能力と所持品
絶叫から半日くらい経過しただろうか、もう周囲は夕闇に染まっていた。
俺はザイオンさんの亡骸を離れ、森の中をあてもなく彷徨っていた。
小剣と色々入った袋はリュックに詰め込んだ。
色々と頂いた恩義もあるのでザイオンさんの遺体はしっかりと埋葬なりしてあげたかったが、土を掘ろうにも一人ではとてもな重労働だった。
簡素でとても申し訳ないのだが、近くに落ちていた鎧とセットになっていると思しき兜を彼に被せた。
「せめてもの供養になってるといいけど」
しかし俺はその作業中も呆然としていた。
夜は危険とは承知しつつも、今現在まで時間経過も感じないほどに呆けていた。
よく考えてみてほしい。俺は能力者バトルモノの宝庫である現代日本に生まれ、幼少のころから汚れた顔の入れ替えによる回復から高圧電流の放出までいろいろ能力を見た!見て育った!数多のマンガ、ラノベを読み!アニメも見て、中二病も患った!ついにはなんとオタクのあこがれ、異世界転生まで果たした!あんなに痛い思いまでして果たしたのに!得たものが!能力が!スキルが!ギフトが!【ち〇こ無限創造】だぞ!
「どうしようもねぇよーーーーーー!」
本日何回目かわからない独り言大絶叫。
ちなみにさっき試しに使ってみた。出たよ、残念ながら。
直径14CMほどで所謂『元気な状態』の男性器が地面から生えた。
この能力は生やそうと思った場所の材質に左右されるらしく、土塊のムスコが誕生した。
能力範囲は半径10Mほどで範囲内なら創造は思いのまま、しかも本数制限はなく文字通り無限だ。
接触したモノなら範囲ルールがなく、木に試してみたら15Mほど上方の地点で水平にニョキっと生えた。
そして消滅は射程関係なく思いのままだった。
結論すると嬉しくない。貰い物だが全く嬉しくない。
「なにこれクソ能力!!そもそも名前がダメだよ!名が体を表し過ぎだよ!これじゃあ叫べないじゃん!!使うときに能力名叫べないじゃん!せめて……こう【アンリミテッド・サン・クリエイト】とかさあ!なんかあるだろ!」
我ながら英語力とネーミングセンスが乏しいと思った。だから浪人するのだ。語学、大事。
すると突然、上着のポケットに無造作に突っ込んでいた鑑定の巻が煌々と光りだした!
「ど、どうした!」
鑑定の巻を急いで開く。そこには――
【特能:アンリミテッド・サン・クリエイト】
と書き換わっていた。鑑定の巻を怒りのままに地面に叩きつける。
「いや!そうじゃねぇよ!チェンジだよ!!能力そのものをチェンジだよ!!」
しかし俺のツッコミも空しく、まったく光らない。うんともすんとも言わない。
そして怒り疲れ、歩き疲れた俺は適当な木の下に座り、そこを今日の寝床とすることにした。
もうほぼ周囲を見通せない程に暗くなった。
やはり夜に歩くのは危険だし、スマホの充電は無駄にできないし、ちょっと寒いし、早く寝るに限る。もう不貞寝だ。
だが、やはり疲れていたのだろう。リュックを枕にしてフードを深く被り、瞼を閉じるとすぐに眠れた。
そして願わくば、これが夢でありますように。そう祈ると意識は途切れた。
夢オチとかそんなことはなかった。現実は非常である。
目を覚ますと相も変わらず木、木、木である。
「鳥のさえずりで目を覚ますとか、マンガかよ……」
ハハッ、と乾いた笑いが零れた。
そして一拍おいて、腹も鳴った。
「そう言えば、昨日は何も食べなかったっけか」
別に意図的に節約した訳ではなく、ガッカリして食べる気にならなかったのだ。
俺はリュックの中から昨日拝借した小瓶を取り出す。
これが本当に回復薬なのか、とりあえず試してみるのだ。
「勿体ない気はしなくもないが、どの程度の回復が望めるのかを確認しておきたいしな」
昨日怪我した指先の怪我は大体は塞がってしまったので、リュックから小剣を取り出し、別の指先を傷つけた。ちょっと失敗したらしく、思ったよりも深く傷つけてしまったようだ。
少し焦りながら小瓶の蓋を開けて、中の緑色の液体をちょっとかけてみた。
するとみるみる傷は塞がり、元々傷なんか無かったかのように綺麗になった。
「おお、あの怪我をここまで治せるのか……」
これなら絆創膏要らずである。
ここで好奇心が少々芽生えた。
「じゃあこれ、飲んでみるか」
小瓶の中身を1/3ほど飲む。
硬い土の上で寝たため身体がガッチガチだったこともあり、疲労回復効果があれば嬉しいなぁ、なんていうかなり浅はかな動機からの行動だ。
「まっ!にっが!!」
良薬は口に苦しとはよく言うが、回復薬は苦いなんてレベルじゃなかった。
もう舌全体を破壊する苦さで、マズいと言おうとして言えないくらいに苦かった。
残念ながら目に見える変化はなかった。
「疲労回復効果はないのか……外傷専門か」
俺の持つロープレ知識などがそのままならば恐らくは状態異常なども治らない。
傷の回復液なのだろう。しかし、傷に関しては効果はてきめんなのでそこは期待できる。
万が一があってもある程度なら残り2本の回復液で賄えると思った。
結局朝ごはんはこの回復液だけで済ませることにした。
「実際、食べかけのパンしかないしな。節約節約」
ところが、この行動が後に悲惨な事態を巻き起こす事をこの時の俺は知らなかった。
結局この日は一日歩き倒したが、人のいる集落どころか川すら見つけられず、日が暮れた。
細かく能力を描写するのが怖いですね
ギリギリを攻めたいです。