへし折れる木。そしてわかったのだが今までの3発ともわざと外されていたらしく、奴は俺を生け捕りか自分の手で葬るつもりらしい。
「俺、狩られてるじゃーーーーん!!」
そう叫びながら飛び移ったのはまさかの黒ローブの奴が乗っている木の上。
叫んじゃったし、そもそも爆音がしたのでバレないわけがなく、仰いだ奴と目と目が合う。
口周りに無精ひげを生やした30代くらいの男だ。
「ど、どうもー」
はにかみながら話しかける。とにかく挨拶は大事、良い印象を与えて損はない。
「チッ!」
残念ながら、第一印象は最悪のようだ。露骨な舌打ちにちょっと凹む。
さらに、俺が木をへし折ったと勘違いしたのか、俺を睨みつけ、懐からボーガンを取り出した。
そして言葉を発することなく狙いを定めてくる。木の上で瞬時のことなので凄いバランス感覚だ。
初めて向けられた人間による明確な殺意だった。
やむおえず、黒ローブのボーガンが発射される前に俺はちょっと躊躇ったが特能を使用した。
奴の右足の下からムスコを勢いよく生やす。
「う、うわあああああああああああああ…………」
全く予想だにしなかったのであろう足場の変化にバランスを崩し、悲鳴を上げながら転落していった。
木の下を覗いてみると、打ちどころが悪かったのか奴はのびていた。
正直あまりいい気持ちはしなかったが、奴はこっちを殺す気満々だったので、正当防衛と割り切る。
ついでにライオンの囮になってくれると嬉しい。
なんて考えてるとまた木が爆裂したので急いで逃げる。
「なんだよ……俺以外は無視かよ」
残念ながらターゲット変わらなかったようだ。
今度はエネルギーを溜め込んだのか何発も飛来する。
ムスコは生やす木に依存するので飛び移る前に切断されないように大慌てだ。
「こうなれば、申し訳ないがあの騎士さんたちに押し付けるか」
いいかげん疲れてきて、そんな考えが過る。もう押し付けて逃げろと。
思い立ったが吉日、俺は元居た方向を目指す。
実は最初に上った木の根元にリュックを置いてきたのでそれも回収したかったし。
「手間が省けたな」
後方から襲い来る衝撃波と追いかけっこしながらひたすら逃げる。
距離はできているはずなのだが、一向に衝撃波は止まない。
ぼちぼち元の場所かなー、と思っていると先頭からこちらにやってくる軍勢が。
「ゲッ!ライオンさん!」
騎士たちとの戦闘に勝利したのであろう7匹のライオン達がこちらに向かってやってきていた。
しかし彼らも無傷とはいかなかったようで、足を引きずっている手負いのライオンに合わせて動いており、全体のスピードは比較的遅い。
だがそれはそれ、後ろからブンブン衝撃波を飛ばしてくるアイツのことを考えると、手負いだろうが全員でかかれば俺なんて一瞬だろう。
「ちくしょう!!」
俺はここまででもう疲労困憊の身体に鞭を打ち、可能な限り速度を上げる。
気づかれてもいいから、とにかく通り過ぎるのだ。
手を滑らせないように、繊細かつ大胆なアクションを繰り返す。
一番近い何頭かはもう気付いており、俺の方を見上げて威嚇している。
「最悪何発か攻撃を貰っても回復液がある」
と決死の覚悟を決め、更に速度をあげた。
ライオンたちの頭上のそろそろ差し掛かった、にもかかわらず。
「あれ?」
威嚇だけで誰一人として動かない。
爪の先端が光っていたので攻撃態勢ではあるのだろうが、あちらから仕掛けてはこなかった。
「ラッキー……なのか?」
俺の実力を過大評価してくれたのか、それとも俺の真意を察してくれたのか、はたまた罠か、わからないがとにかく急いで通り過ぎる。
速度を上げたおかげで追っかけてきていたアイツも無事巻けたようだ。
ライオン達が見えなくなった辺りで速度を落とすと目的の最初に乗ってた木が見えた。
唯一根元からへし折られてるのでわかりやすい。
「さてさて、荷物荷物~っと」
ムスコの角度を調整し、地面に向けて緩やかに生やし降りる。
そして周辺の木の根元を探す。
幸い、荷物はすぐに見つかった。
不幸なことにさっきの騎士さんが持っているのを見つけた。
(い、生きてたのか)
と小声で一人ごちる。どうやら戦いは痛み分けに終わった模様。
(どうやって取り返そう、アレにはいろいろ入ってるのに――)
「何者だ」
至高を遮る言葉と共に首筋に当てられるヒヤリとした冷たい金属。
加えてテンプレートのような脅し文句。
瞬時に理解する。俺はアホだった、相手が一人な訳がない、まずいことになった。
しかも今回は対処困難ときた。
でも、俺はこういう時の行動はよーくわかってる。
「こ、こんにちは~」
と振り返りながら降伏だと言わんばかりに両手を上げ、俺ははにかんだ。