#080 事前準備
朝食を終えたら俺も身支度を整え、水着を穿いて海へと向かった。男はこういう時は楽で良いよな。スポーンと脱いで履けばそれで準備完了だし。肌寒くなった時に備えて一応パーカーは着てきた。小型情報端末もパーカーのポケットの中だ。流石にレーザーガンは置いてきたぞ……いくらなんでも海に遊びに行ってレーザーガンを使うことはないだろうし、あんな物騒なものを腰に下げたまま泳ぐのもどうかと思うしな。
「一足先に行ってるぞー」
そう声をかけて階下に降りる。
「ミロ、何か用意していったほうが良いか?」
「はい。いいえ、ビーチには既に海水浴のご用意をさせて頂いております。パラソルやビーチチェア、飲み物や日焼け止めなどですね」
「そうか、それじゃあ俺は一足先に向かうとする」
水着と一緒に購入したビーチサンダルをつっかけてロッジのリビングからも見えていたビーチへと向かう。確かに昨日は見当たらなかったビーチパラソルやビーチチェアが設置されているのが遠目にも見えるな。一体いつから用意してあったのだろうか?
ビーチに接近すると三体のメイドロイドが待機しているのも発見できた。軽食を用意できそうな屋台のようなものを置いて、そこで待機している。一応日が当たらないように配慮してるんだな。
歩きながら視線を向けているとフリフリと三人とも手を振ってきたので、俺も振り返しておく。俺に手を振り返されたメイドロイド達がにこやかに微笑んだ。うーん、機械なのに良い笑顔だ。まぁこの世界、というか帝国で幅を利かせている機械知性はベースがベースだからな……ああいう所作と言うか、人間の男性に対する効果的な対応については研究が進んでいるんだろうな。
というか帝国の主要種族は人間なんだな? 見るからにって感じの異星人を目撃したことはあるし、銀河のどこかにはそういう種族が運営している銀河帝国もあるんだろうな。ちょっと興味がある。
俺の上半身裸なんぞ勿体ぶるもんでもないので、早速パーカーを脱いでビーチチェアに置いておくことにした。肌を撫でる潮風が心地良いな。
足を攣らせたりしたら危ないので、早速準備運動を始めることにする。運動をする前のストレッチは実際重要である。これで怪我や事故を少しでも減らせるなら安いものだ。
なんだか視線を感じる、と思ったら三体のメイドロイドがこちらに視線を送ってきていた。何かな? まさかメイドロイドが俺の肉体に興味を持つということもあるまい。謎の視線だ……まぁ気にすることでもないか。
そうやって待っていると、ロッジの方から水着を着たミミ達が歩いてきた。ふむ……三人とも俺と同じように上着を着てきているようだな。まぁ妥当な判断だと思う。今は晴れているから暖かいけど、日が陰ったりしたら肌寒くなるかもしれないしな。海に入って身体が冷えるかもしれないし。
「お待たせしました」
「いや、俺が着替えるのに時間がかからないだけだから。三人とも、海に入る前に準備運動は怠るなよ。溺れたら大変だぞ」
「もし溺れたらすぐに救助されると思うけどね。多分水中に救助ロボットが待機してるわよ?」
「至れり尽くせりだな。でも、溺れるのは怖いし苦しいぞ?」
「そうですね、私もそう思います。ヒロ様、準備運動を手伝ってくれますか?」
「手伝うほどのものか……? まぁいいけど」
なんて言っていると、ミミがエルマとクリスに先んじて上着を脱ぎ、その姿を白日のもとに晒した。
「えと……どうですか?」
「とても素晴らしい」
両手を後ろに回してもじもじするミミに親指を立てて答える。ミミの水着は白い布地に黒い縁取り入ったシンプルなデザインのビキニだった。
正にデカァァァァァいッ説明不要!! ってやつだ。他に必要な言葉などありはしないな。なむなむ。
「何拝んでるのよ……」
ミミの水着姿に手を合わせていると、エルマが呆れたような声を上げた。そんなこと言ってもお前、これはちょっとなかなか見られないと言うか、奇跡的な肉体だと思うぞ? 背が低いのにこの大きさは何度見ても凄いって。
「ミミばっかり見てないでこっちも見なさいよ!」
「痛い痛い痛い」
耳を引っ張られてエルマの方を向かされる。
「ほう」
「何よ、そのほうってのは」
「いや、エルマは本当に細いし程よく鍛えられてて綺麗な身体してるよなと」
エルマの水着は黒いスポーツタイプのビキニだった。胸部装甲の厚さはミミとは比べるべくもない。悲しいが、それが現実だ。しかし、お腹のくびれや腰からお尻へのラインはまるで芸術品のようである。
「大変素晴らしい」
エルマも拝んでおく。ペシッと頭を叩かれた。何故だ。
「あ、あの、私の水着はどうでしょうか?」
遠慮がちなクリスの声が聞こえてきたので、視線を向ける。
「これはまた……ハマり過ぎでは?」
何故スク水? しかも紺色の旧スク。ささやかに膨らむ胸元の白い名札には大きく『くりす』と書かれている。何故ひらがな? 古代文字とかいうやつか?
「に、似合ってますか?」
「似合ってはいると思う。似合いすぎて怖いくらいだ」
主にジロジロ見ていたらおまわりさんが呼ばれそうという意味で。黒髪おかっぱ少女の旧スクとか狙い過ぎでは? クリスは名前がクリスティーナとかいうバタ臭い名前なのに顔は完全に日本人顔なんだよな。そういや名前からしてあからさまに日系企業みたいなのがチラホラあるんだよな……アルファベットとか日本語を古代文字扱いしている節があるし、やはりここは地球が存在した銀河の遥かな未来なのだろうか?
「ほら、準備運動しましょう。ミミは私と組むわよ」
「はいっ」
「ヒロ様、願いしますね」
「ああ」
準備運動をするクリスを手伝う……のだが。
「クリス、身体柔らかいな」
「そうですね、身体の柔らかさには自信があります。ヒロ様、後ろから押してくれますか?」
「ああ」
180度に開脚したクリスの背中を押すと、クリスの身体がほぼピッタリと砂浜にくっついた。ヨガか何かかな?
ちなみにエルマもミミも身体は柔らかい。ミミは船に乗った直後はそうでもなかったのだが、毎日トレーニングルームで筋トレとストレッチをしているうちに柔らかくなったらしい。エルマは元からみたいだったな。
俺? 俺も元々はガッチガチだったけどミミと同じでトレーニングルームで身体を動かしているうちにだいぶマシになった。
「よーし、準備運動も終わったようだし、早速泳――ミミは多分泳げないよな?」
「はい、初めてです」
「エルマは?」
「私は泳げるわよ」
エルマの言葉に俺は頷き、次はクリスに視線を向ける。
「私も泳げます」
「そうか。じゃあまずはミミに泳ぎを教えるかな」
「それが良いかもね。でも、その前に日焼け止めを塗ったほうが良いわよ」
「それもそうか。おーい」
手を振って声を掛けると、バスケットのようなものを持ったメイドロイドがテクテクとこちらに歩いてきた。
「はい。お呼びでしょうか」
「日焼け止めを用意してあるという話だったよな? 日焼け止めをくれるか?」
「はい。宜しければ浮き輪などの遊泳具もご用意いたします」
「お、それはいいな。頼むよ」
「はい。お任せください。日焼け止めは各種ご用意がございます。クリーム、ジェル、ローション、こちらはスプレータイプですね」
「……効果の違いはあるのか?」
「はい。いいえ、どれもほぼ完全に日焼けを防止します。質感の違いですね」
「なるほど」
それぞれ手にとって手の甲に塗り拡げて質感を確かめる。うーん、俺はローションタイプが良いかな? とても塗り拡げやすい。ミミは俺と同じローションタイプ、エルマとクリスはクリームタイプを選んだようだ。
「それじゃあ塗り合いましょうか。背中は自分では塗れないしね」
「それじゃあ俺はミミとかな。同じタイプの日焼け止めだし」
「はいっ、じゃあヒロ様には私が塗りますね」
「……私もローションタイプにすれば良かったかしら」
「……失敗しました」
「別に減るもんじゃなし、好きなだけ塗れば良いと思うが……」
いや、日焼け止めローションは減るか。それはそれとして、俺の身体なんて触りたいなら好きなだけ触れば良いよ。抓ったり擽ったりしないなら別に構わんぞ。
「じゃあそうしましょうか、ほら、シートを敷くから寝っ転がりなさい」
「へいへい」
エルマがバスケットから取り出して敷いたシートの上にうつ伏せに寝っ転がる。すると、ヒヤリとした感触が背中にした。日焼け止めローションを垂らしたらしい。
「背中、広いですね」
「そうね、まぁ体格は悪くないと思うわよ」
クリスの言葉にエルマが答える。三人の手が背中や腕を這い回る感覚が微妙にくすぐったい。多分右の肩甲骨の辺りを撫でている小さい手がクリスで、腰のあたりを撫でているのはエルマ、首や左肩を撫でているのがミミだな。
「はい、背中側は終わったわよ。仰向けになりなさい」
「え、いや前は自分でできるだろ」
「満遍なく塗るならちゃんと他の人に塗ってもらった方が良いわよ。塗りそこねたところだけ日焼けしたらかっこ悪いわよ?」
「む、確かに」
エルマの言う通りだな。塗り残しがあったら確かに格好悪いことになりそうだ。俺は素直に仰向けに寝っ転がり直すことにした。
「わ、わ……腹筋が」
「ヒロ様は毎日のトレーニングを欠かしませんから」
「程よい感じよね。これくらいを維持して欲しいわ」
「お前ら……」
クリスが顔を赤くしながら興味津々といった様子で俺の腹筋を撫で、エルマが俺の腕を取って丹念に日焼け止めローションを塗り拡げ、ミミは首や鎖骨の辺りに妙に熱心にローションを塗っている。エルマははともかく、クリスとミミは本来の目的を忘れてないか?
「はい、塗り終わったわよ」
「さんきゅ。真面目にやってたのはエルマだけだったように思えるな」
「わ、わたしも真面目にやってました、よ?」
「わ、わたしもですよ!」
「おっ、そうだな。じゃあ次は俺が塗る番だな。エルマはクリスに塗ってやってくれ」
「はいはい」
エルマがもう一枚シートを敷き、そこにクリスを寝かせてクリームを塗り始めた。俺はミミと場所を交代してうつ伏せに寝てもらう。
「お、お願いします」
「任せろ」
そう言ってミミのビキニの紐を解く。
「ふえぇ!?」
「いや、ちゃんと塗らないと駄目だしそりゃ解くだろ……」
「そ、そうですよねっ」
そもそもお互いの裸なんていくらでも見ているし色々と今更だと思うが……それはそれ、これはこれか。気を取り直してミミの背中にたっぷりと日焼け止めローションを垂らしていく。
「んんっ……!」
「冷たくてビクってするよな。ちょっと我慢しろよー」
「ん、はい。ヒロ様の手が温かいです」
ミミの背中に日焼け止めローションを塗り拡げていく。うーん、お肌がもっちりというかぴっちりというか、きめ細かいなぁ。いつまでも触れていたくなるような手触りだ。
だが、俺は自制できる男である。真面目にミミの背中全体に満遍なく日焼け止めローションを塗り拡げ、次に肩、腕、首や耳の裏などにもしっかりと塗っていく。
「次は下半身だなー」
「な、なんだか妙に恥ずかしいです」
ビキニのボトムの紐も解いて下半身全体にしっかりと日焼け止めローションを塗り込む。ミミは本当になんというか……うん、素晴らしい肉体の持ち主だよな。船に乗ったばかりの頃は少し痩せ気味だったが、俺の船に乗ってしっかりと食べて運動をした結果、とても良い感じに育ってくれていると思う。本人はもう少し細くなりたいとかボヤいていることがあるけど。
こっそりとミミのAIトレーナーに細工をし続けた甲斐があったというものだな! 是非この感じを維持して欲しい。おっぱいもいいですがふとももも良いものだと思います。
「よし、塗り終わったぞ」
「ありがとうございます」
「じゃあ次は前だな」
「んっ……はい」
ミミは顔を赤くしながら身を起こし、今度は仰向けに寝転がった。俺の目の前にたゆんと揺れる胸部装甲はもはや凶器である。紐を解かれたトップスはもはや申し訳程度にしかその本来の機能を発揮していないのだ。また手を合わせて拝みたくなってくるが、そんなことをしていたらエルマにタイキックを食らいそうなので心を無にして日焼け止めローションを塗っていく。今この瞬間、俺は限りなく悟りに近い境地に在るな。間違いない。
「ん、んんっ」
日焼け止めローションを垂らす度にミミが艶めかしい声を上げる。くっ、神は俺を試しているのか……ッ!? 考えてみれば、クリスを船に保護してから俺は禁欲中なのだ。鎮まれ、俺の中の獣よ! 今はお前の出るべき時ではない!
なんとか全精神力を注ぎ込んで内なる獣を押さえつけ、ミミの全身に日焼け止めローションを塗り終えることには成功した。が、俺の精神は激しい戦闘をこなした後のように疲弊しきってしまった。
「ヒロ様?」
「ちょっと休憩する」
水着を装着しなおしたミミが声をかけてきたが、俺はそう言って目を瞑り、瞑想を始めた。色々と落ち着かなければならない。そう、色々と。そうだ、ターメーンプライムコロニーの傭兵ギルドにいたおっさんの顔を思い出そう。
「何をやっているんだか……」
「私ももう少しすれば……いえ、いっそコンフィギュレーターを使って……」
エルマが呆れたように溜息を吐き、クリスが自分の胸元をぺたぺたと触りながらぶつぶつと何かつぶやいている。コンフィギュレーターってなんなのか知らんけどやめたほうが良いと思います。ありのままのクリスでいてくれ。
「お待たせいたしました。色々とご用意させていただきました」
俺がシートの上に座ったまま精神統一をしていると、三体のメイドロイドが大量の浮き輪を抱えて現れた。スタンダードなドーナツ型の浮き輪だけでなく、ちょっとしたボートのような大きさのようなものや、イルカ型のもの、サメ型のものなど様々だ。イルカはともかく何故サメ。いや別に良いけど。
「無理に泳がなくてもまずは浮き輪でプカプカ浮いてるだけでも楽しいよな」
「そうね。まずはスタンダードに浮き輪で遊ぶのも良いと思うわ」
「私はこれを使いたいです」
そう言ってクリスがサメ型の浮き輪を抱えた。エルマは大きめのドーナツ型浮き輪を選んだようだ。
「ヒロ様、どれを選べば良いですか?」
「スタンダードなドーナツ型が良いだろ」
エルマが選んだのより一回り小さい通常サイズの浮き輪を選んでミミに渡す。エルマが選んだやつはあれだな、真ん中の輪っかにお尻を入れてプカプカ浮かぶやつだ。
「ヒロ様は使わないんですか?」
「とりあえずは良いや。後で使うかもだが」
最初は浮き輪を使うミミの傍についていようと思ってるし。
「さぁ、早速遊ぶぞー」
こうして俺達は海水浴を始めた。俺も海で遊ぶのは久しぶりだから楽しみだな。
誰にどんな水着を着せるかとても悩んだ……特にクリスに旧スクを着せるかマイクロビキニを着せるか最後まで悩んだ……!_(:3」∠)_




