#092 危機一髪
大変おまたせしました!
原稿も一区切りつきまして、暑さで崩し気味だった体調もなんとか復調してきましたので更新を再開します!
相変わらず月曜と木曜はおやすみをいただきますが_(:3」∠)_
騎兵隊たるセレナ少佐の部隊が到着し、戦場と化していた宙域に束の間の静寂が訪れ――。
「機関停止どころか一向に攻撃が止む気配が無いのですが?」
訪れなかった。相変わらず俺が張り付いている戦艦はクリシュナを振り切ろうと回頭と加減速をひっきりなしに行い、数の減った敵小型艦はクリシュナを戦艦から引き剥がそうと果敢に攻撃を加えてきている。
『繰り返す! 直ちに戦闘行動を中止し、機関を停止せよ! 貴艦らの行動は帝国法及び帝国軍規を著しく犯している! 従わない場合は帝国軍法六条三項に従い、貴艦らを撃沈する! 直ちに応答し、機関を停止せよ!』
明らかに怒りを滲ませた声で再びセレナ少佐が警告するが、奴らの行動は止まらない。というか、輸送船であるペリカンⅣには一切目もくれず、執拗に俺達の乗るクリシュナを狙ってきている。奴らの狙いは明白であろう。
「止まるかしら?」
「無理じゃないか?」
「無理なんですか?」
「彼らの狙いは明らかに私でしょう。一体叔父がどのような伝手を使い、どのような手段をもって彼らを差し向けてきたのかは想像もできませんが、彼らに退路は無いのでしょうね」
クリスが静かな声でそう言う。流石に戦闘中によそ見をする余裕は無いのでその表情を窺うことはできないが、神妙な声音であった。恐らく可愛らしい顔を曇らせているに違いない。クリスのような可愛らしい子を悲しませたり、あまつさえ殺そうとしたりするクリスの叔父とやらはとんでもない悪人だな。間違いない。
『ヴェストールの損害は考慮するな。全艦兵装使用自由』
『……了解、全艦兵装使用自由』
クリシュナのコックピットにけたたましいアラート音が鳴り響き始めた。それと同時に残存していた小型艦や駆逐艦、巡洋艦から無数の熱源が発射される。
ウェポンズフリーというのはつまり、全ての武器を使用しろという許可である。この場合は、俺が張り付いている戦艦への被害を考慮せず、高威力の武器を使ってクリシュナを爆発四散させろって意味だな! ははは!
「正気かこいつら」
「ミサイル来るわよ!」
『全艦兵装使用自由! 敵艦を撃破せよ! 撃ち方始め!』
もはやこれまでと判断したのか、セレナ少佐が独立艦隊に攻撃命令を下す。こうなってはクリシュナも戦艦に張り付きっぱなしでは居られない。張り付いている戦艦への被害も厭わずに爆発兵器で面制圧などをされたらひとたまりもない。戦艦が撃沈する前にクリシュナが粉々になってしまう。
「ぬおおおぉぉぉぉっ! 畜生め!」
「くっ!」
「ひぅぅ!」
「ぐうぅっ!」
敵戦艦に張り付くことを諦めて今度は一気にクリシュナを加速させ、敢えてミサイル弾幕の端に突っ込む。同時に散弾砲を連射して進行方向に存在するシーカーミサイルを迎撃、誘爆させた。そしてそのまま誘爆によって発生した爆炎に突っ込む。
「っしゃ上手くいった!」
誘爆を逃れたシーカーミサイルが一瞬爆炎の中に消えたクリシュナを見失って見当違いな方向に飛んでいく。どうやら爆炎に突っ込んだ瞬間にエルマもフレアをバラ撒いていたようで、そちらにもかなりの数のミサイルが誘導されていったようである。流石だな。
だが、これで全ての困難を乗り越えたわけではない。俺達は敵巡洋艦の目の前に飛び出した形になるのだ。今この瞬間にも巡洋艦の大型レーザー砲がクリシュナに向けられていることだろう。
「チャフ!」
「わかってるわ!」
レーザー砲のロックオンを阻害するチャフをばら撒きながら回避機動を行うが、流石にまともに正面から突っ込む形となるため全てを回避するのは不可能だ。コックピットにアラート音が鳴り響き、敵の攻撃を受け止めたクリシュナのシールドが青白く明滅する。流石に巡洋艦級の主砲となると、強固なクリシュナのシールドもそう長くは保たないのだ。
「シ、シールドが!?」
「大丈夫だ、まだ慌てる時間じゃない」
「ヒ、ヒロ様は落ち着いていますね」
慌てるミミを宥めながら巡洋艦のうちの一隻になんとか取り付く。それと同時に、背後から凄まじく威力の高そうな光条がつい先程までクリシュナが存在した空間を貫いていった。恐らく敵戦艦が回頭を完了し、こちらに向かって主砲を撃ってきたのだろう。
「うーん、スリル満点」
「あんたは絶対バカだと思うわ」
「今の当たってたら私達……」
「大丈夫大丈夫、計算通りだから」
嘘だけど。
シールドも飽和直前だったから、今のが直撃してたら流石にクリシュナも大ダメージを受けていただろうな。流石に一撃で粉砕ってことはないだろうけどな。クリシュナは装甲もグレードの高いものを装備しているから。滅茶苦茶高かったんだぜ。
などとゲームとしてステラオンラインを楽しんでいた頃の思い出を振り返りながら巡洋艦の攻撃を回避していると、不意に俺が盾にしていた巡洋艦に大量のレーザー砲撃が着弾した。
「やべっ」
すぐさまクリシュナを加速させて巡洋艦の爆発範囲から逃れる。当然他の巡洋艦や戦艦の主砲がクリシュナを狙ってくるが、それよりも早く再びのレーザー砲撃が敵巡洋艦や戦艦に降り注いだ。
クリシュナを主砲で狙うために無防備に晒された敵艦の横っ腹や艦底に向けてセレナ少佐率いる対宙賊独立艦隊が攻撃を加えたのだ。
「一発掠ったわね」
「攻撃目標の近くでウロチョロしてたから仕方ないっちゃ仕方ない」
「そうしなかったらとっくに撃墜されていたと思います」
敵艦よりも新型艦が多い上に、火力の高い巡洋艦の数で勝る対宙賊独立艦隊の攻撃が次々に敵艦を無力化していく。ある艦は機関部を喪失させられ、ある艦は推進装置を破壊され、ある艦は主武装を配置している上部甲板に大被害を被ったようだ。
駆逐艦やコルベットは既に撃破されているようで、もうまともな戦闘能力を有しているのは戦艦一隻のみである。
「やれやれ、状況終了ってとこかね?」
そんな状況で、俺は推進装置をやられて動けなくなった巡洋艦の陰にクリシュナを隠していた。この段になっても敵戦艦がクリシュナに向かって主砲をぶっ放してくる危険性が拭えないので、大事を取っているのだ。
「あの、隠れてて良いんですか?」
「この状況になってわざわざリスクを冒す必要はないだろう」
「そうね」
「そうですね」
ミミの疑問に俺が答え、エルマとクリスが同意する。ここで『やぁやぁ我が名はキャプテン・ヒロ! 貴艦に一騎打ちを申し込む!』とか言って飛び出していったらただのバカである。次の瞬間に凶悪な威力を誇る戦艦の大口径レーザーを食らって爆発四散すること間違いなしだ。
そもそも、俺達を襲ってきたこいつらは帝国軍所属の軍人らしいので、自己防衛以外で積極的に手を出していくのは少々リスクが高い。何せ目の前に味方とは言え生粋の帝国軍人が他にもいるのである。下手なことをしたら俺達までお縄につくことになりかねない。だから俺は対艦反応魚雷も使わず、張り付いた巡洋艦に積極的に手を出すこともせずに直接俺達を狙ってきた小型艦のみを撃破していたのだ。
セレナ少佐達が助けに来ない状況だったらもっと積極的に撃破していってただろうけど、まぁその時はクリシュナも無事では済まなかっただろう。撃破される可能性もゼロでは無かったと思う。今回は危うくシールドも飽和しかけたしな。
『繰り返す、機関を停止せよ。趨勢は決した、これ以上の犠牲は無意味だ』
暫くの沈黙の後、敵戦艦が機関を停止した。
『こちら戦艦ヴェストールの副長、ロマンド・ケストレル少佐であります。当艦は機関を停止し、そちらの指示に従います』
『結構。艦長はどうされたか?』
『艦長のオイゲン・ヘラスミス大佐は『自決』され、私が指揮を引き継ぎました』
『……そうか。負傷者の救出を開始する。受け容れ準備をしておけ』
『はっ』
一体どのような経緯で帝国軍が俺達を付け狙ってきたのかは一向にわからないが、とりあえず戦闘はこれで本当に終結したらしい。機関を停止した戦艦ヴェストールにセレナ少佐の戦艦レスタリアスが接舷し、その他に行動不能に陥っている巡洋艦にも対宙賊独立艦隊の巡洋艦が接舷していく。これから敵艦を制圧し、各所を掌握していくのだろう。
しかし自決ね。疑わしい言葉だなぁ。
「終わったんですね……?」
「多分ね。まだ油断はできないけど」
「そうだな。いきなり機関を再始動して攻撃してくるかもしれないしな。もう少し様子を見てからペリカンⅣに帰還しよう」
そう言って俺はコックピットに浮かんでいるグラビティスフィアに手を伸ばし、よく冷えた炭酸抜きコーラのようなドリンクを一口飲んだ。アァー、戦闘で消耗した五臓六腑に甘ったるいドリンクが染み渡るぅー。
え? 炭酸飲料はどうしたかって? カーゴに置いてあるよ。飲もうとしてクリシュナの中でボトルを開けたら、振ってもいないのに噴き出して俺を含めた全員が炭酸飲料塗れになって以後艦内で炭酸飲料を開封することは固く禁じられた。なんで艦内だと爆発するんですかね? 気圧とかの関係? 人工重力の関係? わがんね。
「メイ、無事か?」
『はい、機能に異常なし。損傷はありません』
「ならよし。戦闘はほぼ収束したが、ペリカンⅣに戻るまでは不意の戦闘機動に備えておけ」
『了解』
さてさて、あとはのんびりと待つとしようかね。じきにセレナ少佐の部隊が攻撃してきた帝国軍の船を制圧するだろうからな。
久々にFallout4をMODマシマシでやろうと調べてみたら、主人公やコンパニオンを物凄い可愛いキャラにできるMODが……Fallout4で萌える日が来るとは夢にも思わなかった_(:3」∠)_




