#008 少女
これは本日投稿二話目だよ!_(:3」∠)_
「このエルマさんに案内をさせるんだからこれくらい安いもんでしょ?」
未知の素材で出来たボトルのようなものにストローを差しながら残念宇宙エルフがドヤ顔をする。
「そっすね」
と、食料品店を出てふと視線を横に向けると、とんでもないものが目に入ってきた。
「……っ! やっ、やぁ……ッ!」
「大人しくしろよてめェ」
「ひひ……ようやく捕まえたぜ」
「ちょっと小汚くなってるが、まぁ使えそうじゃねぇか」
「早くヤっちまおうぜ。もう我慢できねぇよ」
今まさに路地裏に引きずり込まれそうになっている少女と、彼女を捕らえ、押さえつけて路地裏に引き込み、押し込もうとしている野卑な雰囲気のチンピラ達だ。会話の内容から、これから奴らがあの少女に『ナニ』をしようとしているのかを想像することは容易い。
「やめときなさいよ」
レーザーガンのグリップに手をかけ、足を踏み出そうとした俺のズボンのベルトが引っ張られる。予想するまでもない。俺を引き止めた犯人はエルマだった。
「お前、あれを見捨てろってのか?」
「あの子、アンタの知り合いなの?」
「いや、違うが……」
問答をしている間に必死の抵抗をする少女が徐々に路地裏へと引きずり込まれていく。彼女の目が俺を捉えた。助けを求める視線が俺を貫く。
「なら関係ないでしょ。放っておきなさいよ」
「お前……」
「あんたね。あんなの銀河中のどこにだってよくあることよ。ああいうのを見かける度に首を突っ込むつもり? 命がいくらあっても足りないわよ。自分の面倒も自分で見られない奴は食い物にされるだけ。ここであんたが一時的に助けても、この先生きのこれないわよ」
彼女の意見はとてもドライで、とても正しかった。俺は神でもなければスーパーヒーローでもない。それこそ、自分で自分の面倒を見るのも覚束ない半人前の傭兵もどきである。
「あんたは英雄譚の英雄じゃないのよ。船を持っているだけのただの人だわ」
エルマが喋っている間にも少女は男達に抱え上げられ、路地裏へと消えていく。彼女の視線は俺を捉え続け、その手は俺に向かって伸ばされていた。だが、その手は決して俺には届かない。
「そうだよなぁ……」
エルマの言うことは正しい。
だが、それは本当に『俺にとって』正しいことなのか?
「とでも言うと思ったか!? この冷血残念エルフが!」
それは断じて否である。ここで見捨てたりしたら寝覚めが悪いったらありゃしない。ふとした拍子にあの子のことを思い出して定期的にテンションがだだ下がりになること請け合いである。
そんなのは御免だ。
「ちょっ!?」
俺はズボンのベルトを掴むエルマの手を振り払い、荷物を捨てて路地裏へと駆け出した。ホルスターのレーザーガンを抜き、グリップの感触を確かめる。レーザーガンの出力は一応最小にしておく。
「観念しろってんだよ!」
「暴れるんじゃねぇ。痛くされないとわかんねぇか?」
「やっ……やぁ……っ」
「こんなのは一発ぶん殴れば大人しく――」
路地裏で少女を組み伏せているチンピラの一人が腕を大きく振り上げた。
俺はごく自然な動作でその腕に向かってレーザーガンの銃口を向け、引き金を引き絞る。
ビュンッ、と電子音じみた音が鳴り、赤い閃光が薄暗い路地裏を赤く染め上げた。それと同時に男の悲痛な声が響き渡る。
「ぎいぃぃぃっ!?」
俺の放ったレーザーは狙い違わずチンピラが振り上げた拳に命中した。銃なんて撃ったことも無いんだが、まぐれ当たりにしては思い通りにいったな? FPSで培った経験が参考になるとは到底思えないんだが、上手くいく分には好都合だ。
「なっ!?」
動揺するチンピラどもに向かって俺は引き金を引く。何度も引く。
その度に路地裏に赤い閃光が走り、男達の悲鳴が上がった。期待通り、威力を最低にすれば人を死に至らしめるほどの威力は出ないようである。
「いでぇぇぇぇ!」
「あっ! あっ!? ああぁぁぁぁっ!?」
「アイイィィィィ!?」
死なないだけでかなりの苦痛を伴うようだが。動けなくなられても困るので、程々に痛めつけたところで声を張り上げる。
「とっとと行け! 次は火傷じゃすまんぞ!」
チンピラどもは怯えた表情を見せながら這々の体で路地の奥へと消えていった。
後に残されたのはレーザーガンを手にした俺と、仰向けに壁に寄りかかり、衣服を乱された状態のまま驚いたような顔で俺の顔を見つめている少女だけだ。
俺は彼女の横を通り過ぎ、男達が逃げていった方向にレーザーガンを構えたまま彼女に声をかけた。
「俺が警戒してる間に服を直せ。路地から出るぞ」
「……っ! はい!」
少女が泣きそうな声で返事をして、ごそごそと身繕いする音が背後から聞こえてくる。俺は銃口を路地の奥に向けたまま少女の様子を窺う。これが実はあいつらとグルで、いきなり背中を刺されましたとかだと笑えないからな。
特に心配したようなことも起きず、身繕いをした少女が俺の方を向いた。視線でこの路地に入ったきた方向に行くように指示すると、彼女は泣き腫らした赤い目をしたまま頷き、駆け足で路地の入り口へと向かった。俺もその後を追う。
「おかえり」
路地から出ると、俺が捨てた荷物を手にしたエルマが出迎えてくれた。顔にははっきりと呆れの表情が浮かんでいる。
「どうすんのよ、その子」
「どうするって……」
少女に視線を向けると、少女もまた俺に視線を向けていた。互いに見つめ合う。
こうしてみると少々薄汚れてはいるが、なかなかに可愛らしい顔立ちの少女だ。背は小さい。俺と頭一つ分半くらいは違うだろう。しかし体格の小ささに対して実装されている胸部装甲の厚さは冷血クソ残念エルフとは比べ物にもならない。ロリ巨乳という概念は創作の中にだけあるものだと思っていたのだが、実在するものであったらしい。
俺を見つめる瞳の色は明るいブラウンで、髪の毛も同じく明るい茶色だ。顔立ちは子犬系とでも言えば良いのだろうか? 美人というよりは可愛らしいという感じだ。着ている服は薄汚れている上に先ほどのチンピラ共にやられたのか少しボロくなってしまっているな。
「見つめ合ってないで答えなさい」
「おう、何も考えてないぞ。先輩、どうするのがまずくて、どうするのが一番だと思う?」
「そうよね、何も考えてないわよね。聞いた私が馬鹿だったわ。それじゃあね」
エルマはため息を吐き、手に持っていた荷物を俺に押し付けると踵を返して歩き出した。なるほど、そう来るか。
「あーあー、エルマ先輩は後輩から報酬だけ巻き上げて中途半端に放り出す人だったのかー」
俺の言葉にエルマが立ち止まり、ピクリと長い耳を震わせる。
「仕方ないなー、そういう人だったと見抜けなかった俺が悪かったなー、偉大な先輩だと思ってたのになー」
言葉を続けると、ピクリピクリとエルマの耳が動く。もう一押しか。
「やっぱ貧乳陰険冷血残念エルフよりも傭兵ギルドのおっさんを頼るかー、後輩を見捨てるなんて見損なっちゃったなー」
「ぶっ殺すわよ」
ついに我慢しきれなくなったのか、物凄い速度で戻ってきて俺の胸ぐらを掴み上げた。おお、怖い怖い。
「流石エルマ先輩! やっぱりエルマ先輩は後輩といたいけな少女を見捨てるような人じゃなかった! 凄いなー! 憧れちゃうなー!」
「わざとらしすぎるっての……はぁ、どうして私がこんな面倒事を……」
「良い暇つぶしになるだろ? 頑張れ♡ 頑張れ♡」
「今すぐ口を閉じなきゃその舌を引っこ抜くわよ」
「サーセン」
俺が謝ると、エルマは溜息を吐きながら目を覆った。ははは、暇つぶしのために俺に声をかけたのが運の尽きだったな! 諦めてくれ。
「私の一番のオススメは無視されたのだけど、次の忠告は聞くのかしら?」
「それは内容次第ですなぁ。俺も彼女もニッコリな感じで良い感じによろしく」
「……」
物凄く嫌そうな顔をされた。そんな顔するなよ、美人が台無しだぞ。
「あんたの具体的なビジョンは?」
「俺の船に乗ってもらうのが良いんじゃないかと。身の回りの世話とか情報収集を任せようかなって」
「身の回りの世話ねぇ……あんた、こういう子が好みなわけ?」
「好み……? 可愛い子だとは思うよ」
口に出しては言わないけどおっぱい大きいし将来有望だと思います。女の子に視線を向けると、なんだか祈るみたいに手を組み合わせてじっと俺を見上げてきていた。心なしか顔が赤いようだし、身体も震えているように見える。
「というか、今まさに襲われかけていたのに立ち話もなんだな。とりあえずどっか座って落ち着けるとこ行こうぜ」
「……あんたの奢りよ」
「アイアイマム。ほら、行こう。悪いようにはしないから。歩くのが辛かったら掴まっても良いぞ」
「……はい」
少女はコクリと頷くと、遠慮がちに俺の服の裾を摘んできた。もっとしっかり握っても良いんだぞ? このジャケット頑丈そうだし、そう簡単には伸びないだろうから。
ロリ巨乳も良いものだと思います。ふぁんたじー_(:3」∠)_