#097 護衛報酬と新たな依頼
昨日SWの話してたから通貨単位がごっちゃになったんやな……_(:3」∠)_
伯爵閣下に先に名乗らせておいて、俺が名乗らないというわけにもいかない。俺はすぐさま口を開いた。
「傭兵ギルド所属、ゴールドランク傭兵のキャプテン・ヒロです。礼儀作法には自信が全くありませんので、無礼があったら何卒ご容赦を頂きたい。こちらの二人は私の船、クリシュナに共に搭乗するクルーで、こちらが副操縦士のエルマ、そしてこちらがオペレーターのミミです。後ろに立っているのはメイドロイドのメイです」
「エルマと申します」
「ミ、ミミと申します」
「メイと申します」
俺に紹介されたエルマとメイが恭しくダレインワルド伯爵へと頭を垂れ、ミミもなんとかそれに続く。どうもミミはダレインワルド伯爵を前にして気後れしているようだな。生粋の帝国人なわけだし、帝国貴族に対する畏怖も一番大きいだろうから当然か。
「うむ……座るが良い」
「はい」
俺達全員が席に着くと、テーブルの上にお茶が再び用意された。例の真っ赤な紅茶である。真紅茶とでも表現したほうが良いのだろうか? いや、もう紅茶でいいか。
「まずは感謝の意を表させてもらおう。ダレインワルド伯爵家の継嗣たるクリスティーナを保護し、守り抜いたその働き、見事である。ダレインワルド伯爵家当主としても、クリスティーナの祖父としても貴公らには感謝している」
「勿体なきお言葉……と本来は言うんでしょうが、正直かなり大変ではありましたね、ええ」
「ちょっと……!」
「事実は事実として報告すべきだろ。クリスからも勿論話は聞いているんだろうが、俺達の口からもダレインワルド伯爵にはしっかりと報告するべきだ」
脇腹をゴスゴスと突いてくるエルマの肘を防ぎながら持論を展開する。
「そうだな。クリスティーナから一通り事情は聞いたが、貴公らからも話を聞いたほうが良かろう」
という寛大なダレインワルド伯爵の一声で俺の主張の正当性が証明された。ドヤ顔をしたら鋭い肘打ちが俺の脇腹に突き刺さった。酷い。
そして俺は所々ミミやエルマ、それにクリスにも補足してもらいながら俺達がどう動き、どのように襲われ、どうやってクリスの身を守ってきたのかをできるだけ詳細にダレインワルド伯爵に話した。
シエラ星系に辿り着いて早々に宙賊に襲われ、その戦利品の中にクリスのコールドスリープポッドがあったこと。見捨てるわけには行かないので、そのコールドスリープポッドをシエラプライムコロニーに運び込んだこと。港湾管理局でコールドスリープを解除し、そうしてクリスと出会ったこと。
「ふむ、クリスティーナが貴公らと出会ったのは本当に幸運なことであったな」
「はい。それもこれもあの船から脱出させてくれたお母様とお父様のおかげです」
「そうだな……」
しんみりとした雰囲気となるダレインワルド伯爵とクリスの様子を見ながら紅すぎる紅茶で喉を潤し、話を続ける。
クリスから漂流に至る事情を聞き、報酬を対価に彼女を守るという依頼を受けたこと。クリスの叔父の手の者から放たれる刺客を撹乱するために複数のリゾート惑星で宿泊の予約を入れたこと。出港した途端に刺客に襲われ、これを撃退したこと。滞在先のリゾート惑星が宙賊に襲われ、その襲撃を隠れ蓑にしてステルスドロップシップから降下してきた戦闘ロボットと戦ったこと。俺の個人的な伝手を頼ってセレナ少佐の率いる対宙賊独立部隊と行動を共にしたこと。そして、クリスの叔父の働きかけで動いたと思しき帝国航宙軍所属の戦闘艦隊に襲撃され、対宙賊独立艦隊と共にこれを撃退したこと。
「そしてシエラプライムコロニーに戻ってきたところでついに伯爵と見えたというわけです」
「なるほど……うむ、クリスティーナから聞いた話とも矛盾は無いようだ。必要経費の支払いも含め、十分な報酬を約束しよう」
「ありがとうございます」
その言葉が聞きたかった、とか言ったらエルマに首を絞められそうなので自重しておく。とりあえず俺としては経費を含めて十分な報酬が与えられるなら何の文句もない。クリスのような美少女を助けて大金を稼ぐことも出来る。最高だな。
あん? クリスが美少女じゃなかったらどうしてたって? クリスが美少女じゃなく美少年でも、おっさんでもなんでも俺が助けたいと思うような相手だったら助けてたと思うよ。クリスが美少女であったことによって助けたいという気持ちがより強く働いた、という点に関しては否定のしようもないけどな! 当たり前だよなぁ?
「金額の詳細は後で詰めるとして、この後はどうしますか?」
「ふむ……」
俺の言葉にダレインワルド伯爵は顎を撫でて少しの間考え込んだ。
「儂がすぐに動かせる戦力は可能な限り連れてきたが、二線級とはいえ正規軍の戦闘艦隊に狙われて無事で居られるかどうかはわからん。そちらにその気があれば引き続き護衛として雇わせてもらおう」
「俺としては報酬次第でその依頼を受けたいと思います。二人はどうだ?」
「私もそれで構わないわ」
「わ、私もそれで構いません」
エルマとミミも引き続きクリスを護衛することには異存は無いようだ。メイにはこう言った場での発言をするつもりはないだろうから最初から聞かない。
「では、報酬の話をするとしよう。まずは今までのクリスティーナの護衛に関してだな」
ダレインワルド伯爵の秘書官もその場に呼ばれ、報酬に関する協議が始まった。
その結果、追手の撹乱のために使った資金を含めてリゾート惑星で使ったエネルに関しては全額補填。その他に護衛の報酬として500万エネルが支払われることになった。流石上級貴族様だな。800万エネルPONとくれたぜ。これが伯爵様にとってのクリスの命の値段ってことだな。
ただし、シエラⅢで買ったものとはいえ流石にメイの購入資金に関してはクリスの護衛に必要な経費としては補填はされなかった。そりゃそうだな。正式に受領したのはついさっきであるわけだし、ついさっき受け取ったのであればクリスの護衛には何ら寄与していないと見做されるのは仕方のないことである。
これにセレナ少佐から受け取ったペリカンⅣの護衛料金24万エネルを入れて、ミミとエルマの分け前を引いてざっくりと計算すると、俺の所持金はおよそ2440万エネルになった。
シエラⅢへの滞在中に使ったエネルや、オリエントコーポレーションの受付嬢に唆されて購入したメイのケアをするための各種用品、オプションパーツ、その他諸々に使った金も含めて雑に差っ引いてそんな感じだ。
ちなみにペリカンⅣの護衛とクリスの護衛でミミとエルマに入った分け前はそれぞれミミが41200エネル、エルマが247200エネルである。エルマはそろそろブロンズランクの傭兵が乗るようなクラスの船ならギリギリフルカスタマイズできるくらいの金額が手元にあるんじゃないか? 俺への返済は今の所1エネルも無いけどな!
別に構わないけどね。エルマと一緒に居られるのは楽しいし、頼りになるし。
しかし2440万エネルか。これだけあればクリシュナを収容できるような母艦に手が届きそうだな。カスタマイズすることを考えるともう少し資金が欲しいけど。
今までの分の報酬の精算が終わったから、次は『これから』の分の報酬の話だ。
「ゴールドランク傭兵を雇用する際の平均的な護衛料金は一日あたり8万エネルとされていますが、今回に関しては一日あたり25万エネルという金額を提示させていただきます」
そう発言したのはダレインワルド伯爵の秘書官であるとクリスが言っていた壮年の男性であった。一日あたり25万エネルとは中々の太っ腹である。セレナ少佐なんて一日8万エネルきっかりしか払ってくれなかったのに。
しかしそれでも三倍以上というのはちょっと解せない。高い分には勿論構わないのだが、何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
俺が提示された金額に内心首を傾げていると、エルマがそっと耳打ちをしてきた。
「色々と事情があるんだろうけど、要は口止め料も込みってことよ。今回のダレインワルド伯爵家のゴタゴタに関して吹聴してくれるなよってことね」
「さっき事情を説明した時に話したけど、セレナ少佐にはガッツリ話してしまっているんだが?」
「それも織り込み済みだと思うわよ。ダレインワルド伯爵家のゴタゴタ、というかクリスの叔父がやらかしたアレコレはダレインワルド伯爵家がひっくり返りかねないスキャンダルだけど、ステルスドロップシップの件や、帝国航宙軍に離反部隊が出た件は帝国の威信を揺るがしかねないスキャンダルよ。帝国とダレインワルド伯爵家でその辺りは内々に上手くやるから、吹聴するなってことね。もし今回のアレコレを吹聴して回ったらダレインワルド伯爵家だけでなくグラッカン帝国も敵に回しかねないから気をつけなきゃダメよ」
「ヒェッ……お口にチャックしとくわ。ミミも重々気をつけてくれよ」
「は、はい」
エルマの説明を聞いたミミも顔を青くして頷いた。そんな俺達をダレインワルド伯爵家の方々がじっと見つめている。伯爵自身は無表情で。クリスは苦笑いを浮かべて、そして秘書官の男性は微笑を浮かべて。こええよ。
「その条件で受けさせてもらおうと思います」
「それは良かった。補給と『掃除』にもう数日かかりますので、そちらも出港準備を進めておいてください。傭兵ギルドにはこちらから手を回して、本日付けで依頼を出しておきます」
「了解」
掃除、と妙に強調して言ったのを華麗にスルーして頷いておく。どう考えても穏当な感じじゃないので、深く考えないようにしよう。帝国の上級貴族を敵に回すと怖そうだなぁ、ハハハ。
そういうわけで今までの護衛報酬を受け取り、新しい護衛契約を結んだ俺達はダレインワルド伯爵家軍の旗艦を後にすることになった。
「それでは、また明日からよろしくお願い致します」
厳ついお兄さん達の護衛を引き連れて見送りに来てくれたクリスがそう言ってペコリと頭を下げる。
「ああ、任せておけ」
「はい、クリスちゃんのために頑張りますね!」
「もう心配要らないと思うけどね」
見送りに来てくれたクリスに三者三様の言葉を返してその場を後に──しようと思ったところで俺はあることを思い出して足を止め、踵を返した。そして着ているジャケットの内側に手を伸ばして目的のものを引っ張り出す。
おおう、別に武器を取り出そうってわけじゃないんだからそうやってレーザーライフルを構えるのはやめて欲しい。チビりそうだ。
「クリス、この首飾りだが」
俺がジャケットの内ポケットから取り出したのは、コールドスリープポッドで目覚めたばかりのクリスに護衛を依頼された時に護衛料の肩代わりとして受け取った首飾りであった。薄紫色のきれいな宝石で飾られた瀟洒な作りの逸品だ。
「はい、まだ持っていてください。私の護衛はまだ終わっていないでしょう? 私の騎士様」
ダレインワルド伯爵家軍の艦隊は俺から見てもなかなかの戦力のように見えるし、俺の出る幕はもう殆どないと思うんだけどな。まぁ、クリスがそう言うならもう少しの間だけ預かっておくとするか。
「……姫様がそう望むならそうしましょう」
「はい、そうしてください」
俺の返事にクリスが微笑みを浮かべる。うーん、美少女。いかにも貴族の娘さんらしい白いドレスに身を包んだクリスは、どこからどう見ても貴族のお姫様であった。
「それじゃあ、また」
「はい、また」
微笑を浮かべるクリスと、彼女を警護するレーザーライフルを装備した厳ついお兄さん達に見送られながら俺は再度踵を返す。
整備も補給も終わってるし、明日からは待機しているだけで一日25万エネルの夢のような日々だな。クリスが伯爵家軍の旗艦に移った今となってはクリスの叔父の手の者が俺達を狙う理由も無いだろう。久々に羽を伸ばせそうだな。
「逆恨みして殺しに来るかも知れないからまだ油断はできないわよ」
「そんなー(´・ω・`)」




