表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

よくある転生直前のイベント


(やっぱり慣れないことはするもんじゃない)

 

 そんな普遍的な反省を心中で一人ごちる俺は今にも事切れそうだった。

 理由はよくある交通事故、しかしその原因はまるでフィクションのようで、道路に飛び出した女の子を助けたら俺自身は間に合わずに車と衝突したというもの。


(事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ)


 そして俺はもろに乗用車とぶつかった結果、ボールのように道路から弾き飛ばされ、今はボロ雑巾のように路上に転がっている。緩やかに流れ出て全く止まらない痛みを全身で大絶賛体感中だ。

 具体的には、眼前が真紅に染まり、口の中は鉄の味、関節が増えたようにひしゃげた左腕、感覚は熱いのか寒いのよくわからないけど気持ち悪い。呼吸を試みると胸を刃物で刺されたように痛い。全く動けない。


(痛い……)


 不明瞭な感想しか出てこない。頭に血が回らない。恐らく脳に届く前に頭部の割れたであろう部分から大量に出血してるせいだ。


(泣かないでほしい……)


 ざわめく周りの歩行人達と、必死に俺を励ます知らない声。

 そして何よりも耳障りなくらいに良く響くのは助けた女の子の悲壮と驚嘆に満ちた泣き声。


(せっかく助けたんだから、泣かないでほしい……)


 大丈夫、と言おうとしたら激痛と喀血、より一層騒ぎ立てる周囲の声、これはもうどうしようもない。慰めることを諦めることにした。


(親父とお袋に申し訳ねぇなぁ、これ保険降りるかな)


 現状、なにもできないと分かると次にやってきたのは家族への万謝だった。

 血の足りてない脳裏を駆け巡るは罪悪感の走馬灯、幼稚園時代のイヤイヤから始まり、妹との喧嘩、高校時代の反抗期、1年だけだが浪人してしまったこと、そしてせっかく大学に入った1か月後の大学帰りにこの有様、親不孝もいいとこだ。


(なんともご迷惑をおかけしました)


 捻り出した謝罪の言葉と共に思い描くのは自分の死後の諸々。

 仮に辛うじて生き残ったとしても、無情に死んだとしても、入院費や葬儀代その他の費用はかかるので、せめて保険金がいっぱい降りてほしい。そしてその余ったお金で旅行にでも行ってほしい。俺も行きたい。


(あれ?思い残すこといっぱいあるな)


 やっと欲と悔恨がやってきた。

 まだ最終回を迎えてないアニメ、やり残したゲーム、発売日を待ってたマンガ、夏の超大作映画などなど、突然の衝撃で忘れていたが、やり残したことはいっぱいあるし、やりたいこともいっぱい思い出した。だがしかし、現実に広がっているのは、痛みで全く動けない現状と名状し難い気持ちの悪さと肌寒さによる全身の支配、そして初めて理解する死に近づく実感。うっすらと意識も遠くなってきた気がする。


(もしかして、俺このまま助からない?嫌だ……嫌だ……いやだ!)


 不意を突いて襲い掛かってきた死の恐怖に対して抗うようにもがく。自分でも何をしているのかわかっていないが、血反吐を吐き、背後から忍び寄ってくる死神の鎌から逃れようと、その場から離れようと必死に蠢く。そんな意味不明な、出血を伴う悪あがきをやめさせようとまたもや周囲の声がうるさい。


(いやだいやだいやだいやだ!このまえ!はたちになったばかりだぞ!じんせいこれからなのに!!)


 悔み、嘆き、怯え、震え、そんな全てを振り払うようにあがくほど酷い痛みに蝕まれ、徐々に意識が遠のく。もう考える言葉すらも朧げになる。


(まだ……かのじょもつくったことないのに……しにたくないよぉ)


 人間がその人生を振り返って最後に出てくるもの、走馬灯の終着点、残りカス、俺の場合は非常に残念なことに冷たい悲涙と熱い性欲だった。


(しぬほど…ち〇こつかいたいよぉ……)


「その願いかなえて差し上げましょう」


 今際の際の心の声に何故か答えた不思議な一言を聞いた直後、俺の意識はついに見えざる手に捕まり、引きずり込まれるように、深い闇に蕩けて消えた。



色々と初めてなので頑張ります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ