#087 防衛機構
悲惨な事件で気落ちしている方も多いと思いますが、どうにか心を平静に保っていきましょう……_(:3」∠)_
やぁ、君達のヒーロー、キャプテン・ヒロだぞ。
浜辺に落ちた戦闘ロボットを容赦なく破壊した俺達は前進してなんとかロッジまで辿り着いたんだが、ロッジはそれはもう凄惨な状態になっていた。窓のガラスは戦闘ロボット降下時の衝撃波か何かで全て割れ、流れ弾──流れレーザー? でも当たったのか、ロッジには焦げて爆発したような痕も多く見られる。
とまぁ、そんな悲惨な状態のロッジだが、遮蔽物として身を隠すのにはまだそれなりに役に立つので、俺達はロッジの傍に潜伏していた。
え? 一刻も早くクリシュナに行くべきじゃないのかって? そりゃそうだな。それができればな。
「あの中に飛び込んでいくのは無理ねぇ……」
「死んじゃいますね」
「自殺行為ですね」
「はい。大変危険です」
ロッジの直ぐ側にある生け垣に隠れている俺達の視線の先では球状の物体が変形したらしい戦闘ロボットと、この島の防衛戦力と思われるロボットが死闘を繰り広げていた。
敵側の戦闘ロボットは球状の機体下部が三つに割れてそれが三本の脚になっているようだ。球状のボディの上半分も変形し、レーザーを発射する武器腕が四本展開されている。なかなか高火力な機体のようである。
対する島の防衛戦力はなんというか……個性的である。岩みたいなカニっぽいやつ、どう見てもゴリラにしか見えないやつ、機械めいた犬のようなもの、地面から生えているレーザー砲台、レーザーライフルを持ったメイドロイド……あ、ゴリラが突進して敵の戦闘ドロイドをぶっ壊した。流石ゴリラ、ゴリラは強い。
「しかしクリスの叔父様はこんなことをやらかして当局の追求を逃れられるのかね……?」
「どうだかね。案外足がつかないように上手くやってるのかも。一切エネルを使わず、レアメタルだけを使って賊に資金援助、戦闘ロボットの入手ルートにも気を遣ってるとかかしら。反応弾を使わなかったのもそういうことかもね」
俺の呟きを聞いたのか、エルマが自分の推測を口にする。
「どういうことですか?」
「リゾート惑星に反応弾なんて撃ち込んだら帝国も黙っちゃいないでしょ。徹底的な捜査で尻尾を掴まれるんじゃない? だから、恐らく自分が御することできるギリギリを攻めてきているんじゃないかしら」
「帝国はそんなに反応弾を危険視しているのか。その割に管理が緩くないか?」
前に帝国の隣国であるベレベレム連邦に反応弾頭を搭載した対艦魚雷を使ったんだが、スムーズにとは言えないがちゃんと補給はできたんだよな。
「傭兵なんてそう数も多くないしね。きっちりマークはされてると思うわよ?」
「そうなのか……まぁそうか」
そもそもそんなことを言い出したら反応弾どころの話じゃなく、コロニーや宇宙ステーションを攻撃できる戦闘艦そのものが規制されるか。どういった経緯で傭兵のような存在がこの宇宙で生まれ、認知されてきたのか。ちょっと興味が湧いてきたな。
「ヒロ様、クリシュナは無事なんですか?」
エルマと話をしているとミミが心配そうな声でそう聞いてきた。なるほど、それは心配だよな。
「ああ。さっき端末から遠隔でシールドを起動しておいたから多分大丈夫。しかし、今思えば俺かエルマは常に船に残ってた方が良かったのかもな」
「後知恵ね。そもそも惑星の防衛機構を突破してここにピンポイントに攻撃してくるとは思わなかったし」
「皆様の安全を守ることが出来ず大変申し訳なく思っております」
メイが屈んで生け垣に身を隠したままペコリと頭を下げた。
「うーん、俺達が持ち込んだトラブルみたいなもんだしなぁ……」
これって襲撃で壊れた施設の弁済とか俺達がすることになるんだろうか? 嫌だなぁ。
「とにかく援護射撃をするか。皆は顔を出すなよ」
生け垣から上半身を出してレーザーガンを構え、息を止める。すると、急に回りの時間がゆっくりと動くように感じられた。そんなゆっくりと動く世界の中で俺はレーザーガンの照準を防衛ロボットと交戦している敵側の戦闘ロボットに合わせ、レーザーガンを連射する。
ゆっくりと動く世界の中でもレーザーはまさに光の速度で対象に着弾する。一発、二発、三発、四発、五発、五発当てた所で戦闘ロボットの武器腕がこちらに向き始めた。
「──ッ!」
その武器腕のうち一本の銃口目掛けてレーザーガンを二連射すると、銃口から飛び込んだこちらのレーザーが武器腕の内部で炸裂でもしたのか、武器腕が半ばから吹き飛んだ。
なるほど? 銃口部が弱点になってるのか。そろそろ息が苦しくなってきたので急いで生け垣の中に身を隠し、荒く息を吐く。
「はっ! はぁ、はぁ……」
「ヒロ様……」
「大丈夫だ」
息を整え、少し移動して生け垣の横から身を乗り出すようにして息を止め、今度は敵戦闘ロボットの武器腕を積極的に狙っていくことにした。敵の火力を低下させればこちら側の防衛戦力が敵を仕留めてくれるだろうからな。
武器腕の銃口目掛けて二連射を浴びせ、敵ロボットの火力を奪っていく。そうすると、敵の火力が低下したことを察知したこちら側の防衛ロボットが猛然と反撃を開始した。岩カニ型のロボットがシャカシャカと図体に見合わぬスピードで敵戦闘ロボットに接近し、見るからに強靭な鋏を振り回して殴りつける、叩き潰す、ちょんぎる。ゴリラ型のロボットがタックルをかまし、倒れた敵戦闘ロボットに強靭な腕を叩きつける、叩きつける、叩きつける。猟犬型のロボットが敵戦闘ロボットに群がり、噛みつき、爆発する。え? 爆発!? 自爆兵器なのかあれ!? こえぇよ!
一度均衡が崩れたらもう止まらない。速やかに敵戦闘ロボットは排除され、戦闘は終了した。
「ハウンドが付近を索敵中です。安全確保が確認されるまで少々お待ちください」
「ああ」
生き残りの猟犬型ロボットが四方に散っていった。猟犬型というかなんというか、スケルトン型? 最低限のパーツで構成されて生物らしい被覆も一切ないメカニカル犬だな。自爆装置を積んでるとかおっかねぇわ。
岩カニとゴリラロボットは俺達の護衛につくようだ。岩カニはこれは……装甲の代わりに岩石が使われているのか? 不思議な機械だな。ゴリラ型ロボットはレーザー攻撃を受けたのか、ところどころ毛皮が焦げて機械が露出している。普段は森の中でゴリラに擬態しているのだろうか……? 何のために……? あ、森林の管理をしているのかな。じゃああの岩カニは……? 木の剪定でもしてるのだろうか? この島には不思議がいっぱいだな。
暫くして安全が確認されたので全員でクリシュナに乗り込む。メイドロイド達や岩カニ、ゴリラロボも付き添って護衛してくれた。俺的にはこの岩カニが一番お気に入りだな。なんせデカい。見上げるくらいデカい。ぜひ乗ってみたい。
「なんとか無事にクリシュナに乗れたのは良かったな」
「そうですね、ホッとしました」
「すみません……私の事情に巻き込んでしまって」
「気にしなくてもいいわよ。私達だって善意だけで貴方を守っているわけじゃないしね」
「素直じゃないなぁ」
素直じゃないことを言うエルマに本当の事を言ったらめっちゃ睨まれた。そんなに睨んでもダメだぞ。傭兵としての威厳を保つためにそういう憎まれ口を叩いているってのは完全にバレバレだからな! 必至に背伸びしてる子供みたいで可愛いけど。
「これからどうするんですか?」
「どうするって言ってもなぁ……わざわざこの星の防衛プラットフォームと宙賊がドンパチしているところに突っ込むってのは無いだろう?」
「無いわね。騒ぎが収まるまでクリシュナの中で大人しくしてるのが一番よ。いざとなったらこの星から避難するって手も使えるしね」
エルマの言う『いざとなったら』というのはシエラⅢの防衛プラットフォームが宙賊に破壊されて宙賊がシエラⅢを蹂躙し始めたら、という意味だろう。或いは赤道にあるという物資集積地点に隕石爆撃が着弾してシエラⅢ自体に危険が及んだ場合とかだろうか。
「実際のところ、戦況はどうなんだ?」
俺達と一緒にクリシュナに乗ってもらったメイに聞いてみると、メイからは意外な言葉が帰ってきた。
「はい。対宙賊作戦を専門とする帝国軍の独立部隊が現れ、現在当惑星の防衛プラットフォームと連携して宙賊を掃討中です。程なく排除は完了するかと」
「対宙賊独立部隊」
「……あの人ですね」
「あの子はヒロを追いかけてでもいるのかしら……? 随分と執念深いというかなんというか……ストーカー?」
「?」
戦慄する俺達の様子を見てクリスが不思議そうに首を傾げた。
☆★☆
「へくちっ!」
「少佐、風邪ですか?」
「いえ、体調は万全のはずだけど……なんか急にくしゃみが。どこかで謂れのない中傷を受けたような……?」
「後でメディカルチェックを受けたほうが良いと思います」
「そうね……そうするわ。それにしても着任早々この事態とはね。良い機会だから徹底的にやりなさい」
「イエスマム!」
今までの行動のせいで偶然なのに謂れなき中傷を受ける残念美人少佐_(:3」∠)_