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体調不良と飲み物問題


 異世界に飛ばされてから4日目、俺は強烈な腹痛で目を覚ました。


 昨日は持っていた飲みかけのお茶と食べかけのパンで済ませた。

 食料どころかいまだに水辺も見つけられていないので、こっちの飲食物には一切手を付けていないのはずなのに元の世界でも味わったことのないような信じられない激痛だった。 


「し、死ぬ……」


 本日何回目かわからない泣き言を漏らす。

 時間が経つほどに症状は悪化し、今では倦怠感、下痢、吐き気、多分熱もあるんじゃないだろうか。食あたりとかのレベルじゃない。のたうち回る辛さだ。

 まさかこっちに来て最初に行き当たる困難がこういうものだとは思わなかった。

 しかも切実だ。節約しているトイレットペーパー代わりのティッシュも底をつきそうだ。

 スマホの時計を確認すると12時、こちらの世界と元いた世界に時差はあまりないらしく、日が昇り起床したのが7時なので5時間も唸って蹲っていることになる。あまりよろしくない。

 何故なら、体調が悪いと当然浪費するのは水分、節約しなければならないが意識も朦朧とするので飲む。そろそろ飲み切りそうだ。早く水源を見つけないと体調も備蓄も文字通り絶体絶命だ。


「こっちに来てから何も食べてないはずなのに……病原菌でも貰った?」

 

 考えうる最悪のケースはこれだ。しかしもう一つ思い当たる節もあった。


「回復液って、もしかして飲んじゃいけないやつ?」


 用法が明らかに塗り薬だった。もしかしなくてもコレの可能性は高いだろう。

 鑑定の巻を開いてみる。そこには【状態異常:異常】となっていた。


 

「異常ってなんだよ。もっと具体的な内容出せよ……」


 こっちに来てから何回目かわからない文句だった。

 しかし俺はめげないししょげない。何故なら俺には切り札があった。


「ザイオンさんが言ってたこの解熱草を煎じて飲めば、きっと治る!」


 解熱草、名前の通り解熱効果があるのだろう。無かったら名付け主を末代まで呪う。

 そう決意した俺は必死の思いで立ち上がると、近くにあった石を手に取った。

 そして能力を使う。石から男性器が生え、形だけは石棒になった。

 見栄えは最悪だが煎じるときにこの形は便利だ。俺はこの能力に初めて感謝した。


「あれ?」


 ここで俺はあることに気づいた。生えたムスコのサイズが元の石よりも大きいのである。俺はてっきり、生えるときは対象物の一部分を変形させているのだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。質量を無視して文字通り「創造」しているのだ。


「すごい……けど、マジでどうしようもねぇな」


 質量は無視できても腹痛を和らげることはできないし、結局のところ【ち〇こ無限創造】には変わりないのだ。喜びはなく、俺の胸中には空しさだけが残った。

 さて、哀愁に浸っていても何も始まらないので活動を開始する。

 活動と打っても木の根の上に解毒草を乗せてひたすら煎じるだけである。

 こうして煎じて出てきた汁を菓子パンの袋にある程度溜めて飲むのだ。


 ゴリゴリゴリゴリ、と静かな森に響くのは病的に青白い顔をした男が石のムスコで奏でる解熱草のシンフォニー、しかしその脳裏に何も思うことはなく、ただただ楽になりたい、それだけだった。

 そうして小一時間ほど経過しただろうか、多少こぼしてしまったのはやむを得ないがいい感じに溜まったと思う。


「よーし、イケそうだぞ」


 袋にたまった汁をお茶と一緒に飲み干す。口内に広がる圧倒的な苦みと野草独特の臭み、つまりは


「マズッ!!!」


 案の定だが激マズだった。もう滅茶苦茶マズかった。

 小学生の時にキャンプで食べた野草なんかとは比べ物にならなかった。


「良薬は口に苦しって言うし我慢我慢。ついでに残った草も食べちまうか」


 煎じた意味はいったい何なのか、しかし体調不良に浮かされた俺にはそんな矛盾を自覚する余裕はなかった。実際、空腹だったのも大きいだろう。

 解熱草をモサモサ食べる。マズい。

 しかし、効能は確かなようで食後15分もしないうちに体温が徐々に下がっていくのを感じた。

 だが、この時の俺も浅はかだった。








 ――3時間後


「さ、寒い……」


 回復液であんなにも高い効能を体験したのに、同様の高い効果がこの解熱草にないとなぜ考えなかったのか。

 解熱草の効果はてきめんだった。

 しかし、摂取しすぎた。鑑定の巻も【状態異常:大異常】となっている。


「いや、だから症状を出せって……」


 ツッコミも弱弱しくボヤく程度になる。寒さに震え、動けない。震えにより歯がガチガチと鳴る。

 元来の体調不良に加えこの低体温、疲れも溜まってもう限界だった。

 加えて仕方ないのだが最悪なことに、飲み物も食料もこの3時間で尽きた。丸4日を飲みかけ食べかけの飲食物で済ませたのだ。頑張ったと思う。


「そもそも水さえ飲めれば……恨むぜ、クソ能力……」


 そう一言言い残し、力尽きた俺の視界は闇に包まれた。 








 だがしかし、意外と死ななかった。

 目を覚ますと究極にのどが渇いたが、身体はとても元気だった。


「死ぬかと思った……」


 水分が足りていない為、乾ききった口からかすれ声が出る。

 パターンは違えど普通に死にかけた。

 しかも今回は不注意による自業自得なので洒落にもならない。

 安心していいのかどうかは分からないが、とりあえず危機は去ったので安堵のため息をつく。


「気絶してから丸三日も寝てたのか」


 スマホの画面に表示されている日数から逆算するとそうなる。

 こちらの1日が24時間じゃないとしても、恐らく時差は少ないので合っているだろう。

 念のため鑑定の巻を開く。【状態異常:水分不足】となっていた。


「改善されたのか微妙な表記だな」


 しかしまぁ、期待はしないに越したことはないのでスルーする。そして俺は鑑定の巻の新しい変化を見つけた。

 【耐性:猛毒耐性、変温耐性】となっていた。


「死にかけた特典だな」


 よく生き延びたもんだ、と感慨深く思う。我ながら悪運の強いことだ。

 だがしかし、変化はこれで終わりじゃなかった。特能の欄も変化していた。

 【特能:アンリミテッド・サン・クリエイト―液体抽出】


「液体抽出ぅ?」


 確かに気絶する前に水が飲みたい的なことを言った気がするが、こっちにも変化があるとは思わなかった。しかし、これは重畳。今現在水分不足と表記されるほどには身体に水が足りていないのだろう。

 早速使ってみる。


「とりあえず、木に生やしてみるか」


 水をくれ!!と願いながら特能を使う。するといつものようにムスコが生えたのだが、その根元にはひねりがついていた。よく小学校の水飲み場にある360度回して水を出す形のひねりだ。

 とりあえず回してみると、ムスコの先端から水が勢いよく飛び出した!

 蛇口と同じシステムでこちらがひねりを回して閉じない限りは水は止まらないようだ。

 流れ出ている水はとても澄んでいて無色無臭、今すぐに飲んでも体調に支障はきたさないだろう。

 しかし俺はすぐには手を出さなかった。いや、出せなかった。


「絵面が最悪すぎる」


 そう、絵面が最悪すぎるのだ。

 確かに、男性器の正しい機能としてはそこから水分を輩出するものなのだが、それから出た水を飲む飲み方に問題があるのだ。例えるなら、小便小僧が出している水をダイレクトに飲もうと思えるか、といった感じだろう。

 噴出孔の根元に口をつけるなんて論外だし、曲芸のように離れた位置から飛んできた水を飲むのもなんか抵抗がある。結論として俺は『ペットボトルに貯めて飲む』を選択した。ビバ現代技術。


「これはこれで尿検査みたいだな……」


 水を溜めつつ思ってはいけないが不意に思ってしまったことボヤく。

 しかし、ムスコから出た水はとてもおいしく、結果30分ほど貯めては飲み続けた。


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